6月22日
【条件】
1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。
2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。
3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。
【サムシング・フォー・チャレンジ開催中!】
期間中、毎日ひとつずつ公開される「チャレンジ」を全て実行して、素敵なボーナスを貰おう♪
開催期間:6月20日〜6月23日
○チャレンジ 3日目○
*何かひとつ、新しいもの*
〜Something New〜
・立花瞬は、瀬良康太と、二人でしたことがないことをする。このチャレンジは、成功とみなされなかった場合も、クリアするまで、何度も挑戦することができる。
ただし、【6月22日・23:59】までにクリアできなかった場合、チャレンジは失敗となる。
☆
「チャレンジもいよいよ折り返し……毎日ええ感じやん」
「澄矢さん」
朝の身支度をしていると、いつも通り、ふらっと澄矢さんが現れる。俺は鏡の前でシャツを整えながら言った。
「澄矢さん、俺に何か言うことがあるんじゃないの」
「何やそれ?儂にそんなもんあるんか?」
「……」
けろっとした顔でそう言ってのけた澄矢さんを睨む。「そないに怖い顔せんでな」と澄矢さんがへらへら笑っているので、俺は澄矢さんに詰め寄った。
「昨日のことだよ!また何か変な力で、康太がピンなしで歩いてるって噂を広めたでしょ。どうしてあんなことするの?」
「……何やそれ。儂はそないなことせんよ。何のメリットもないし」
「じゃあ他に誰がしたの?託弓さん?」
「まあ託弓の力やったらできなくもないけど……あいつも今、そないに暇やないねん。基本、現場のことは儂らに任せきりやし。ちゃうと思うわ」
「うーん……」
澄矢さんの言っていることはよく分からないけど……でも嘘をついてるようにも見えない。首を捻る俺に、澄矢さんは「まあ」と言った。
「儂も見とったけど、ちょっと普通やない感じはするわ。手、空いてるときにでも、何が起きてたんかは、できる限り調べとくな。瞬ちゃんに何かあったら、儂らも困るし」
「ありがとう……」
って言うべきなのかな?とは思う。そもそも、俺と康太を取り巻く厄介な出来事は、大体、澄矢さん達のせいだしね。でもまあ……助かったことも、全くなかったわけじゃないし……とりあえず、これでいいか。
「……まあ、瞬ちゃんは余計なこと考えんで、今日もチャレンジ頑張ったらええわ。豪華景品も待っとるからな」
「その豪華景品……って、どうせまた変なアイテムなんじゃないの?」
俺は前に見せてもらった、この手のイベント事で貰える「ボーナス」……とかが載ったカタログのことを思い出す。どれもこれも、とても使えそうにないアイテムばかりだったし、今回もアレになるなら、「募金」一択だろう。
だけど、澄矢さんは自信たっぷりに「ちっちっち」と指を振った。
「今回はガチや。瞬ちゃんと……あいつのために、予算を割いて手に入れてきた素晴らしいものや。儂やって欲しいくらいやで。瞬ちゃんも絶対喜ぶと思うわ」
「本当に?」
「本当や……せやから、頑張ってな?」
それだけ言うと、澄矢さんは、ぱっといなくなってしまった。
──本当に大丈夫なのかな……?
さっきまで、あの適当関西人がいたあたりをしばらく睨んだけど……やがて、ふっと息を吐いて肩を竦めた。考えても仕方ない。今日も、やるだけやってみよう。
鏡に向かって、俺は「よし」と拳を握った。
☆
──詰んだ。
「……」
「……」
硬く、ぴたりと閉じた扉を前に、俺と康太は言葉を失っていた。
扉の向こうで、無慈悲にも聞こえる予鈴が鳴る。
「……どうすんだ、これ」
「……ね」
呆然と立ち尽くす康太の呟きに、俺はロクな返事もできなかった。
これじゃ、「チャレンジ」どころじゃない。朝、握った拳は何だったんだ……とため息が漏れる。
──俺と康太は今、体育倉庫に閉じ込められていた。
……事の発端は、六時間目の体育の授業が終わった後のことだった。
思いきりの良すぎる体育の先生が、「ちょい小雨だし、いけるだろ!」と微妙な天気の中、外体育を決行して……まあ、何とか天気がもってくれたおかげで、授業は最後までできたんだけど。
問題はその後だった。
計ったみたいに、授業の終わりと同時に雨足が強くなってきたせいで、俺達は慌てて用具の片付けをする羽目になったのだ。
だから、そのどたばたのうちに、体育倉庫の方を任された俺と康太は、いつの間にか取り残されていたみたいで……。倉庫の奥の方まで入り込んで、用具を戻しに行っていたから、中に誰もいないと思って、閉じ込められちゃったんだろう。気が付いた時にはもう遅かった。
「クソ……最悪だ」
康太が扉を蹴ってみるけど、もちろん、びくともしない。
しばらく待っていれば、誰か来るかも……と思ったけど、康太に言ったら「どうだろうな」と返された。
「この雨じゃ、外部活は中止だろ。そうなると、もう誰もこの倉庫を使わねえから……すぐには出られないだろうな」
「誰かが、俺達を探しに来たりは?」
「そりゃあ、西山あたりはすぐ気づいて探してくれるだろうが……いや、どうだろうな」
康太が渋い顔で首を捻る。それからぼそりと「余計な気を利かせてなきゃいいけどな……」と言った。どういうことだろう?
