9月5日(火) ①
【ルール】
・このゲームは二人一組で行う協力型ゲームです。
・特定の行動を行うことで、指定されたポイントを集め、ゲームのクリアを目指します。
・特定の行動とは、ペアである相手に対してする行動が対象となります。
(例:手を繋ぐ、頭を撫でる、抱きしめる 等)
・同じ行動は二回目以降、獲得するポイントが半減し続けます。ポイントの半減措置は、翌0:00に解除されます。
(例:手を繋ぐの場合→一回目 100pt 二回目 50pt 三回目 25pt 四回目 12pt 五回目 6pt 六回目 3pt 七回目 1pt 八回目 0pt…)
・このゲームでは、ポイントは参加者ごとに集計されます。ポイントは行動を起こした参加者に付与されます。
※ただし、クリアに必要なポイントを満たしているかどうかは、それぞれが集めたポイントを合算して判定します。
①二人が獲得したptが合わせて【18,083,150pt】に達するとゲームクリアです。
②9月1日~12月31日までにゲームをクリアできなかった場合、ペナルティとして【その時点での獲得ポイント数が高い方が、獲得ポイント数の低い方を殺してください】
③一日に【1,000pt以上】獲得できなかった場合、ゲームを放棄したとみなし、上記②と同じペナルティが与えられます。
〇攻略のヒント〇
セックスすると【18,083,150pt】獲得できます。
【現在の獲得pt】
瀬良康太 2,850pt
立花瞬 1,350pt 計 4,200pt
クリアまで残り 18,078,950pt
______________
【問題行動】三年・SとT 衝撃・二学期初日ラブホからの超・重役出勤…周囲も呆れ「完全に二人の世界」「大事な時期なのに…」担任は寛大処置も…「退学処分もありうる」
春和高校・二学期初日──休みムードもそこそこに、多くの生徒達が気持ちを新たに登校し、久しぶりの学友との再会に笑顔を見せた。
しかし、中には、そんな春和高校の風紀を乱しかねない「問題行動」も見られた。
三学年に在籍する生徒・SとTが、新学期初日からなんと、四時間超の大遅刻をして学校に現れたのだ。さらに驚くべきことに、二人は春和地区内の「ホテル」から直接学校へ登校したらしいと、本紙記者の極秘取材により判明した。
[写真 市内のホテルから人目を忍ぶように出てくる二人]
午前十時半すぎ──市内のホテル「バナナミルク」から現れた二人。黒いキャップを目深に被り、マスクで顔を覆ったS氏に、同じくマスクを着け、顔の大部分を隠したT氏は、並んでホテルの入り口から姿を見せると、肩を寄せ合い、あたりを警戒しながら、近隣のコンビニに停めたS氏の自転車に二人で跨り、去って行ったという。S氏は度々、荷台に乗るT氏を気遣う様子を見せていたそうで、ホテルを出る時も、S氏がT氏の腰のあたりをいたわるように撫でていたことから、あの中で何が行われていたのかは想像に難くないだろう。
始業式も忘れて「営み」に没頭していた二人が学校に着いたのは、午後十三時すぎ。学校へ着くなり、職員室に揃って顔を出した二人は、担任であるT川教諭に叱責された後、”禊”として、三学年のフロアの廊下掃除と、課題を命じられたという。午後十六時すぎまで廊下掃除を行った二人は、翌土曜日も学校で課題に取り組んでいたそう。ただし、部活動等で学校を訪れていた生徒によると「あまり真剣に課題をやっている様子はなかった。むしろ、教室に二人きりなのをいいことにベタベタしていたように思う。自分達が風紀を乱しているという自覚はなさそう」とのことだった。
夏休み前から一部の生徒の間で「もうすぐ進路活動が本格化するのに、二人の行動は目に余るものがある」とも言われていたが、周囲からは黙認されていた二人の「問題行動」──改善されることはあるのだろうか。担任教師を直撃したところT川教諭は「その噂が本当なら、退学処分は免れないでしょうね。ですが、二人がそんなことをするのかなあというのが本心です。許されることではありませんが、遅刻は何か事情があったのではないかと思います。Sくんの一学期に見せた努力こそが、彼の本質だと私は信じたいです」
