9月4日(月)

【ルール】


・このゲームは二人一組で行う協力型ゲームです。


・特定の行動を行うことで、指定されたポイントを集め、ゲームのクリアを目指します。


・特定の行動とは、ペアである相手に対してする行動が対象となります。

(例:手を繋ぐ、頭を撫でる、抱きしめる 等)


・同じ行動は二回目以降、獲得するポイントが半減し続けます。

(例:手を繋ぐの場合→一回目 100pt 二回目 50pt 三回目 25pt 四回目 12pt 五回目 6pt 六回目 3pt 七回目 1pt 八回目 0pt…)


・このゲームでは、ポイントは参加者ごとに集計されます。ポイントは行動を起こした参加者に付与されます。

※ただし、クリアに必要なポイントを満たしているかどうかは、それぞれが集めたポイントを合算して判定します。



①二人が獲得したptが合わせて【18,083,150pt】に達するとゲームクリアです。


②9月1日~12月31日までにゲームをクリアできなかった場合、ペナルティとして【その時点での獲得ポイント数が高い方が、獲得ポイント数の低い方を殺してください】


③一日に【1,000pt以上】獲得できなかった場合、ゲームを放棄したとみなし、上記②と同じペナルティが与えられます。



〇攻略のヒント〇


セックスすると【18,083,150pt】獲得できます。



【現在の獲得pt】

瀬良康太 1,750pt

立花瞬  1,350pt 計 3,100pt


クリアまで残り 18,080,050pt




______________



「はあ……」


通学用のリュックを背負い、足取り重く家を出る。今日も今日とて、母さんは早番でとっくに家を出て行ったので、忘れずに家の鍵を締めなければならない。

穴に差し込んだ鍵を捻ると、かちゃり、と締まる音がして、もう後戻りできない感が増す。そして一層、憂鬱な気分になった。


──学校、行きたくねえ~……。


何度目か分からないため息を吐きながら、心の中で愚痴る。

まあ、別に普段から学校に行くことにそれほどやる気が漲ってたわけじゃないが、今日の「行きたくない」は格別に「行きたくない」のだ。


何がそんなに俺の足と心を重くするのか。それはもちろん──。


「康太」


「っ、うお!?」


階段を降りている途中、考え事をしていたせいで反応が遅れる。いきなり、後ろから肩を叩かれて、心臓が止まるかと思った。振り返ると、そこには、瞬が不思議そうな顔で俺を見つめていて──。


「ど、どうしたの?ぼーっとして……」


「あ、いや……眠くてつい」


「大丈夫?」


そう言って、隣に並んだ瞬が、顔を覗き込んでくる。ふと視界に入った瞬の綺麗な髪が、朝の柔らかい陽光を受けてきらきらと眩しく見える。俺は瞬の頭をわしわしと撫でて「なんでもねえ」と言った。


【頭を撫でる K+100pt】


「あ、そっか……これがあるんだった」


頭の上にぽこんと出てきた表示に、瞬は俺が何故憂鬱そうだったのか察したらしい。瞬も「はあ」とため息を吐いた。


「学校の日でも、やらないといけないんだもんね……」


「ああ……そうだ。【条件】の時もそうだったが、これがなかなか鬼門じゃねえかと」


「確かに……」


──これこそが、俺の足取りが重かった理由の一つだ。


「せかいちゃん」に課せられたふざけた【ルール】──要するに、俺と瞬が「イチャイチャ」とやらをして、期限内にポイントをとにかく集めろというやつ。毎日が時間との戦いだった【条件】とは違い、【ルール】の方は期限内に達成すればいいものだ。その期限だってまだ随分先になるが……それでも、俺達には日々達成しなければならない【ノルマ】がある。


なんたって、一日【1,000pt】以上稼がなければ、【ゲーム】を放棄したとみなされて、俺と瞬はどちらかが、どちらかを殺すことになってしまうのだ。そんなことは絶対に嫌だし、避けなければならない。


だから俺達は、今日もやるしかない──たとえ、学校がある日だったとしても。


「でも、そんなの……どうしたらいいのかな。まさか、学校ではその……そういうことをするわけにはいかないし」


階段を降りて、エントランスへと歩きながら瞬が呟く。俺は腕を組んで、少し考えてから言った。


「学校に着いて、皆に会う前に……達成するしかないよな。もしくは、帰って来てからとか」


「でも、今日は月曜日だから、俺は部活があるし……やっぱり、今のうちに達成するしかない?それか、その後、帰ってから、俺の家ででもいいけど……」


「いや、その頃になると母さんが帰ってくるな。それ以降に外出するのはちょっと不自然だし、まあ……その」


俺が口ごもると、瞬は眉を下げて苦笑いした。


「そういうことをするために、康太は俺の家に来てたなんて……言えないもんね」


「……恥ずかしすぎるからな」


適当に理由をつけて瞬の家に行けばいいんだろうが、あまり続けば、母さんからあらぬ誤解を受けるかもしれない。それに、俺が瞬と付き合って、浮かれて、毎日ベタベタしてるとか思われるのも恥ずかしい。


