【ろぐぼ】体育祭の悪夢

【ログインボーナス】


[(和)login+bonus]オンラインゲーム等において、ログイン時に、ユーザーに対してポイントやアイテムを付与すること。


転じて、本編に収まらなかったエピソードを、週に一度お届けすること。

[略]ろぐぼ


[例文]今週は、【体育祭の悪夢】のエピソードをログインボーナスとしてお届けします。



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【体育祭の悪夢】



「うわ!出た悪夢」


「人を悪夢呼ばわりすんな」


「阿鼻叫喚」の部対抗リレーから戻ってくるやいなや、席で待っていた森谷に顔を顰められる。

俺だって、着たくてこんなの着てるわけじゃねえ……丈の短いバニー衣装のスカートをつまんで、舌打ちする。すると、西山がげんなりした顔で俺をしっしと追い払った。


「お前、それハエにやるやつじゃねえか」


「今の瀬良はハエ以下だ……頼むから、俺達の精神衛生のためにも、早く着替えて来い」


「そうしてえけどよ」


俺は五組の席の後ろの方でできた人だかりを見遣る。


「あー……立花か」


「ああ。置いていけねえだろ」


そう、あの中心には今、少なくとも俺の百万倍は可愛い、セーラ服を着た瞬がいる。

あの人だかりは、そんな可愛い瞬をカメラに収めようという輩がわんさか集まった結果だった。


「なら、瀬良も行ったらどうだ?一瞬であの山を解散させられるぞ」


「いや……でも、せっかく瞬の努力が認められてるってのに、それもな」


「そんなの、瀬良が知ってれば立花はもうそれで十分だろ。それより、瀬良と一緒に昼を食ったり、そういう方が……いや」


そこまで言って、西山は「余計な世話か」と首を振った。


「何だよ」


「いいから。お前はいつまでもここで立ってないで、立花を回収しに行ってやれ」


西山に背中を押され、俺は……とりあえず、人だかりの方に向かう。


「おーい、瞬……」



「うわあ!悪夢だ!」


「悪夢が……悪夢が来た……」


「これは祟りじゃ……」


「地獄の使者だ……!」


「お父さん……お父さん……!」



その瞬間、蜘蛛の子を散らすように、人だかりがなくなっていく。

おかげで、さっきまで全く見えなかった瞬の姿がやっと見えた。


「瞬」


「あ、康太」


俺の姿を見つけた瞬が走り寄ってくる。瞬はほっとした様子で言った。


「よかった……戻ってきてから康太を探してたんだけど、囲まれちゃって」


「しょうがねえよ……まあ、俺とは大違いだしな」


言ってから、改めて瞬を見る。

俺と同じで、メイクとかウィッグは特にしてない──素の瞬のままなのに、しっかり「可愛く」なるんだから、さすがだよな。まあ、その分、肌の手入れとかをちゃんとしてたって言うし……その努力の成果が出てるんだろう。


すると、瞬が笑いながら言った。


「康太、可愛いよ」


「だから嘘はやめろって言っただろ」


「嘘じゃないよ。最初はまあ、ちょっと……って思ったけど」


「思ったんじゃねえか」


「しばらく見てたら、いいかもって思ってきた」


「それは目が慣れただけだろ……」


「でも可愛いって思うよ。本当に」


「行こう」と瞬に手を引かれて、校舎へ戻る。


……全く、瞬がこんなのを「可愛い」と思うなんて、それこそ悪夢だな。

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