仏の顔も三度まで──恩師の信頼を裏切ることは許されない。
。
。
。
「いつもいつも……なんだよ、これ……」
最早、毎度のことではあるが。俺はスマホに表示されたその「記事」とやらに、大きくため息を吐く。すると、スマホの持ち主である西山が、俺に突き付けてきたスマホを仕舞いながら首を振る。
「出鱈目ならいいんだがな。ただ、妙な写真もくっついてるし、記事がガチなら、噂レベルでも武川の耳に入っちまってるってことだろ。ちょっと心配になってよ」
「出鱈目もいいところだ。その、写真だって、顔はほとんど写ってねえし、背景もぼやけすぎだ。適当にネットの画像でも拾って作ったんだろ」
「そりゃ、俺だって本気では信じてねーよ。こういうゴシップは、眉唾もんなのがある意味魅力だ。想像を掻き立てるような、曖昧さがいい。だが、それも分かってて……あえて踊らされて、騒ぎ立てる奴もいるから、気を付けろよって言いてえんだよ。俺は」
「ああ、そうだな……いい迷惑だ、全く」
言いながら、俺は内心──かなり焦っていた。
だって、写真に写る俺と瞬の姿は……あの時の格好そのものだからだ。
写りこそかなり悪いが、それでも──それが自分のことなら分かる。この写真は、本物だ。
仮に加工して作ったものだとしても、偶然、あの時の俺達の格好と同じような格好の写真を作っていること自体、不気味だ。
そんなの、「あの状況を知ってる奴」じゃないとできるわけない──だとしたら、それは何者なんだ?
──神……か?
「それはちゃうな」
「ク……っ」
思わず名前を呼びそうになるのを、すんでの所で、手のひらで押さえる。……ここは教室だからな。
突然、自分の口を塞いだ俺に西山が「どうした?」と訊いてくるので、俺は適当に断って、席を立った。
「……おい、どういうことだよ」
教室のすぐ近くのトイレ……今は誰もいないそこに駆け込んだ俺が、宙に向かってそう訊くと、瞬きの隙に、クソ矢が現れて言った。
「そのまんまの意味や。お前の考えとったことは違うっちゅう……それだけや」
「じゃあ、何があのクソ新聞の中にいる。今までの記事だって大概だが……今回の記事は、さすがにおかしい。俺と瞬があんなところにいたって、普通の奴が知れるはずないだろ。誰にも言ってねえのに……」
それに、あの写真が本当に撮られたものだとしたら、撮った奴だって、学校にいなかったことになる。そうなると、生徒にはまず無理だ。
常識を超えた「何か」が、あの新聞の裏にはいる。
腕を組んでじっと考えていると、クソ矢が眉を寄せて言った。
「まあ、記事なんてそない気にせんでもええんちゃうの?お前らも前、言うとったやん。何をそんなに気にしてるん」
「あることないこと書かれるのは別にどうでもいい。問題は──あることを書いてることだ。人ならざる存在……何が目的かは知らねえが、そいつは、俺と瞬を脅かす存在かもしれねえ。だとしたら、それは引きずり出して、追っ払う必要がある」
──俺と瞬が、穏やかに……これからも一緒にいるためにも。
すると、クソ矢は渋い顔で遠くを見つめて「せやなあ……」と呟いた。
「引きずり出したところで、どうにもならんとは思うけど……」
「何か知ってるのか」──そうクソ矢に詰め寄ろうとした時だった。トイレの外で予鈴が鳴る。ほんの一瞬、気を取られた隙に、クソ矢はふらりといなくなってしまった。
一人残されたトイレで、俺は舌打ちした。
☆
【見つめ合う】 ×
【腕を絡める】 100pt 〇
【手を繋ぐ】 197pt 〇
【くすぐる】 ×
「ぜんっぜん、ダメだなあ……」
ルーズリーフに書きこんだ惨憺たる「進捗」に、多目的ラウンジのテーブルに突っ伏して嘆く。
冷たい天板に頬を押し付けながら、目を閉じて……俺は今日、ここまでの状況を振り返った。
『明日は俺が頑張るから』
昨日……康太はいきなり俺にパンツを見せつけてきた。
