6月23日

【条件】


1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。


2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。


3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。



【サムシング・フォー・チャレンジ開催中!】

期間中、毎日ひとつずつ公開される「チャレンジ」を全て実行して、素敵なボーナスを貰おう♪


開催期間:6月20日〜6月23日


○チャレンジ 最終日○

*何かひとつ、古いもの*

〜Something Old〜


・立花瞬は、瀬良康太と、二人だけの思い出を振り返る。


**本日、最終日**


四日間のチャレンジ、お疲れ様でした♪


花嫁を幸せに導く四つのアイテム「サムシング・フォー」にまつわる挑戦はいかがでしたか?


いつもとは違うアプローチをすることで、お互いの新たな一面が見られたのではないでしょうか。


引き続き、【条件】の実行、頑張ってくださいね(^-^)





──あった!


衣装ケースの中から色あせた「それ」を手に取る。手で表面を軽く払ってから、「それ」を後ろ手に隠しつつ、俺は開いたウォークインの扉から顔を出した。


「康太」


「ん、どうした?」


床で胡坐をかいて、スマホを弄っていた康太が顔を上げる。俺は「じゃーん」と隠し持っていたものを康太の前に出して見せた。


「それ……もしかして、アルバムか?」


「うん。さっき、布団を出した時に見つけて……」


なんて言いながら、自分で自分に「わざとらしいな」と心でツッコむ。こうやって家に康太を呼んだのも、むしろ、これが目的だからね。康太にバレないように、自然を装いつつも、この一週間弱で、すっかりズルくなってしまった自分に少し呆れる。


朝、俺に提示された最後の「チャレンジ」は──「康太と二人だけの思い出を振り返ること」だった。


正直なところ、「最終日だし、もしかしてものすごく難易度の高いチャレンジなんじゃ……」なんて、心配していたのに、すごく簡単な「チャレンジ」だったから、何だか拍子抜けだ。


とはいえ、「振り返る」といってもどうしたらいいのかは、考えなくちゃいけない。要するに、思い出話をしろってことなんだろうけど……いきなりそんな話をしても、不自然だ。


そこで、俺がとった方法が──。


『康太、放課後……ちょっとお願いしたいことがあるんだけど』


『何だ?』


『そろそろウォークインから夏掛けの布団を出したいんだけど、棚のちょっと高いところにあるから、取るのを手伝ってほしくて……』


『分かった』と快諾してくれた康太は、放課後、約束通り、家に来てくれた。そして、今に至る──。


「どのくらいの時のまで載ってるんだ?」


「えっと……あ、俺が生まれた時のから入ってるみたい」


「へえ……」


テーブルにアルバムを置くと、康太が身を乗り出す。康太も結構気になっているみたいだ。そう言う俺も、実は「チャレンジ」とか関係なく、結構興味があったりして……。


俺は康太の隣に腰を下ろして、少しわくわくしながらアルバムを開いてみた。


「お……これは」


『瞬 8/29』


一枚目は、まだ生まれたばかりの俺の写真だった。病室……みたいなところで、今よりもだいぶ若く見える母さんと、ほかほかの赤ちゃんの俺が並んで横になっている。撮ったのは、たぶん父さんかな。


「瞬って結構でかかったんだな」


「確かに……そうだね」


もう一枚ページを捲ると、赤ちゃんを抱えた他のママさん達と写った、俺と母さんの写真があったけど……比べると、俺の方が一回りくらい大きい。


「じゃあ、康太はもっと大きかったのかな?」


「これ以上でかかったら、やばいだろ……まあ、こういうのってあんまり関係ないとか言うよな」


「先、見ようぜ」と康太が急かすので、俺はぱらぱらと、ページを捲っていく。

すると、よく知った可愛い子どもが出てきた。


「「可愛い……」」


「……」


「……」


思わず、声が揃ってしまい、恥ずかしくなって、お互い顔を逸らす。


でもこれは仕方ないんだよ。だって、この頃の康太は、目がぱっちりしてて、おてては、クリームパンみたいにむっちりしてて……しかも、今じゃ信じられないけど、実春さんの服の裾を、いつもきゅっと握ってて……すごく可愛いかったんだから。


そんな可愛い康太と、俺が並んだ写真は……たぶん、俺と康太が出会った頃、幼稚園に入る時のものかな。


さすがにこの時のことは、もうちょっと記憶がぼんやりしてるけど……唯一、覚えているのは、康太と俺はしょっちゅう喧嘩ばっかりしてたこと。


康太はいつも俺に、ちょっかいをかけてきたから、俺はその度に泣いて……でも、すぐに康太に仕返しをしに行っていたらしい。そして、いつもすぐに仲直りをして、何でもなかったみたいに、くっついてお昼寝をしてたんだって。


──本当、不思議な関係だよなあ……。


ぱら、とさらに捲ってみると、幼稚園の時の写真がたくさん出てくる。


夕涼み会で、カラフルなヨーヨーを腕に提げて笑っている俺と康太。康太の方がたくさんヨーヨーを持っているから、たぶん俺は康太に取られたんだな……可哀想に。


それから、初めてのお泊り会の写真もある。

うっすら覚えてるんだけど……俺は確か、夜「おばけがいた!」ってわんわん泣いていたんだよな……それで、先生に抱えられていた俺に、康太が下から「おばけなんかいねえよ」って言ってたような気がする。