「……とにかく、まあ一生出れねえってことはないが、しばらくは無理ってことだ。こうなったらもう……じたばたしてもしょうがねえ」
そう言うと、康太は側に積んであった高跳び用の大きなクッションに寝転がった。康太は、切り替えが早くて羨ましいな。俺も康太の真似をして……手で埃を払ってから、クッションの隅に腰を下ろしてみた。
「あ、意外と座り心地いいかも……」
「寝心地も悪くねえな」
「背中汚れるよ」
「いいんだよ……こうするしかねえんだし」
康太がふわあ、と暢気に欠伸をする。
会話が止むと、倉庫の屋根を叩く雨音がよく響いて、静かさが際立つ。なんだか、康太と世界で二人きりになったみたいだ。いや、実際そうか。今、この小さな世界の中で、康太と俺は二人きりだった。
──康太と、まだしたことないことか……。
康太も目を閉じて寝てるし、することがなくなると……こんな状況になっても、つい「チャレンジ」のことを考えてしまう。今日の「チャレンジ」も一昨日や昨日と負けず劣らず、難しいもんなあ……。
──こんな状況にならなくても、クリアできなかったかもね。
なんたって、俺と康太の付き合いは十数年近くになるのだ。「康太とまだしたことがないこと」なんて、一体いくつ残ってるだろう。ちらりと、康太を見て、考えてみるけど……。
──キス……はもうしちゃったし、あとは……。
俺は考えかけたことを消すように頭を振った。だめだめ……一体、何てことを。
そもそも、この「体育倉庫で二人きり」っていうシチュエーションがよくない。
こういうことにあまり詳しくない俺ですら、これは何か……「そういう展開」が期待されがちなシチュエーションだってことを知ってるのだ。
……まあ、起きないけどね、そんなことは。
「ZZZ……」
うん。これはもう、絶対起きないね。
っていうか、ZZZ……って寝る人、初めて見たよ。それにしても、康太寝るの早すぎない……?
「康太」
「……」
「康太ー」
「……」
「こーうた」
「……」
いくら呼んでも起きないので、俺は康太の脇腹のあたりをつんつん、とつついてみる。
すると、康太は一瞬、身体をぴくっとさせてから、おもむろに目を開けた。
「……何だ?助けが来たのか?」
「ううん。でも……康太が寝ちゃってたから」
「瞬も寝てみろよ。悪くねえぞ。どうせしばらくこのままなんだし」
「えー……でも」
「いいから」
「わっ」
康太に腕を引っぱられて、俺はクッションの上に倒れ込む。康太の隣に寝転ぶような形になった俺に、康太がにっと笑った。
「どうだ」
その顔に、いつかの……すごく小さい頃の康太が重なる。何の時のことだったかな、とちょっと考えたけど、思い出せない。でも、その時の気持ちは思い出せた。
「うん……悪くないかも」
俺も笑って、そう返した。こんな風に、あのいつかの時も……康太と未知のことに踏み出すたびに、わくわくしていたんだよね。
──まだしたことないこと……か。
あといくつ、そんなことが残っているか分からないけど……でも、それはまだ、たくさんあるような気がした。その一つでも多くを、これからも康太と重ねていきたいなと俺は思った。
……それから十分後くらいかな。俺と康太は無事に救出された。
先生を呼んできてくれた西山が「どうだった?」とニヤニヤ顔で訊いてきたので、俺は康太が呟いていた意味がやっと分かった。閉められたのは偶然だろうけど、救出が遅れたのは、たぶん……そういうことだね。
ちなみに、全然そんな気はしなかったけど、今日の「チャレンジ」はクリアしたらしい。
澄矢さん曰く「初めて体育倉庫に閉じ込められたやん」だって。
……こんなこと何回あっても困るよ。
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