10月17日(火)

\めざせミリオン!/

【秋のポイントがっぽり☆びくんびくん大感謝祭ウィーク】


○10月16日〜10月22日までの期間、これまでのご愛顧への感謝を込めて、上記キャンペーンを実施します♪


期間中は、行動によって獲得できるポイント数が、レート表より【×100倍】となります。

ゲームクリアに向けて大きく前進するチャンス♪

是非チャレンジしてみてくださいね。


なお、期間中は通常の【ルール】に代わり、下記の【特別ルール】が適用されます。


【大感謝祭ウィーク特別ルール】


①ポイントを【×100倍】にするための対価として、立花瞬に【感度が100倍になる呪い】を付加する。


②期間中の【ノルマ】は、【一週間の獲得ptの合計・100,000pt以上】とする。

(この間、通常の一日単位でのノルマは廃止とします)

達成できなかった場合はペナルティとして、立花瞬に付加された【呪い】は永久に解かれない。


『あ、ちなみに……期限より先にノルマ達成しても、期間中は【呪い】かかりっぱなしだからねー?』


______________



「立花!」


「っ、わ!」


昼休み。行き交う生徒で賑わう廊下を歩いていると、いきなり後ろから声を掛けられる。振り返るとそこにいたのは──。


「森谷か。これからお昼ご飯?」


「おう。学食行くとこだぜ。立花は?」


人懐こく笑う森谷が手を挙げながら、俺に寄ってくる。隣に並んできた森谷が、俺の肩に触れようとするのを、さりげなく避けつつ「教室に戻るところだよ」と俺は返した。すると、森谷が「そっか……」と腕を組んで、何かを考えるような素振りを見せる。


「森谷?」


「うーん……じゃあ俺も購買にして、教室で食おうかなー?」


「えっと、じゃあ俺達と一緒に食べる?康太と西山もいるけど」


「いや、なんていうかさ……たまには、二人きりっていうのもどうかなって思うんだけど」


「二人きり?」


森谷の言っていることがよく分からず、首を傾げると、森谷は俺に「そうそう」とさらに距離を詰めて言った。


「ほら、俺らって今度の文化祭……店番のシフト一緒だろ?だから親睦を深めといた方がいいんじゃねーかなって」


「え?俺、森谷と一緒だったの?」


それは初耳だ。店番のシフトが決まったなんて、俺はまだ聞いてなかったはずだけど……森谷はクラスでも顔が広いから、色々と情報が早いのかな。


俺は「よろしくね」と森谷にぺこりとお辞儀をした。すると、森谷は「そうじゃないだろ」と首を振った。


「綺麗なお辞儀の時に見える立花のつむじも好きだけど……こういう時は、そんな堅苦しいやつじゃなくてさ。もっとあるだろ?」


「え?」


さらに森谷が詰め寄ってくる。思わず後退りすると、森谷は俺に向かって手を差し出して、こう言った。


「ほら、手……握ろうぜ……」


「て、手?ちょっと待って、えっと……その」


「ああ、大丈夫大丈夫。消毒とか、俺そういうの全然いいから!むしろ、立花の油分を俺に擦りつけてくれよ」


「う、うん?よく分からないけど……でも、俺……」


「遠慮すんなって……ほら」


戸惑う俺の手を森谷が取ろうとして──。


「おう、森谷。俺もシフト一緒らしいから、よろしくな?」


「いてててて!?瀬良……!何すんだよ……!?」


そのまま、割って入って来た康太に手を掴まれて、捻られてしまった。腕が紫色になるくらい捻られて悶える森谷が可哀想なので、康太に「離してあげてよ」と言うと、康太は森谷の手をぶん、と乱暴に離して言った。


「そんなに手を握りたいなら俺が好きなだけ握ってやる。だから瞬には触るな。いいな」


「ふざけんな、瀬良と手を握るくらいなら犬の糞を手掴みした方がマシだぜ……クソ、覚えてろよ!」


「あ、森谷……行っちゃった」


なんだか捨て台詞みたいなことを吐いて、森谷は去ってしまった……お昼はどうするんだろう?