それだけ言うと、なんだか康太が変態みたいだけど……そうじゃなくて。康太は【ノルマ】を達成するために、恥を忍んでやってくれたのだ。だから、今日は俺から行動を起こして──俺が頑張る番だと、拳を握ったんだけど。
「やっぱり、心に抵抗が無い方法でポイントを集めるのは難しいなあ……」
レート表を見ながら、俺でも、恥ずかしくなく【ノルマ】を達成できる行動をピックアップして、ポイントを集める計画を立ててみたんだけど……これが全然上手くいかない。
──【条件】と違って、康太に隠す必要はないんだし、協力はしやすいはず、だったのに。
実際は、見ての通り失敗だらけだ。
例えば、この【見つめ合う】は……。
。
。
。
~登校中~
『康太』
『ん?何だ』
『お、俺の目見て』
『瞬の?……って、ああ。そういうことか』
『うん。だから……俺も、康太のこと見つめるから、康太も俺のこと、見て』
『分かった……』
『……』
『……』
『……』
『……』
『……』
『……』
『……っ』
『……』
『いやちょっと……待て、これ。ちょっと……あんまり、見ないでくれ……(目を逸らしながら)』
『え、えー?あと十秒くらいだったのに……』
『そうは言われてもよ……そんなに見られると、つい……』
『……』
。
。
。
っていう感じで、全然ダメだったし……代わりに、他の人に見られないようにしながら、加点されるギリギリまで手を繋ぎ直してみたり、康太の腕に腕を絡めたりして少しポイントは集めたけど。
やっぱり何か一つ、大きな加点がないと厳しい。
だから、教室で前後に座ってる時に、康太の背中をこっそりくすぐってみたんだけど──そういえば、康太って全然くすぐりが効かないんだよね。だから、俺がくすぐってたことにも気付かなかったみたいで、加点されなかった。これがすごく大きな誤算だった。なんたって、得点源の半分以上を失ってしまったわけだし……。
──でも、今日は火曜市の日だもんね……学校ではポイントを集めるのは大変だけど、荷物を下ろすついでにうちに寄ってもらって……そこでなら、なんとか……。
なんとか……できるといいな。いや、できなくちゃダメだ。康太にばっかり、負担をかけたくない。
「……よし」
俺はあえて声に出して、拳を握る──と、同時に、つい……考えてしまう。
──こんなことを、これから毎日して……それで……どうなるんだろう。
苦労して【ノルマ】を達成して、何とか「最悪の事態」を回避しても。
期限までに【ゲーム】をクリアできなければ、結局同じだ。
そしてそれは、ただ毎日……【ノルマ】を達成しているだけでは、決して手が届かないのだ。
──いつかは、どこかで……俺は、康太と……。
「瞬」
「っ、わ」
考えごとを遮るように、後ろから肩を叩かれる。振り向くと、そこには康太が、俺を不思議そうに見下ろしていた。
「どうした?何か……考え事か?」
「うん……まあ、ちょっと。それより、康太はどうしたの?」
ルーズリーフを仕舞いつつ訊くと、康太は眉を寄せて「ああ」と言って、俺から視線を外す。ややあってから、康太は言った。
「今日……買い出しの日だろ。悪い、一緒に行けなくなった」
「え?」
「武川に呼び出されてんだ。ああ、進路関係のことだから気にすんな。ただ、ちょっと時間かかりそうで……何時になるか分かんねえから」
「そっか……うん、大丈夫だよ」
……答えながら、俺は康太の表情が、何か……元気がないような気がして、胸がきゅっと締め付けられた。
──どうしたの?
だけど、それを聞くよりも先に、康太は「ああでも」と言って続けた。
「……終わったら、瞬の家行く。ノルマのこともあるだろ……だから、うん。待っててくれると助かる」
「う、うん。それは……もちろん、いいけど……でも、康太」
「じゃあ、先、教室帰ってる」
「え、あ……」
呼び止めようと手を少し伸ばしたけれど、それは届かない。さっさと歩きだしてしまった康太の背中に、俺は言いようのない……不安な気持ちが胸に渦巻くのを感じた。
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