11月13日(月)


ファーファファファーファファーファファー♪


ファファファファー♪


ファファファファーファーファーファーファーファー♪

 ファファファファファファファファ♪


ファファファファー♪



\天晴れ!夢の頂上決戦/


  あて うま  ねん 



年の瀬も押し迫る今日この頃。


今年はどんな一年でしたか?いいことありましたか?


まだないよ!という方、ひょっとしたら今がその時かも?


年末といえば、やっぱり、ドリームジャンボにお馬さん。


貯めに貯めた運やポイントで、今年最後の「夢」を見てみませんか?


そんなわけで【当馬記念あてうまきねん】を開催します♪



開催期間:11月13日~11月17日


〇当馬記念とは


・ここまでに獲得したポイントを賭けて行う【ボーナスミニゲーム】です。


・この【ゲーム】において、「当て馬」と呼ばれる人間が、校内に3人います。彼らを探し出して「接触」し、ポイントを獲得してください。


・「当て馬」とは、立花瞬または瀬良康太に、特別な感情を抱いている人間を指します。【当馬記念】開催期間中、彼らはゲームマスターの干渉により、普段よりも積極的に行動を起こします。


・「当て馬」への「接触」は、その「当て馬」が特別な感情を抱いている方が行ってください。


・【当馬記念】開催期間中は、彼らとの「接触」でのみポイントを獲得できます。


・当て馬にはそれぞれ「オッズ」が決められています。1.1倍・5倍・40倍の3パターンです。


・当て馬に接触すると、「その当て馬のオッズ×現時点の獲得pt計」によって算出したポイント数が「払い戻し」されます。

 例:5倍×2,085,106pt(当馬記念開催時点獲得pt計)=10,425,530pt(←この数値が最新の獲得pt計になります)


・一度、ポイントを獲得した当て馬から、再度ポイントを獲得することはできません。


・【当馬記念】開催期間中に、ポイントの獲得が全くなかった場合、通常の【ゲーム】と同様の【ペナルティ】が課されます。


※【当馬記念】開催に伴い、今週の【ノルマ】の指示はありません。


○攻略のヒント

・立花瞬または瀬良康太に対する想いが強い「当て馬」ほど、オッズが高い傾向にあります。積極的に狙ってみてくださいね。(当て馬全員と接触する必要はありません)


______________



「「いや、なんだこれ(なにこれ)」」


目覚めて一番、提示された……いや、何だこれ。マジで意味が分からんやつに、とりあえず……瞬と一緒にツッコむ。

すると、クソ矢が首を振って言った。


「……もうこのノリも最後やなあ」


「最後?」


「……とにかく、どういうことか説明しろ」


瞬と二人、ベッドの上に並んで座り、クソ矢を見上げる。

(ちなみに、俺はまだ瞬の世話になっているので、立花家に泊まっている)


クソ矢は「既に言ってある通りや」と言って続けた。


「昨日、お前らは『同業他社』──【オブザーバー】側と話をしたやろ。そこで出た通りや。あいつらは、もうこの【ゲーム】を終わらせようと考えとる。それにはお前らの協力が必要や。せやから、せかいちゃんと交渉して、今週の【ノルマ】の代わりに、この【当馬記念】を立ち上げて、一気にポイントを集めさせて【ゲーム】を終わらせようっちゅうことや」


「……ああ、なるほど」


「……そうだったな」


俺と瞬は、揃って腕を組み、考え込む。そこで思い出すのは昨日のことだ──。


──昨日。


『第一情報処理室で待つ。二人で来るといい。11/12 23:59までに来ること』


『私達へ協力しなさい。対価には情報を、そして私達もまた、協力を惜しまない』


謎のメッセージに誘われ、俺達は「第一情報処理室」へと向かった。


そこで待っていたのは──俺達が追っていた「同業他社」であり、俺達の周りで妙な噂を広めたり、不可思議な現象を起こしていた存在……「春和高校新聞部オンライン」の正体・「邪神」。


『私達は、ありとあらゆる情報にアクセスできる。答えられないことはないわ』


そう言って、奴は俺達に「情報」を与えてきたんだが……まあ、その内容は常軌を逸しすぎてるので、さっくり説明してもらうと。


「この世界はよう分からん宇宙人に、世界ごとまるっと銃口向けられてて『おう、ええ感じのカップル差し出して、イチャイチャしてるとこ見せろや』って脅されとるっちゅうことや。ほんで、お前らがその『ええ感じのカップル代表』やから、お前らは世界平和のために、イチャイチャせえってことやで」


