4月10日

【条件】


1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。


2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。


3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。





三年五組


1 會澤 紘子

2 伊藤 勇太

3 池田 牧也

4 稲見 大輔

5 岡田 あいり

6 小野田 博和

7 樫井 千晴

8 茅野 美玖

9 木澤 春汰

10 久保 真理菜

11 小池 友梨

12 齋藤 悠哉

13 坂本 志保

14 佐々木 祥哉

15 柴田 颯人

16 須賀 桜

17 関 瑛太

18 瀬良 康太

19 立花 瞬

20 田幡 竜己

21 茅ヶ崎 悠希

22 津沢 美樹

23 中野 真琴

24 生天目 郁也

25 西山 琉

26 橋下 卓

27 樋田 智実

28 星野 拓海

29 本田 大智

30 舞原 萌未

31 前田 翔吾

32 松尾 遥

33 三上 麻奈美

34 森谷 裕斗

35 八木 雄介

36 湯川 佳奈

37 横山 愛美

38 由美 伊月

39 綿貫 悠真

40 渡井 奈帆



「……あっ!」


掲示板を見ようとごった返す昇降口で、人の間を掻き分けて──俺はやっとの思いで「それ」を見た。



18 瀬良 康太

19 立花 瞬



「……康太!」


ぱっと隣を見ると、康太も俺を見ていた。目を丸くして、口は今にも叫び出しそうで……きっと今考えてることは、俺と同じだ。今くらいはそう思ってもいいよね?


なんて……次の瞬間、俺達は声を揃えて言った。



「「一緒じゃん!」」



──4月10日。


俺と康太は、今日から三年生になった。


康太と、最初で最後の……「高校のクラスメイト」としての、一年が始まる。





「なんだよ、また瀬良と一緒じゃねーか」


「それは俺が言いてえぞ、西山」


康太と一緒に教室に入ると早速、西山が話しかけてきた。そうだ、西山ともやっと同じクラスになれたんだね。


「……立花。俺のことは全く見えてなかったみたいな顔だな」


「そ、そんなことないよ。西山とも一緒になれて嬉しい。よろしくね」


「おう、よろしく」


西山が右手を出してきたので、俺はそれを両手できゅっと握って握手した。今更何で握手……とも思ったけど、西山は今日からクラスメイトだ。最初の挨拶はちゃんとしないとね。


「おい、俺ともしろ」


すると、何故か康太も俺に右手を出してきた。俺は「はいはい」と応じようとして……ちょっと昔のことを思い出す。


「……ダンゴムシ隠し持ってない?」


「持ってねえよ!もう高三だぞ」


「いいから」と半ば無理やり手を取られて、康太と握手する。康太は握った手を乱暴にぶんぶん振った後、いきなりぱっと手を離した……何がしたかったんだろう──と思ったけど、もしかしたら康太なりに新しいクラスに浮かれてるのかもしれない、なんて。


「なあ」


すると、今度は背後から誰かが話しかけてくる。ぱっと振り返るとそこには──。


「立花の握手会の会場はここか?」


「そんなもんやってねえよ。帰れ、家に」


「いきなりひどすぎだろ!」


確か……森谷?だったかな。その森谷が康太に手で追い払われていた。何回か話したことはあるし、康太ともたまに一緒にいるところを見るけど……この人も同じクラスだったんだ。とりあえず、改めて挨拶しておいたほうがいいかな。


「えっと、俺……立花瞬です。よろしくね?森谷……」


裕斗ひろとだ。なあ、俺達折角クラスメイトになったんだし、名前で呼び合わないか?俺も瞬って呼ぶから」


何故か鼻を膨らませてそう提案してきた森谷に、康太が口を挟む。


「ふざけんな。瞬にメリットが一つもねえじゃねえか。むしろ損でしかないだろ」


「な、なんだよ!自分はとっくに名前呼びだからって……ちょっとくらい、いいだろ。俺にも立花の幼馴染気分をお裾分けしてくれよ」


「易く分けられるもんじゃねえんだよ、瞬の幼馴染は。分かったか?裕斗」


「瀬良に呼ばれても嬉しくねーよ!」


「あいつらは放っとけ、立花」


「う、うん……」


西山に促されて、俺は席に着く。顔の広い西山は、他のクラスメイトにも挨拶に行ったみたいだ。俺は改めて教室をぐるりと見渡してみるけど……あんまり話したことのある人はいないかなあ。


「ばーなさんっ!」


「わっ!?」


とか考えてたら、いきなり、横から呼ばれてびっくりしてしまう。こんな風に俺を呼ぶのは彼女くらいしかいない──。


「舞原さん」


「やっほー、ばなさん。やったね!三年連続クラスメイトだー」


「ほんとだ!すっごい偶然だね」


「ビンゴだったら一等賞間違いなしだよっ!またよろしくね!」


「うん、よろしくね」


正直、ビンゴの例えはよく分からなかったけど、舞原さんとまたまた同じクラスなのは純粋に嬉しいな。彼女とお話しするのはすごく楽しいから──そう思っていると、舞原さんは早速隣の席に腰を下ろして、俺に話しかけてくる。


