5月14日
【条件】
1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。
2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。
3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。
***HAPPY MOTHER'S DAY***
本日は「母の日」です♪
今日は、お母さんにも「好き」を伝えてみませんか?
実行は任意ですが、ささやかなボーナスもご用意しておりますので、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
☆
『あら、瞬。珍しいわね、電話してくるなんて』
「母さん……うん、あのね。ほら、こっちは今日、母の日だったなあ……って思って」
『うふふ……それで母さんが恋しくなっちゃったのね?』
「違うよ!ただ、その……母さんに、いつもありがとう……す、好きだよ……って言いたくて……」
『あらあら〜?ふふ、なんだか懐かしいわねえ。小さい頃は"まま、だいすき"ってたくさん言ってくれたわね、瞬』
「う……そういう恥ずかしい話はやめてよ」
『今は、父さんの方が言ってくれることが多いわよ』
「そ、そういう話もやめてよ!」
『ふふ、そういえば……瞬はいつの間にか、ママって呼ばなくなったわね。いつからだったかしら?』
「え?うーん……いつだろ……?」
『それに、自分のことも"俺"なんて言うようになっちゃって……誰の影響かしらね?』
「……母さん、本当は覚えてるでしょ」
『うふふ、どうでしょう?』
。
。
。
「はあ」
母さんとの通話を切って、ため息を吐く。
全く……いつもああやって揶揄うんだから。でも、元気そうで良かった。
いつも通り、日付が変わると同時に提示された【条件】に、最早「こういう日」には恒例となった【追加条件】。
やるかどうかは任意だったけど……そういえば最近、母さんに連絡してなかったし、恥ずかしいけど、大事なことだと思ったから、思い切ってやってみることにした。
──まあ、どんな「ボーナス」が届くのか怪しいけど。
「ボーナス」と言いつつ、役に立ってるのは「花粉耐性C」くらいじゃないかな?あとは、何か……あんまり良い思い出がない気がする。
「そないなこと言わんといてや、寂しいなあ。アレとか結構良かったやん」
「アレって何?」
気がつくと、適当関西人がすぐそばに立っていた。本当に適当だなあ。
「瞬ちゃんもなんや、大分儂に当たりがキツなったなあ?」
「胸に手を当てて考えてみなよ」
澄矢さんのせいで、大変なことになったことが一体いくつあるだろう?そもそも、この妙な【条件】だって、俺は騙されて始めたっていうか……。
「それは言いっこなしやで、瞬ちゃん。儂らがこんなことになっとるんは、多少瞬ちゃんにも原因あるで」
「うう……確かに、俺が騙されたのが悪いんだけど」
「そこやないで」
「え?」
澄矢さんは首を振ってから、言った。
「瞬ちゃんがものごっついラッキー引き当てたんは間違いないけど……お前ら風に言うならや。始めから流すつもりでチケ申し込むんは良くないやん?」
「はあ……えっと?」
「せやから、実際当たったんやったら、きちんと払ってもらわな困るっちゅうことやな。まあ、一番悪いんは、あいつやけど」
……どういうこと?
そう訊きたかったけど、澄矢さんは「それより」と、話を変えた。
「そんなに言うんやったら、瞬ちゃん、ボーナス選ばしたろか?」
「え?選べるの?」
「まあ、日頃迷惑かけてるんは事実やし、あいつよりは瞬ちゃん、儂にも優しいからサービスしたるわ」
そう言って、澄矢さんがどこからともなく、分厚いカタログのようなものを取り出した。
前に、母さんが結婚式で貰ってきた「カタログギフト」みたいなやつだ。
澄矢さんがカタログをぱらぱら捲って「今回やったらなあ」と、俺に見せてくれる。
「このあたりが選べるで」
「えっと……どれどれ」
【ブルーライト・紫外線99%カット仕様・羽のように軽い着け心地!最高級「スケスケ透視眼鏡」】
【厳選素材を使用した、口当たりの良い職人こだわりの至高の逸品。飲めば自信が溢れてくる──「凄ジュース」】
【最新型AI搭載・全てがあなたの思い通りになる、超快適スマートアシスタントロボ──のように身近な人を操れる!「催眠リモコン」】
「……募金で」
「カタログの後ろの方とかによく載っとるな、確かに」
危なかった。見ておいてよかった……こんなもの貰っても使えない、絶対。
「えー夢のようなアイテムやん?好きな子の裸見たない?」
「見たくないよ!」
康太の裸なんて見たところで困るだけだ。澄矢さんは「どうやろなあ」ってニヤニヤしてるけど、困るったら困るのだ。
「じゃあ今回は募金っちゅうことで、せやなあ……とりあえず瞬ちゃんに【徳】を加算しとくわ」
「徳?」
「積んでおくと、日常、ちょっと良いことが起きやすくなったりするポイントや」
良いことって……それも何か怪しいけど。でも、さっきのいかがわしいアイテムよりはずっといい。
そんなわけで、あんまり実感はないんだけど、俺は【徳】を積んだらしい──でも、その効果は、意外と早く現れた。
「あれ、康太?」
スーパーに買い物に行った時だった。入ってすぐのあたりで、よく知った後ろ姿を見かけたので、声をかける。
「あ……瞬か」
「どうしたの?お使い?」
「まあ、そうだけど……」
俺の方を振り向いた康太は、何だかそわそわしていた。手には中身が詰まったエコバッグを提げてるから、たぶん、康太が買い物はもう終わったんだろうけど……。
「何か探してるの?」
「いや……大したことじゃねえ。もう帰るとこだ」
そう言って、俺に手を挙げ、康太はその場を離れようとする。そういえば康太、何見てたんだろう──と思って、見ると。
【母の日の贈り物に……カーネーション】
「実春さんに?」
「……クソ」
康太が頭を掻いて、そう吐く。俺はつい笑ってしまった。
「何だよ、ちょっと目についたから見てただけだって」
「いいと思うよ。喜ぶんじゃないかな」
「喜ばねえよ……花とか興味ないだろ、母さん。俺もこういうのガラじゃねえし」
「そうかな?でも、だからこそ貰ったら嬉しいと思うよ。康太がこういうの気にして、わざわざ買って来るって……俺だったら嬉しいし……康太のこと、可愛いっていうか、好きだなあって思う……」
そう言うと、「それは瞬だからだろ」と康太は俺から顔を逸らしてしまった。根は素直なのに、康太は時々こんな風に、ちょっと素直じゃない時もある。
いや、自分でも分かってるからこそ、こうなっちゃうんだろうけど。
──本当は何かしたいんだろうな。
それはたぶん……この前、喧嘩しちゃったのもあって……一応、仲直りはしたんだろうけど、康太の中でまだ引っかかってることがあるのかもしれない。だからこそ、「らしくない」ことも意識してて……。
──よし、それなら……。
「そうだ。俺も実春さんに何か渡したいなって思ってたんだよね。いつもお世話になってるし……一緒に何か買おうよ」
「え?いいよ別に……」
「じゃあ、お願い。一緒に選ぼう?」
そう言って、康太の手を引くと、康太は渋々……でも、そのうち、ふっと表情が柔らかくなって、「分かった」と頷いた。
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