──となると。


「今か」


「今……だね」


エントランスを抜け、外に出たところで、俺達はぴた、と足を止める。

それから顔を見合わせて、頷くと──エントランスから脇に入ったところにある、あまり人目につかない小さなスペースへと向かう。

──前にお願いして、瞬を抱きしめさせてもらったところだ。


「……で、どうする?」


「ああ、そうだな……」


俺は前にクソ矢が持って来た【レート表を】頭の中に浮かべる。あまり時間もないし、さっと済むようなもので……ひとまず【1,000pt】は稼がなくてはならない。何があった……?


──そういや、あの中に【下着を見せる】とかいうのあったよな……あれって。


ぱっと見、簡単そうだし、確か、何秒以上とかそういう縛りもなく、しかもちょうど【1,000pt】はあったはずだ。こんなところでやるのはまあ、ちょっとアレだが……さっと見せればいいんだよな?

それなら……。


「瞬」


「何?」


俺は壁を背に立つ瞬を見据えて言った。


「俺の『ここ』を見ててくれるか?」


「こ、ここって……?」


「ここだ」


瞬が俺が指さすあたり──すなわち、股間に視線を遣る。すると、瞬はぎょっと目を丸くした。


「ま、まさか康太……!こ、こんなところで……ダメだよ、捕まっちゃうよ」


「大丈夫だ。ほんのちょっとだ。すぐ終わる。それでいいんだ……ほら、ちゃんと見てろよ」


「え、や、やだよ……」


「いいから」


俺は顔を背けようとする瞬の顔を半ば強制的に、こっちへと向けさせた。両頬を掴まれた瞬は「うぅ」と唸っていたが、やがて、観念したのか、俺の言う通り、「ここ」をじっと見つめて言った。


「……早くしてね」


「ああ。ありがとう……じゃあ、瞬。見てくれ……これが俺の……」


ベルトに手をかけ、緩めると、制服のスラックスのチャックを震える指で下ろす。じい、という音がやたら大きく響いた。そして──。


「わ、こ……康太」


「見たか?瞬……これが俺の、今日のパンツだ……」


俺はスラックスの前を少し開き、瞬に下着を見せつけた。これと言って特徴のない、黒のボクサーだ。瞬が履いているらしい「青い総レース」のものや「可愛いペンギンの柄」とは違う。見ても面白味はないだろう。


それなのに、瞬は恥ずかしそうに視線を外しつつも、ちらちら、とパンツを盗むように見ている。急激に恥ずかしさのメーターが振り切ったので、俺は慌ててスラックスの前を元に戻しつつ言った。


「もう、いいだろ……」


「う、うん……」


再び、あたりにじい、というチャックを上げる音が響く。同時に、頭の上にまた表示が現れた。


【下着を見せる 1,000pt】

【本日のノルマは達成されました】


「とりあえず……俺が脱いだ甲斐はあったみたいだな」


「そうだね……」


一応、今日のノルマを達成することができたが、なんだか互いの間に微妙な空気が漂っている。まあ、【ゲーム】のためとはいえ、いきなりパンツを見せられたら、困惑するだろう。俺だって、逆の立場だったら反応に困ってたかもしれない。


だからここは、言い出しっぺの俺が責任を取って、元の雰囲気に戻すべきだろうと──俺はできるだけ何でもないような感じで瞬に言った。


「……どうだった?俺のは」


「そ、そんなこと訊かないでよ!」


──しまった。訊き方を間違えたな。


俺は「いや、そうじゃないんだ」と首を振ってから、もう一度、軽い調子で瞬に言った。


「ただ、俺のパンツは、瞬にどう見えてたのかと思って」


「へ、変態……」


瞬はそう言うと、ぷいと俺から顔を逸らしてしまった。瞬の言う通りだな……確かに、さっきの俺はちょっと「事案」っぽかった。


──でも、「変態」って言われると、地味に傷つくな……。


俯いて、つい黙ってしまっていると、瞬はそんな俺をちらりと見て、眉を下げてから、小さな声で言った。


「……今日の分、背負わせちゃって、ごめんね。……ありがとう」


「明日は俺が頑張るから」とそう言った瞬に、俺は思わず顔を上げる。


「あ、明日は……瞬が、パンツを見せてくれるのか?」


「……もっとまともな方法で稼ぐよ」


そう返した瞬の目が冷ややかで、俺は「ああ、秋が来たな」と思った。

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