8月5日 息子さんを僕にください?
「瞬を……母さんに紹介してもいいか?俺の恋人だって」
「え、えっと……」
──ある意味、予想通りだった……!
俺は、康太の言う「大事な話」が、自分が「まさかね」とは思いつつも想像していたものに、予想以上に近かったので、内心、すごく驚いていた……。
しかし、そんな俺の戸惑いは、康太に何か勘違いさせてしまったのか、康太は慌てて俺にこう付け足した。
「嫌ならいいんだ……確かに、母さんにとっても、瞬はもう家族同然だったし、でも、そこにいきなり『恋人』だって紹介されて、母さんが瞬を……いや、そんなことは絶対ねえけど。不安だってのは、分かる……だから」
「え、あ……違うよ、康太!俺、それで戸惑ってたんじゃなくて……」
「違うのか?」
康太が首を傾げる。俺は「うん」と言って続けた。
「……なんて言うか。俺、その、すごく嬉しくて。康太が、俺のことをそういう風に思ってくれてるのが……だから、すごく夢みたいで、それで、びっくりしちゃって」
むしろこんな展開を妄想してた……なんて、さすがに言えないから。言葉を選びながら、俺は康太に自分の気持ちを伝えた。すると、康太は「そうか」とほっとしたような顔をした。
でもすぐに、康太は、俺をじっと見つめて、今度はこう訊いてきた。
「不安は、ねえか」
「大丈夫だよ。確かに……打ち明けるのは、すごく緊張する。でも、実春さんは俺にとっても、もう一人の母さんみたいな存在だと思ってて……だからこそ、ちゃんと、康太とのことは話したいって思う。それに……」
「それに?」
──康太は、実春さんの「大事な息子さん」だからね。
その「大事な息子さん」を預かってるわけだから、挨拶はきちんと必要だ。
……なんて、そんなこと言ったら、康太は「そんなんじゃねえって」って返すに違いない。
だから俺は、代わりにこう言った。
「康太がそばにいてくれるから」
「……おう」
康太が恥ずかしそうにそっぽを向いて、コーヒーを一口啜る。
俺はその横顔に、改めて「俺も、どんな時も康太のそばにいる」と誓った。
──そんなことがあって、今日。
「息子さんを……僕に、ください!……うーん、ちょっと違うかな……?」
居間のテーブルに座らせた、前に康太に貰ったぬいぐるみポーチを前に、俺は「明日」の予行練習をしていた。
「実春さんに俺達の関係を話す」……二人で話した結果、そう決めた俺達は、善は急げ、とばかりに、実春さんのお仕事がお休みで、家にいる「明日」──二人で挨拶をしよう、ということになった。
とはいえ、「挨拶」なんて実際、どんな風にしたらいいのか分からない。だから、色んなところで見たイメージを通して「こんな感じかな……」とシミュレーションしてるんだけど、難しいね。
──こんな時、誰かに相談出来たらいいけど……。
いずれ話すつもりだけど、母さん達には、まだ俺と康太の関係を話してないから、当然まだ、相談できない。
他に「こういう経験がありそうな大人」といえば、今朝、たまたま、みなと先生に会ったから、ちょっとそんな話をしてみたけど、何故か「うーん……俺も……そういう経験をする前になあ……」と遠い目になってしまった。あの時の先生の目はすごく悲し気だったな、どうしたんだろう……。
「うーん……でも他に相談できる人なんて」
「おるやん。儂が」
「いないよなあ……」
「だから、おるって。儂」
「……」
俺は、どこからともなく、ぬっと現れた澄矢さんを、無言で見つめる。うーん……。
「なんやねん、その目。儂やって、有効なアドバイスできるで?何のための守護霊やねん。ご主人様の人生をより良き方へ導くんが務めやで?」
「気持ちは嬉しいけど……ちょっと……信頼感が……」
「大丈夫やって!儂、元・縁結びの神様の使いやで?むしろ信頼しかないやろ」
「ほ、本当に?」
「そらもう」
澄矢さんが平たい胸を張る。俺は少し迷ってから……「話だけなら」と耳を傾ける。
すると、澄矢さんが「任しとき」と、部屋には誰もいないのに、何故か俺の耳元で、ごにょごにょと、その「有効なアドバイス」を俺にしてくれた──。
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