と、いうのはとりあえずさておき……俺は、隣で呆れたように肩を竦める康太に言った。


「……あそこまでしなくても大丈夫だったのに」


「大丈夫じゃねえよ。【呪い】云々がなくても、あいつはダメだ」


「そ、そうかな……?」


すると、森谷の消えた方を睨んでいた康太が俺をちらりと見る。それから……ぼそりと言った。


「あいつっていうか、他の奴は……ダメだ」


「康太……」


そんな風に言う康太の耳は少し赤くなっていた。照れているのか、俺と目を合わせない康太が可愛くて、ここが往来──廊下のど真ん中ってことも忘れて、つい、その手を取って、ぎゅっと握りたくなる。だけど──今は、康太とそれはできない。


俺には【呪い】がかけられてるからだ。


──『瞬ちゃんにかけられたんは──【感度が100倍になる呪い】なんや』


それが、このゲームのマスター「せかいちゃん」さんによって、ある日突然、俺にかけられた【呪い】だった。


期間は一週間。その間、俺の身体は……すごく感じやすくなってしまっていて。


昨日だって、康太にほんのちょっと肘で小突かれただけで、身体がかっと熱くなって、ぞくぞくして……外なのに恥ずかしい声が出ちゃったのだ。


こんな状態じゃ、【ノルマ】以前に日常生活が大変だ……なんて思って、困り果てていたんだけど、一日経って、どうやらそうでもない……ということが分かってきた。


──というのも。



『おう、瀬良、立花。昼飯か』


『っ、わ、に、西山……っ!?』


恥ずかしいことにならないように……と息を潜めるように、人を避けながらお昼まで過ごしていたところに、不意に、西山に肩を叩かれてしまったのだ。思わず、身体がびくっとなってしまったけど──それが、朝、康太に触れられた時とはまるで違って。


──あれ?ちょっとびっくりはしたけど……身体は熱くないし、ぞくぞくもしない?


康太と俺は『もしかして』と顔を見合わせた。

その後、俺達の教室に合流してきた猿島にもお願いして、頭を撫でてもらったら……結果はやっぱりだった。


『……っ』


『んー、瞬ちゃんは相変わらず、羨ましいくらいのつやつやサラサラ髪だねー。今度うちでカットモデルやらないー?母さん喜ぶかも』


猿島は手触りを楽しむように、俺の髪をわさわさと撫でたけど……俺の身体は何ともなかった。


つまり。


──康太に触られた時だけ……あんな風になっちゃうってこと?


実際、その後も、康太以外の人とすれ違い様にちょっとぶつかってしまったり、肩を叩かれて呼ばれたりしたけど……同じだった。

だから、これは間違いない。


今の俺は──康太に触れられた時だけ、感度が100倍になってしまうのだ。


『相変わらず、悪趣味なこと考えやがる……』


猿島にひとしきり頭(というか髪)を撫でられても何ともない俺を見て、康太は苦い顔でぼそりと言った。


なんとなくその顔が不満げというか……拗ねてるように見えたので、俺はデザートに持って来たシャインマスカットを一粒、康太に食べさせてあげた……康太の口元に運んだ時に、指に康太の息がかかると、やっぱりちょっと、ぞくぞくしちゃったんだけど……そこはなんとか、ぐっと耐えて。