あとで聞いたら、俺が見たおばけは、たぶん、トイレに行っていた康太の影じゃないかっていうから、本当……仕方ないよね。


他にも、運動会や、卒園式の写真もあって──でも、そのどれにも、康太が一緒だ。


改めて、俺は康太と「幼馴染」なんだと実感する。


今度、学校で皆に見せようと思って、スマホで写真を撮っておく。すると、康太が「おい何すんだよ」と言った。


「昔の康太が可愛いからスマホにも残しておこうと思って……」


「そんなことしなくていいだろ!恥ずかしい」


「えー、皆にも見てもらおうよ」


「……そっちがその気なら、俺だって」


そう言って、康太もスマホで写真を撮った。撮ったのは、俺の写真だ。それも、お腹丸出しで、間抜けな顔で寝てる写真だった。


「ちょっと!そんな写真撮らないでよ」


「嫌なら、俺の写真を消すんだな」


「それも嫌だよ!こんなに可愛いのに……」


「じゃあ俺も消さないからな。瞬のもっと間抜けな写真を探してやる」


「やめてよ、もう!」


なんとかしてアルバムを取り上げたかったけど、康太は俺を上手く躱しながら、一人でアルバムを捲っていく。


「康太ずるい、俺も見たい」


「後で見ればいいだろ」


「一緒に見たいから、出してきたのに」


そう言うと、康太は口を尖らせながらも、アルバムをテーブルの上に置いた。いつの間にか、大分先のページまで捲っていたのか、アルバムの中で、俺と康太は小学生になっていた。


「こっちは、入学式で……これは一年生の時の運動会かな」


「この辺から、なんとなく記憶もあるな……」


康太の言う通りだった。小学生の頃の記憶はまだ、結構残ってる。

写真を見ていると、さっきよりももっと、鮮明に色んなことを思い出せた。


「康太、俺が帰り道に歌ってたら、いっつも『音痴』って馬鹿にしてきたよね」


「でも、瞬は最初『音痴』の意味が分かんなかったんだよな。『うんち』だと聞き間違えてた」


「どうして、康太はそんなに汚いことばっかり言うんだろうって思ってたよ……あ」


そんな話をしながら、捲っていると、アルバムもいよいよ後ろの方に差し掛かっていた。

アルバムは何冊かあったけど、これはどうやら、小学生時の写真までをまとめているみたいだ。


運動会、音楽会、持久走大会……と毎年の行事を繰り返していくなかで、俺も康太も、大きくなって、なんとなく、今の自分達に近づいてくる。そんななかで、俺はふと、あることに気付く。


──あれ、この写真……?


それは、確か……五年生の時に行った林間学校の写真だった。山を背景にしたクラスの集合写真で、並んで写っている俺と康太……だけど、俺の方は……。


──ギプスに、松葉杖……?俺、怪我なんかしてたのかな……?


自分でも覚えてないことに、なんとなく、違和感を覚える。他の色んなことは鮮明に思い出せたのに、この時のことだけが、穴でも空いてるみたいに……上手く思い出せない。


「ねえ、康太……」


康太なら覚えてるかな?──そう思って、隣の康太を見たら。


「……っ」


──康太はひどく真っ青な顔でその写真を見つめていた。


「康太……?」


どうしたんだろうと思って、顔を覗き込むと、康太が首を振る。


「……大丈夫、だ」


「ほ、本当に?何か、嫌なものでも……」


「……っ、う……?!」


すると、康太は頭を押さえて、机に突っ伏してしまった。苦しそうに呻く康太に、俺は思わず立ち上がる。


「康太……っ!」


アルバムを閉じて、康太のそばに寄る。ふう、ふう、と息を荒げる康太の背中をさすって、宥めた。


「大丈夫だよ……大丈夫、大丈夫だから……」


「……っ、しゅ、ん……」


机に伏せたまま、康太が俺を見上げる。その康太の目を見て、俺は息がぐっと詰まるような思いがした。


だって、あまりにも光がなくて、暗い……何かに怯えているような目だったから。


「康太……」


いてもたってもいられなくて、俺は後ろから康太を抱きしめた。それから、康太によく聞かせるように繰り返した。


「大丈夫だからね……大丈夫。康太には俺がいるから……」


「……」


腕の中で、康太の息が少しずつ、落ち着いてきた……と思う。

そのうち、康太が「もう大丈夫だ」と言ったので、俺は腕を解いた。


「……平気?」


「ああ……悪い。ちょっと……急に、頭が死ぬほど痛くなって。もう平気だ」


「そっか」


立ち上がって、康太から離れようとした時だった。ぱっと、康太に手首を掴まれる。


「……」


康太は戸惑いがちに俺を見つめて……でも何も言わなかった。

それでも、康太が俺に今、求めていることは分かったので、俺はまた、康太のそばに腰を下ろして、それから、もう一度、康太をそっと抱きしめた。


窓から差す夕陽が落ちて、部屋が薄暗くなるまで、俺達はそうしていた。それは、何にも残らない俺達の間の一瞬だった。

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