11月14日(火)

\天晴れ!夢の頂上決戦/


  当 馬 記 念 


開催期間:11月13日~11月17日


〇当馬記念とは


・ここまでに獲得したポイントを賭けて行う【ボーナスミニゲーム】です。


・この【ゲーム】において、「当て馬」と呼ばれる人間が、校内に3人います。彼らを探し出して「接触」し、ポイントを獲得してください。


・「当て馬」とは、立花瞬または瀬良康太に、特別な感情を抱いている人間を指します。【当馬記念】開催期間中、彼らはゲームマスターの干渉により、普段よりも積極的に行動を起こします。


・「当て馬」への「接触」は、その「当て馬」が特別な感情を抱いている方が行ってください。


・【当馬記念】開催期間中は、彼らとの「接触」でのみポイントを獲得できます。


・当て馬にはそれぞれ「オッズ」が決められています。1.1倍・5倍・40倍の3パターンです。


・当て馬に接触すると、「その当て馬のオッズ×現時点の獲得pt計」によって算出したポイント数が「払い戻し」されます。

 例:5倍×2,085,106pt(当馬記念開催時点獲得pt計)=10,425,530pt(←この数値が最新の獲得pt計になります)


・一度、ポイントを獲得した当て馬から、再度ポイントを獲得することはできません。


・【当馬記念】開催期間中に、ポイントの獲得が全くなかった場合、通常の【ゲーム】と同様の【ペナルティ】が課されます。


※【当馬記念】開催に伴い、今週の【ノルマ】の指示はありません。


○攻略のヒント

・立花瞬または瀬良康太に対する想いが強い「当て馬」ほど、オッズが高い傾向にあります。積極的に狙ってみてくださいね。(当て馬全員と接触する必要はありません)



______________



「なあ、立花。さっきの授業なんだけど──」


「森谷」


休み時間。授業で使っていた現代文の教科書を机に仕舞っていると、ふいに、近寄ってきた森谷に声を掛けられる。


顔を上げると、キャンパスノートを抱えた森谷が、笑顔で俺に言った。


「短歌を詠む授業だったろ。それで、俺……早速、短歌作ってみたんだけど。ちょっと聞いてくれるか?」


「え?森谷が短歌を?すごいね。どんなの?」


「へへ……それはな」


森谷が、少し照れ臭そうに人差し指で鼻を擦る。俺はそんな森谷を微笑ましく見ていた。授業で聞いたことを生かしたくて、早速短歌を作って、俺に聞かせようとするなんて……森谷ってやっぱり、人懐っこい性格なんだな。


気恥ずかしそうな森谷に「聞かせてほしいな」と俺は促す。すると、森谷はキャンパスノートを開いて、こほんと咳払いして言った。


「あー……これは、俺から立花に捧げる短歌だ。聞いててくれ」


「うん」


俺に作ってくれた歌……どんな歌なんだろう──俺は少しドキドキしながら、頷く。

森谷は、すう、と息を吸ってから、その歌を詠んだ。



瞬の肌


 掠める空風


  寒いだろ?


   俺がカイロさ


     腋に挟めよ



「えっと……?」


決して馴染みのない言葉が使われてるわけではないのに、俺には少し……森谷の歌は難しすぎるみたいだ。

正直なところ、どう反応すべきか分からず、とりあえず「おー」と拍手をする。


すると、森谷は照れ笑いを浮かべながら、頭を掻いて言った。


「──大昔はさ。こうやって、好きな人に短歌を捧げて想いを伝えてたんだよな。な、どうだった?俺の歌は」


「良いもクソもあるか、変態」


「ってぇ!?せ、瀬良!」


そこへ康太がやってきて、背後から森谷の頭を叩く。康太は森谷の手からキャンパスノートを掠め取ると、さっき森谷が開いていたあたりを読んで、眉を顰めながら言った。


「てか、何だよ。脇に挟めよって。カイロは脇に挟まねえだろ」


「『脇』じゃねえよ。『腋』だ。間違えんな」


「うるせえよ」


「てか、うるせえのは瀬良の方だろ。俺と立花の束の間の楽しい逢瀬に水を差しやがってよ」


「何が逢瀬だ、ふざけんな。瞬は俺のだ。お前になんて──」


ふいに、康太がはっとした顔でノートから顔を上げる。それから、俺に視線を送ってきた。俺はそれで、何となく康太の言わんとすることを察した。もしかして──。


──森谷が「当て馬」だってこと……?