『……っ、お、美味しい?』


『ん……うまい。これ……高級品だろ。どうしたんだよ』


『みなと先生に貰ったの。実家から送られてきたんだけど、いっぱいあるからって俺にもひと房……まだあるよ?』


『……もっとほしい』



『家でやれ』


『あー……この辺には一生秋が来ないねー、アツアツだねー』



──と、まあ……そんなことがあったんだけど。


「えっと……音響機器……は、貸出申請いらないよね」


「柴田が自前の用意してくれるんだよな。それより、イートイン用の丸テーブルの方はどうだ?希望すればラウンジから持ってこれるんだろ」


「うん。あったら、見栄えよくなるかもね。その辺は内装担当と詰めよっか……」


それはそれとして、今はHRの時間。今日は、いよいよ来週末に控えた文化祭の準備だ。


俺達三年五組の出し物は菓子パンやちょっとした飲み物を売るお店──「武川ベーカリー」をやることになっていて、それぞれ、パンの仕入れや店の内装、衣装なんかの話が大詰めになってきているところだった。教室では、限られた時間で準備を進めようと、あちこちでわいわい盛り上がっていて、皆楽しそうだ。


そんな中、俺と康太は机に向かって、クラス委員として色々な申請関係の書類のまとめをしていると……「衣装調達担当」の小池さんが「二人とも」と寄ってきた。


「今皆に訊いてまわってるんだけど……二人も、店番の時に付ける『アレ』選んでくれる?」


「ああ……『アレ』か……」


「ほ、本当にするんだね」


「もちろん」


そう言って、小池さんがにっと笑う。俺と康太は顔を見合わせて、覚悟を決めた。


彼女の言う「アレ」──それは……。


「ネットでも買えるから、結構何でもいけるよ?猫耳、犬耳、うさ耳みたいなド定番もあるけど、馬とかライオンとか色々。あとハゲワシも」


「ハゲワシはお耳ないんじゃないかな……?」


「てか売ってんのかよ……」


俺と康太が口々にツッコむ「アレ」とは、そう「動物のお耳」だ。

動物さんの可愛いお耳がカチューシャとか、ピンになってるタイプの、アレ。


なんたって、うちのコンセプトは「森の動物さんたちのパン屋さん」なのだ。


そうなった経緯としては、さっくりまとめると「お化け屋敷とかみたいな凝ったやつじゃないけど、楽して楽しく、でもハロウィン近いしちょっとしたコスプレっぽいのはしたいよねー」みたいなノリになって……って感じだ。


だいぶファンシーで女子サイドの意見が色濃く出たコンセプトだけど、他のクラスと被ってないし、売店をやるにしても分かりやすいコンセプトがあるのは強みだから、俺は結構気に入っている。康太は……ちょっと面倒くさそうにしてるけど。


でも──。


「は、はい。小池さん」


「ん?どうしたの立花くん」


「あの……その、お耳のことなんだけど。俺、自分のは思いつかないんだけど……康太のは、俺が選んでもいい?」


「え?瀬良くんのを立花くんが?」


「あ、待てよ。俺だって、自分のはどうでもいいけど、瞬のなら思いついてる。俺も瞬のを選びたい」


「え、瀬良くんも?……あー、はいはい。分かった分かった。そういうことね……はい」


小池さんが何故か俺達を交互に見遣って、やれやれと首を振る。それから、俺達に「このサイトに載ってるやつだったら大丈夫だから。明日までに決めてね」とURLを送ってくれた……家に帰ったら、じっくり選ぼう。


