10月18日(水)
\めざせミリオン!/
【秋のポイントがっぽり☆びくんびくん大感謝祭ウィーク】
○10月16日〜10月22日までの期間、これまでのご愛顧への感謝を込めて、上記キャンペーンを実施します♪
期間中は、行動によって獲得できるポイント数が、レート表より【×100倍】となります。
ゲームクリアに向けて大きく前進するチャンス♪
是非チャレンジしてみてくださいね。
なお、期間中は通常の【ルール】に代わり、下記の【特別ルール】が適用されます。
【大感謝祭ウィーク特別ルール】
①ポイントを【×100倍】にするための対価として、立花瞬に【感度が100倍になる呪い】を付加する。
②期間中の【ノルマ】は、【一週間の獲得ptの合計・100,000pt以上】とする。
(この間、通常の一日単位でのノルマは廃止とします)
達成できなかった場合はペナルティとして、立花瞬に付加された【呪い】は永久に解かれない。
______________
──10月17日 21:10。
「うーん……どれがいいかなあ……」
受験勉強もそこそこに、ベッドに入った21時過ぎ。
部屋の明かりを二段階落として、ぼんやりとした淡い照明の下、布団に入ってスマホで眺めるのは──HRの時に小池さんに希望を訊かれた、「文化祭で店番の時に着ける動物耳」が載ってるネット通販サイトだ。コスプレグッズとかパーティーグッズを安く扱ってる通販サイトで、小池さん曰くこのサイトに載ってるものから選んでほしい……とのことで。
──いっぱいあるんだなあ……康太に着けてみてほしいのはいっぱいあるけど……。
動物耳のカテゴリーで、さっとスクロールして見ても、目移りしてしまうくらいたくさん種類がある。
定番のうさぎさんのお耳ですら、白とか黒とか茶色とかピンクとか、カラーバリエーションが豊富で、ワンちゃんのお耳だって、ダックスフンドみたいなたれ耳なのか柴犬みたいな三角お耳なのか……とにかく、いっぱいだ。
「康太は何着けても格好いいし、可愛いだろうなあ……ずるいくらい顔がいいからなあ……」
サイトに載ってるモデルさんを、頭の中で康太に置き換えながら見てるけど、どの康太も捨てがたい。いっそ、この想像の康太を集めて動物園を作りたいくらいだ……いや、やめとこう。お世話が大変そうだな。
しばらく見ていたけど、やがて、俺は大きくため息を吐いてスマホを投げ出した。ダメだ。候補がありすぎてまとまらない……。
俺は枕に顔を埋めて嘆いた。
「見た目重視でいくなら狼さんだけど、性格的には猫さんとかうさぎさんもいいよね……でもそういう解釈を全部かなぐり捨ててもいいなら、ただただ、ふわふわの狐さんのお耳を着けてるところが見たい……」
誰が聞いてるわけでもない(と思いたい)というのをいいことに、欲望丸出しなことを言ってしまう。そうだ。文化祭は、校内公開と一般公開で二日間あるし、康太は一日目と二日目で違うお耳に……は無理だよね……予算があるもんね……。
「はあ……どうしよう……」
ごろりと身体を捻って、仰向けになる。高揚感でぽわぽわする頭で、蛍光灯のぼやけたオレンジを見つめていると、つい──あの時のことを思い出して……。
──『ここなら、人いねえし大丈夫だろ』
──『ああ、俺も気を付けるけど……100倍、だもんな……ちょっとでも触ったらマズい』
「康太……」
俺の身体にメジャーを巻く時に、シャツ越しに手が触れてしまったあたり……俺は右手をそこへ──お腹へと伸ばす。
寝間着のシャツの上からそっと撫でてみると、今までにないそわそわとした感じがある。俺は恐る恐る、シャツを捲って、お腹を見た。
──そこには今も、おへそを中心にハートをあしらったような紋章が濃く刻まれている。
「……っ」
改めて見ると、妖しくも禍々しいその紋章に、俺は思わず息を呑んだ。「せかいちゃん」さんによって、俺のお腹に刻まれた紋章は、当然、お風呂に入ったくらいじゃ落ちないし、手で擦ったって消えない。むしろ……。
「ん……」
感度が高まるのは康太に触られた時だけだけど、「あの紋章」のあたりだけは別だ。自分の手なのに、紋章をなぞるように手のひらで撫でてみると、身体がぞくぞくしてしまう。ともすれば、もどかしくなるような感覚を、頭の中で必死に堰き止めつつ、だけどつい、俺は紋章を撫でまわしてしまう。
「はあ……っ、ふ……康太……」
……これは、康太にもまだ言ってないことだ。というか、紋章のこと自体、俺は康太には言ってない。
──だって、こんなの見たら……康太は……。
「何しちゃうか分かんないもんねー?」
「っ、あ、あなたは……」
その時、いきなり降ってきた声に、俺は慌てて手を止めて、シャツを思いきりズボンの中に突っ込む。「別にいーのに」とくすくす笑う声に顔を上げれば、そこには「せかいちゃん」さんが立っていた。