「一日経って聞いても、無茶苦茶な話だね……」


クソ矢の説明に、さすがの優等生・瞬もこめかみを押さえている。

……瞬でもこれなんだから、俺はもう、その辺の状況については深くは考えない方がよさそうだ。


だが、昨日の話で、大事だったところは。


「俺達がこの【ゲーム】から解放されるためには……あいつらに協力するしかないってこと……だったよな」


「……そうだね」


俺の言葉に瞬が頷く。俺は、昨日──奴に持ち掛けられた「協力」を思い返す。



『いい?ここからが本題よ──』


そう前置きした彼女は、俺達にこう言った。


『私達の目的は一つ。”オブザーバー”の腹を満たし続けること。そして現状、この世界で、その目的を最も効率的に達成する手段が、お前達よ。お前達が仲睦まじくすることによって生まれるあらゆる感情は、他の人間から得るそれよりも、遥かにカロリーが高いわ。だから、私達は、お前達を失うわけにはいかない。ところが、”あれ”の方はそうじゃない』


『”あれ”……せかいちゃんのことだったな』


『せかいちゃんさんは……俺達を失っても構わないということですか?』


『正確には』と言って、彼女は続ける。


『お前達がどこまでやれるか、ほどほどに期待はしているわ。でも、その一方で、いっそのこと、お前達を殺して、終わりにしてもいいと思ってもいる。お前達の死は、仲睦まじくしているのと同じくらいの感情が捻出できるでしょうから』


『……』


『でも、死は一回きりだもの。それでは、私達が求める恒久的な幸せは手に入らない。だから、お前達に死なれると困るのよ』


つくづく、勝手な連中だ。自分達の利益のためなら、俺達のことなんか、どうにでもできるらしい。

──けど、今更そんなこと、こいつらに説くまでもないか。


やり場のない感情をふっと吐き出してから、俺は『それで』と彼女に先を促す。


『俺達を失わないために、お前らは何してくれるんだよ。要するに【ゲーム】で、俺達が【ペナルティ】を受けちまうと困るってことか?』


『そうなるわね。それに、私達の方も、いつまでもこの【ゲーム】にお前達が囚われていることをよしとしないわ。だから──お前達がこの【ゲーム】から解放されるように、私達は協力をする』


『そ、それって……』


俺は瞬と顔を見合わせる。こいつの言うことは、俺達にとって願ってもないことだ。

だが、都合が良すぎて、むしろ怪しい。


そんな俺達の思考を知ってか知らずか、彼女はさらに言った。


『具体的に言うと、お前らが今せっせとやっている【今週のノルマ】を免除するように、あれと交渉するわ。代わりに、ペナルティのない【ミニゲーム】を提案する。ポイントを大量に獲得できるものよ……クリアできるくらいに』


『……そんなことができるんですか?』


訝しげに瞬が訊くと、彼女は頷く。


『私達にはできる。あとは、お前達次第よ。できないなら……お前達は明日指示される【ノルマ】を実行するしかないわ。それは……今のお前達にできるとは思えないけれど』


『なんだよ、その【ノルマ】って……』


俺が訊くと、彼女は『そうね』と言って続けた。


『全身リップ』


『ぜんしん、りっ……?!むぐ』


俺は、瞬がまたとんでもないことを口にしないように、左手で口を押さえる。

すると、彼女はくすくす笑いながら言った。


『立花瞬にだけ伝えられるはずだった【ノルマ】よ。瀬良康太には伝えずに、自分にそれをするよう誘えというもの。もちろん、実行前にバレたら、ペナルティが待ってる』


そこまで聞いて、俺は『ハメられた』と気付いちまった。だがもう遅かった。彼女は俺達に言った。


『ね、お前達はもう……私達に協力するしかないってこと。私達の提案に乗りなさい。それが、お前達に求める【協力】よ──』



「──にしても、意味分かんねえな」


「うん……そうだね」


揃って家を出て、いつものように学校へと向かう途中。

俺と瞬は、今朝提示された、謎の【ミニゲーム】について、話し合っていた。


──【当馬記念】だっけか。例によって、なんか色々ルールが書いてあったけど。


「要するに、校内にいるその【当て馬】って奴らと接触すればいいんだろ。三人いるんだよな。で、そのうちの一人は、接触すると、今持ってるポイントが40倍に増えるから、そいつを探し出して接触さえすれば、俺達は【ゲーム】をクリアできる」


「すごく簡単に聞こえるけど……問題は」


「その【当て馬】がどいつかってことだな……」


たしか、ルールには「校内に」って書かれてたから、学校の中にその【当て馬】は潜んでるってことだ。あとは……。


「俺か康太のどっちかに、特別な感情を抱いている」


「特別な感情、か」


恨みとか、尊敬……とかか?今一つ、それがどんな感情なのか、俺はぴんと来ない。だが、瞬の方はそうでもないみたいで……。


「……瞬?」


「っわ!あ……ごめん」


瞬が険しい顔で前を見つめていたので、俺は瞬の後頭部をわしゃわしゃと撫でてみる。

すると、瞬は一瞬、驚いたような顔をしてから、すぐに、いつもの柔らかい表情に戻って、俺に言った。


「……考えなくちゃいけないことはまだあるかもしれないけど。とにかく、あともうひと踏ん張りだね。一緒に頑張ろう」


「ああ、そうだな」


それから、俺達は軽くグータッチをして笑い合った……これが、想像以上に苦しい【ミニゲーム】だなんて、知る由もなく。

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