と、密かに拳を握っていると、小池さんが「あ、そうだ」とさらに俺達に言った。


「クラT(※クラスTシャツの略。クラスメイト全員のあだ名とかが背中にプリントされてるアレ)の発注もするから……二人とも、サイズ教えてくれる?」


「ああ、それもか」


「えっと、男女兼用サイズなんだよね」


「そうそう、これね」


そう言って、小池さんがTシャツのカタログを見せてくれる。そこには身丈と肩幅がどのくらいだとどれとかが載ってるけど……微妙だな。


「康太はLだよね。俺も……これならLだと思うけど、もしかしてちょっと大きいかな?Mでもいいのかなあ……」


「微妙なら測ってくるか?誰かメジャー持ってるだろ」


「あ、私持ってるよ。悪いけど、今日中には確定しちゃいたいから、測るなら今してくれると助かる」


ほい、と小池さんがスカートのポケットからメジャーを渡してくれる。……それなら、気になるし、測って来ちゃおうかな。

なんて思ってると、康太も「手伝う」と言ってくれた。俺は康太にうん、と頷くと小池さんからメジャーを受け取って言った。


「ありがとう。じゃあ、俺……ちょっと測ってくるね」


「あ、うん。いってら」


小池さんがどうしてか、目をぱちくりさせつつも、俺達に手を振る。俺は康太に「行こう」と言って、そそくさと教室を出た。



「……え、ここで測ればよくない?何で二人で教室出る……?」





「ここなら、人いねえし大丈夫だろ」


「う、うん」


教室から少し離れたところにある空き教室に入ると、康太が外を警戒しつつ、後ろ手でドアをぱたり、と閉める。

うす暗くて埃っぽいし、ほとんど倉庫扱いみたいな教室だけど、それ故に人もほとんど来ない。


どうして、わざわざこんなところまで来たのかと言うと……。


「一人だと測りにくいし、でも、康太に手伝ってもらうなら、教室だと……」


「ああ、俺も気を付けるけど……100倍、だもんな……ちょっとでも触ったらマズい」


そう、康太の言う通りだ。メジャーで一人で採寸するのはすごく難しいし、かといって、康太に手伝ってもらうとしたら、今の俺の状態だと……うっかり、昨日みたいに変な声が出ちゃうかもしれないし。ちなみに、康太以外に測ってもらうっていう案は……まあ、なしってことで。


そんなわけで、俺は康太にメジャーを渡して、後は委ねた。康太はメジャーをずるずると引き出すと、慎重に……それこそ、イライラ棒でもするみたいに、絶妙に触れるか触れないかのラインで俺の身体に巻き付けていく。


「……っ、ん」


直接触られてるわけでもないのに、康太の存在がすぐそばにあるだけで、なんだかむずむずする……。俺は手のひらで口元を抑えて、つい漏れそうになる声を我慢した。そわそわとする感覚から逃げたくて目を閉じそうになるけど、目を閉じると、余計に敏感になっちゃうから、それも我慢した。


「……っ、あ」


康太は俺のために、精一杯、触らないようにしてくれるけど、それでも時々、シャツ越しに手がほんの僅かに触れるだけで、どうしようもなく身体が熱くなってきてしまう。抑えてる息までなんだか熱を帯びてきて、自然と呼吸が荒くなった。どうしよう……。


──すぐ、教室に戻らないといけないのに……。


「あ……、ふぅ……」


授業中にふらっと二人で教室を出て、こんなとこまで来て、戻ってきた時に、顔が赤くなってたら、きっと変な誤解をされてしまうだろう。

それだけは避けないと……。


「ん、康太……もう、測れた……?」


康太がメジャーを巻く手を止めたので、そう訊くと、康太ははっと我に返るような顔をしてから「ああ」と俺に頷いた。


「……大丈夫だ。瞬ならMでもよさそうだな……戻ろう」


「う、うん、ありがとう……」


メジャーをしゅるしゅると巻き直しつつ言った康太に、俺はほっと安心してお礼を言う。


それから、ドアの小窓から廊下の様子を窺う康太の背中を見つめて……俺はぼんやりと思った。


──でも、さっきの、もうちょっと……。


「──瞬?」


「──……っ!」


康太に呼びかけられて、今度は俺の方がはっとする。俺は、大げさなくらい、首をぶんぶん振って、康太に言った。


「な、何でもないよ……行こ」


「お、おう……?」


さすがに変に思ったのか、康太が首を傾げる。だけど、俺が「大丈夫だから」と重ねたので、それ以上は何も言わず、俺と康太は揃って空き教室を出た。


──俺、何考えちゃってたんだろう……。

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