【ろぐぼ】5月12日編②

【ログインボーナス】


[(和)login+bonus]オンラインゲーム等において、ログイン時に、ユーザーに対してポイントやアイテムを付与すること。


転じて、本編に収まらなかったエピソードを、週に一度お届けすること。

[略]ろぐぼ


[例文]今週は、5月12日に起きていた出来事の一部②をログインボーナスとしてお届けします。



______________



【※絶対に真似しないでください】


「車に乗って魔宮を探検する」というストーリーのアトラクションに乗る時のことだった。列に並んでいる途中、森谷が俺にこう言ってきた。


「なあ知ってるか?このアトラクション、上級者は足をちょっとふわっと浮かせて、手すりも緩めに握って乗るんだよ。その方がスリルがあるんだって」


「え?でも危ないよ……森谷、どこで聞いたのか分からないけど、心配だからやめてね」


「ああ、絶対やらない。誓って、やらないぜ……でも、俺が本当にやらないかどうか、立花が隣で見張ってくれたら、もう確実にやらないぜ」


「いや、知らねえよ。勝手にやってろ」


すると、康太がまた間に入ってきた。康太は更に森谷に言った。


「そんなに心配なら、俺が隣で見張ってやるよ。一緒に乗ろうぜ裕斗」


「何でだよ!瀬良の隣で乗るくらいだったら、シングルで乗った方がマシだぜ。あと下の名前で呼ぶなよ」


「おい、うるさいぞお前ら……もうすぐ乗り場着くんだから、大人しくしろ」


康太と森谷のやり取りに、西山が呆れている。よく分からないけど……。


「康太は、森谷の隣で乗るの?」


「え?まあ、(森谷が)瞬の隣になるよりマシだろ」


「えっ」


康太にそう言われて俺は……ちょっと、いや、大分ショックを受ける。

やっぱり、さっき康太と乗った「水上でぐるぐる回るやつ」で騒ぎすぎたのがうるさかったのかな……?


だけど、そんな俺の「ショック」は顔に出てしまったのか、康太は慌てて言った。


「違えぞ、瞬。俺が言いたかったのは、森谷が瞬の隣に座るのは許さねえってことだ」


「う、うん……?」


「だから、俺だって、まあ、もちろん瞬の隣の方がいいっていうか……とにかく、そういうことだ」


「本当?」


「ああ、そうだ。だから、また一緒に乗ろうぜ」


「……うん!」


「……俺、立花の隣じゃなくてもいいや」


何故か明後日の方を見ながら、森谷が言った。



_____________



【おそろっち】



「……」


帰りに寄った土産物屋でのことだった。


ここは、瞬がガイドブックで、「お土産ならここ!」と目星をつけていた店のひとつで、このパークのメインキャラクターらしい、クマのグッズを主に扱ってるらしいんだが……俺は、とあるコーナーに惹きつけられていた。


──可愛い、けど……。


「とあるコーナー」とは、マスコットが売ってるコーナーのことだ。


このマスコットは、パークでもよく見かけた、でかいクマのぬいぐるみよりもずっと小さくて、カバンに付けたりなんかもできるものだ。まあ、正直なところ、全く俺の趣味でも何でもないものなんだがな……俺がつい、このコーナーのあたりをうろついてしまうのには理由がある。それは──。


──瞬、さっき、こいつを見てたよな……。


瞬がこの店で買い物がしたいと言うので、俺は瞬が買い物をしている間、店を適当に冷やかしていた。その途中、買い物かごを手にした瞬が、このマスコットを手に取って……しばらく悩んだ後、棚に戻すのを見てしまったのだ。


瞬の様子から察するに、瞬はかなりこいつが欲しかったんだろうが……迷った末に諦めたんだろう。

だから、俺は、そんな瞬が惹かれていたらしい、こいつが気になって、このコーナーに来てみたんだが……瞬が諦めたのも納得だ。


──いい値段するんだな……こいつ。


何気なく値札を見て、びっくりした。お前……結構な値段するじゃねえか。今日、パークですれ違った奴で、こいつを大量にカバンに付けてた奴がいたから、もうちょっと手頃なのかと思ったぞ。


なるほど、俺の昼食代一週間分くらいのこいつを、学生主夫の瞬が買わなかったのは無理もない。

理由が分かったところで、俺もコーナーを離れようとして……ふと、頭にさっきの瞬がよぎる。


──すげえ、欲しそうだったよな……。


目を輝かせて見ていたこいつを、渋々棚に戻す瞬の姿が、忘れられない。


俺はリュックから財布を取り出して中身を覗く。


──まだあるな。


今日は出がけに、母さんから「これでお昼とか、お土産とか買いなさいよ」といつもより少し多めに小遣いを貰っている。余りは普段の小遣いに回せるし、と家へのお土産は一番安くて大量に入ってるお菓子とかにしたから、まだ少し……余裕はある。こいつを買うくらいなら、十分。


俺は、再び棚の前に戻る。戻って……瞬のカチューシャと同じ、ピンクのクマを手に取る。

つぶらな瞳は「私を瞬のところに連れて帰ってよ!」と訴えているようだった。


「……よし」


「あれー?瀬良っちじゃん!どうしたの?こんなとこで」


「うおっ!?」


その時、ふいに後ろから声をかけられて──誰かと思えば、舞原だった。

ねずみの女子の方のカチューシャを着けた舞原は、俺の手の中にあるクマを見て、すぐに何かを察したのか……にやにや顔で言った。


「瀬良っちー……もしかしなくても、ばなさんの分?ひゅーひゅーだね」


「……うるせえな」


「いいじゃん、ばなさん喜ぶよ!きっと」


まあ、そりゃあ、欲しそうにしてたしな。

そう思っていると、「でもなー」と舞原が言った。


「もっとばなさんが喜ぶことがあるよ」


「何だよ、それ」


俺には言ってないけど、舞原には言ってた……何か他に狙ってたグッズがあるのか?


「ふふ……気になる?」


「……教えろ」


「もちろん」と舞原がマスコットの棚に手を伸ばす。舞原が手に取ったのは──。


「はい、おそろっち」


「おそろっち?」


わけもわからず、それを受け取る。これは──ピンクのやつと対になる……ベージュの方のクマだ。


「瞬はこいつも欲しかったのか?」


「相変わらずにぶちんだなー瀬良っち。そうじゃないよ、お揃いにするってこと。これは瀬良っちの分」


要するにだ。


「俺もこいつを付けろってことか?」


「そうそう。ピンクちゃんの方だけでも喜ぶと思うけどー……瀬良っちが、おそろっちにしてるって知ったら、ばなさん、もうすっごく喜ぶよ!」


「そういうもんか……?」


俺は手の中の二つのクマを見つめる。今度はベージュの方のクマが「僕も連れて帰ってよ!」と訴えかけてるように見えた……なんか、戻すのも憚られるな。


──二匹……まあ、買えなくないけど。


問題は、俺がこいつを付けられるかどうかってことだ。いや、付けなくてもいいか?家にこいつがいるだけでもいいかもしれないな……なんて、俺はこのコーナーをうろついてる間に、こいつに妙な親近感を覚え始めていた。


だって、こいつ──このちょっととぼけた感じが、瞬に似てるしな。


「まいどー!」


「お前は店員か」


結局、俺は舞原に促されるような形で、こいつらを連れて帰ることになった。リュックの中に仲良く収まったこいつらのうち一匹を、明日……瞬にやるから、引き離すことになるけどな。


まあ、俺と瞬の付き合いがこれからも続く限りは、こいつらも一緒だ。


そうなればいいな……と俺はそっと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る