「同じクラスと言えばさー、みっくも同じクラスなんだよ!今日はまだ来てないみたいだけど……楽しみだよね?」


「みっく?」


舞原さんは、独特のあだ名で皆を呼ぶから、俺はその名前にピンと来ない。首を傾げていると、舞原さんが「茅野っちだよ」と教えてくれた。ああ、茅野さんか。


「下の名前が美玖だから、『みっく』ね」


「そうなんだ。でも、茅野さんも同じクラスなら安心だね」


一緒に一年間クラス委員をしていたし、こうして改めて名前を聞くと、思っていたより知り合いが多いかも。俺はますます、このクラスで過ごすこれからが楽しみに思えてきた。


すると、そんな俺を舞原さんがにんまりして見ていた。この顔はもしかして……。


「ふっふっふ。ばなさんたら、みっくのことも、私のことも気付かないで……そーんなに誰かさんと一緒なのが嬉しかったのかなっ!このー」


ほらね。舞原さんの「からかいモード」だ。全く困ったなあ。俺はとりあえず、抵抗を試みる。


「だ、誰かって誰のことかな」


「それはもちろん──」


「……おす、舞原」


「おー、瀬良っち。いいところに」


すると、舞原さんの後ろから康太が寄ってきた。あれ、この二人って……。


「知り合いだったの?」


「まあな。瞬に教科書とか借りに行った時によく対応してくれて」


「ばなさんへのオファーは事務所を通してくれないと困るからね!」


「舞原さん、事務所だったんだ……」


それは知らなかった。でもこの二人……康太は基本、女の子には「さん付け」なのに呼び捨てだし、結構親しいのかな?康太ってモテるけど、女の子といるイメージないからちょっと意外だけど……。


「舞原とは瞬に会えなかった時とかに、瞬の話を結構してたんだ。まあ、ある意味瞬繋がりだな」


「お互いにばなさんとっておき情報を交換し合ってたよー」


「事務所、機能してないよ!」


タレントのプライバシー駄々洩れだった。まあ、いいか……相手は康太だし。でも……。


──康太の交友関係って、結構知らないこと多いな……ああ見えて、康太も顔広いんだよね。


舞原さんのこともだけど、掲示板で他のクラスメイトの名前を見た時も「なんだよ、あいつもいんのかよ」とか「あー……こいつもか」とか、ぶつぶつ言ってたし……俺の知らないところで、康太と仲の良い人も、きっといるんだよね。


そう思うと、何故か胸がきゅうっとなった。それは顔にも出ちゃってたのか、舞原さんと康太が揃って俺を不思議そうな顔で見ている。

「何でもないよ」と言うと、丁度予鈴が鳴った。クラスメイト達は席に戻っていき、康太は俺の前の席に座った。それから、新しい担任の先生が入ってきて、ホームルームが始まった。


机に頬杖をついて前を見つめる康太の背中を見ていると、少しだけあった胸の苦しさが解ける。

そうだ、俺、やっと康太と同じクラスになったんだ。


まだ知らないクラスでの康太のことは、これから知っていけばいい。





「はー……やっと終わったな」


「そうだね」


そんな話をしながら、康太と一緒に教室を出て昇降口へと降りていく。月曜日だけど、今日は図書館に工事が入るとかで、部活はお休みになった。クラス委員は明日決めることになってるし、俺も康太も、今日はもう帰るだけだ。


「あ、こっちは二年の方か」


康太が間違えて一瞬、二年の下足箱の方に行きそうになる。俺もうっかりついて行っちゃったけど、そうだよね。俺達はもう三年生なんだ。慌てて、新しいクラスの下足箱へと向かう。


「一番上ってしゃがまなくていいから楽だな」


康太がそう言いながら「18」とシールの貼られた下足入れから靴を取り出す。俺はその下の「19」だ。出席番号……もしもクラスが同じだったら、名字的に前後になるのもありえなくないなとは思ってたけど、まさか本当にそうなるなんてね。


「ふふ……」


「何笑ってんだよ」


「『そ』から始まる人がいなくてよかったなあって」


「は?」


康太がきょとんとしている。俺もちょっと……言ってから恥ずかしくなった。何言ってるんだろう。ただ、気心の知れた幼馴染と同じクラスになれたってだけで、浮かれすぎだ。


──でも、嬉しい。


心は止められなかった。康太と一緒のクラスになれて嬉しい。席も前後で嬉しい。朝、同じ教室に入れて嬉しい……嬉しい。


「何だよマジで。にやにやしやがって……」


「何でもない。行こう」


俺は康太から逃げるように、靴を履いて、先を行く。これ以上じっとしていると、何かもう、耐えられなかった。


少し久しぶりになった、いつもの帰り道を歩きながら、俺は康太に訊いてみる。


「康太は、新しいクラス、どう?楽しみ?」


「いや……なんか、めんどくせえ奴多いなって思った」


「ちょっと!」


そこは「ああ、楽しみだな」とか言ってよ。そう思っていると、康太は続けた。


「でもまあ、瞬がいたから……それで全部チャラだ。十分すぎる。楽しくならないわけないだろ」


「……」


上げて落とすんだから。いや、落として上げた?もういいや。こうなったら、俺も康太に何か言ってやりたくて……それを「今日の分」にすることにする。


「俺も楽しみだな、新しいクラス。だって……だ、大好きな幼馴染と一緒だからね」


「え……大好きな幼馴染って?」


「……」


康太しかいないでしょ、と言って、俺はこいつの脇腹を小突いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る