確かに、森谷は今「立花に捧げる」とか「好きな人に想いを……」とか、俺に「特別な想い」を持っているようなことを言ってたけど。


昨日から始まった【当馬記念】。

俺と康太が【ゲーム】から解放されて、平穏な生活に戻るためには、「当て馬」と呼ばれる人間──それも、「40倍」のオッズが掛けられた「当て馬」を探し出して、接触する必要がある。


──「当て馬」は、俺か康太への想いが強いほど、オッズが高い傾向にあるんだよね……。


俺と康太は昨日、クラスメイト達をはじめ、周りの様子には随分気を払って、生活した。「当て馬」らしき人がいないか……と思って。

だけど、結局、そんな存在は見当たらなかった。だから、今日こそなんとかして見つけないとと思ってたんだけど──これは、チャンスだ。


──他に有力な候補も見つけられてないし、森谷が「当て馬」かもしれないなら……それは「接触」してみないと分からないよね。


俺は康太の視線に頷いて答えた。「やってみるね」というサインだ。

すると、康太は一瞬だけ、苦々しい顔をした……けど、すぐに、切り替えて、森谷に言った。


「……森谷」


「なんだよ」


「……い、一分だけだ」


「一分?何が?」


森谷が首を傾げる。顔の中心に皺をぎゅっと寄せたような渋い顔で、康太は森谷にこう言った。


「一分だけ……瞬と、会話することを……許す……っ」


「瀬良?ど……どうしたんだよ、急に」


「どうしたもクソもねえよ……チッ」


康太は明らかに機嫌が悪くなっていた。ちょっと珍しいな。康太は普段、ここまで怒ったり、機嫌が悪かったりを表に出すタイプじゃないから……それは、つまり。


──そのくらい、俺が森谷と話すことに……嫉妬してくれてるんだ……。


康太には悪いけど、俺は少しだけそわそわした気持ちになる。……いけない、今はやるべきことに集中しないと。


「な、なんだよ……ま、瀬良がそう言うなら……お言葉に甘えて──」


森谷が空いている康太の席に腰を下ろす。森谷は「へへ」と笑うと俺に言った。


「じゃ、立花……瀬良の許しも得たしさ。この一分だけは、俺を瀬良だと思って接してくれないか?」


「も、森谷を康太だと思う……って?」


「ほら……例えば……俺を下の名前で呼ぶとか……」


「下の名前?えっと……」


俺は森谷の下の名前を思い出そうとする……けど、大変だ。思い出せない……いつも名字で呼んでる友達の下の名前って、ど忘れしちゃうことあるよね……どうしよう。


──ひろ……までは思い出せるんだけど。しょうがない。今訊くのはちょっと失礼だし、ここは……。


「ひ、ひろくん?」


「ひっ……!?」


苦し紛れに、それっぽく呼んでみると、森谷は短い悲鳴を上げて、丸い目で俺を見つめる。

俺は慌てて、森谷に言った。


「あ、ご、ごめんね?変な呼び方だったかな。いつも名字で呼んでるから、下の名前がすぐ出てこなくて……」


だけど、森谷は首を振って「そんなことないぜ!」と言って続けた。



「立花の脳味噌の奥底で挟まっていられるなんて、俺の『裕斗』は幸せ者だ……それに、俺は今日から『ひろくん』でいいぜ……もう改姓する……」


「名字になっちゃうんだ……ひろくん……」


「おい、もう一分経っただろ」


と、そこで、康太が森谷の肩を掴んで、俺から剥がす。森谷は「えー!」と不満そうな声を漏らして言った。


「あ、じゃあ、手!最後に手だけ、一瞬!ちょっと、もう先っちょだけでいいから、包むように握ってくれないか?いいだろ」


「そんなのダメに決まってるだろ。俺以外が瞬にできるのは会話までだ。それ以上は許さん」


「あ、でも康太……」


俺は、森谷を引き剥がそうとする康太に耳打ちをする。


「……『当て馬』には接触しないといけないんだよね?だったら、会話だけだと……森谷がそうなのか確認できないかも」


「……仕方ねえ」


俺の言葉に、康太が諦めたように首を振る。俺はそんな康太に、もう一つ囁いた。


「後で、その……埋め合わせするから」


「……」


康太がまだ少し不機嫌な顔のまま、でもとりあえずは頷く。俺はそんな康太につい、笑ってしまいそうになりながらも、森谷に向き直って言った。


「あの、森谷……じゃあ、手を出してもらえる?」


「ん?いいぜ。ほら……好きにしてくれよ」


「……ありがとう」


俺は差し出された森谷の手の……指先をほんの少しだけ、ぎゅっと握った。すると、森谷が「うひょっ」と小さな声を漏らした……くすぐったかったのかな。俺はすぐに手を離したけど……あれ?


──何の表示も出ないな?


俺は「もしかして」とほんの少しだけ嫌な予感がしつつ、康太を見遣る。康太も俺と似たような顔で首を捻っていた。


すると、そこへ──。


「あー……残念やけど、こいつは『当て馬』ちゃうで。確かに、こいつの想いは特別ってか、特殊やけど……瞬ちゃんを奪ってどうこうしようとは思てへんからな」


いきなりふらりと現れた澄矢さんが、そう教えてくれる。それに対して康太は──。


「ふざけんなよ!」


と手近な机を手で叩いて、澄矢さんを睨んでいた。それから、こうツッコんだ。


「てか、『当て馬』としてバフが掛かってるわけでもないのに、これなのが普通に怖えわ!」


「なんだよ、瀬良?どうしたんだよ」


一人、状況を知るはずもない森谷が首を傾げている。

俺はそんな森谷に「気にしないで」と言いつつも、何故か背筋が凍るような感覚があった……。

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