「……な、何ですか。今日は……」
日曜日の晩にされたことを思い出し、身構えつつそう訊くと、彼女は「何っていうかなんだけどー」と口を尖らせて言った。
「あんたら、折角の大感謝ウィークだってのに、全然ポイント溜まってないじゃん!え?何、もしかして忘れてる?デイリーノルマがないから?週間ノルマはあるんだけど」
「そ、それは……知ってます、けど……」
おずおずとそう言った俺に、せかいちゃんさんはやれやれと肩を竦めて言った。
「ちょっとちょっとー、しっかりしてよね?せっかくの出血大サービスが無駄になっちゃうじゃん!こっちは、あんたの失敗に救済をあげようと思ってやってんのにさー……自覚あんの?──自分のせいで、こんな状況になっちゃってるって」
「……っ!」
そう言うせかいちゃんさんの目は、笑ってるけど、その奥はひどく冷たかった。その目で見つめられたら、心の中の熱が全て奪われて、そのまま凍ってしまいそうだ。
俺は目の前の彼女から視線を逸らしつつ言った。
「俺のせいで……康太に危険なことをさせてることは、分かってます……」
「なーんだ。じゃあ、やることは決まりでしょ?あんたは、この前の失敗の責任を取って、【ノルマ】をしっかり全うして、早くクリアできるように、瀬良康太といっぱいちゅっちゅして、がっぽがっぽポイントを稼ぐの。分かった?」
「……」
返事もできずに俯いていると、そのうちにせかいちゃんさんは「んじゃ」とまたふらっと消えた。
俺は彼女のいた一点を見つめて、ふう、と息を吐いた。
______________
──10月18日。
「あ、瀬良くん。もしかして昨日の?何着ける……っていうか、着けてほしいか決まった?」
放課後。教室で打ち合わせをしてたらしい「衣装担当組」のうちの小池さんに声を掛けると、彼女はスカートのポケットからさっとスマホを取り出した。……察しがいいな。
俺は、そんな彼女のスマホに表示された例の通販サイトで、悩みに悩んで厳選した「瞬に着けさせたい動物耳」がこれだと伝えた。
すると、小池さんは「へえ~」とにやにやしながら俺を見る。
「な、何だよ」
「いや、瀬良くんってこういうのが好きなんだなって」
「は……?ち、違えよ。俺はただ……」
「またまたー、いいじゃん。可愛いと思うよ?これ」
「いや、俺は瞬のことが好きだから、瞬には最高に似合う耳を着けてほしいだけだ……別に、これが好きなわけじゃねえ」
「えっと、ごめん。からかおうとした私が馬鹿だったわ……」
何故か、にやにや顔をすっと引っ込めた小池さんが「了解。じゃ、これで注文するねー」と淡々と言った。
ふと、俺は気になったことがあり、小池さんに尋ねる。
「なあ、瞬はもう注文したのか?」
「立花くん?えっと……まだだよ。さっき、今日中には絶対決めるね!って声は掛けてくれたけど」
「ふうん……」
なんだ、瞬はまだ決めてなかったのか。一体、俺にどんなのを着けさせる気なんだ……?と首を捻っていると、後ろから「康太」と呼ばれる。
「お、瞬」
噂をすれば、だ。そこへ、瞬が来たことに気付いた小池さんが「立花くん」と瞬に話しかける。
「今ちょうど、立花くんの話をしてたんだよ。瀬良くんから立花くんに着けてもらう耳、聞いたんだ」
「え?俺の?康太、何にしたの?」
「内緒だ」
すかさず、俺はそう答える。すると、瞬は「えー」と口を尖らせて言った。
「教えてくれてもいいのに……気になるよ」
「届いてからのお楽しみだ。その方が面白い」
「ふーん……そっか。あ、そうだ。俺も康太の耳、決まったよ。小池さん」
「お、じゃあ、教えてくれる?」
小池さんが、瞬にもスマホを見せる。瞬は一瞬、俺をちらりと見ると、小池さんに何やら耳打ちして、二人でこそこそとスマホを見て話し始めた。何だよ。俺はなんとなく、胸がくさくさして、瞬に言った。
「おい、何こそこそしてんだよ」
「内緒」
瞬がわざとらしく、ふん、とそっぽを向いてみせる。さっきの仕返しのつもりだな。こうなったら、瞬は意地でも俺に教えるつもりはないだろう。俺は諦めて「分かったよ」と引き下がった。
「子どもだなあ……」
そんな俺達を見て、小池さんがぼそりと呟いた。
______________
「ヒントでもいいから教えてくれよ」
「それも内緒……または、康太が教えてくれたら、教える」
「断る」
「じゃあ教えない」
「ちっ」
──そんなやり取りをしつつ、二人で並んで歩く帰り道。
放課後を使った文化祭準備作業が本格的に始まったため、俺達が帰るこの時間、あたりはすっかり暗くなっていた。
秋になって、日が落ちるのが早くなったのもあるかもしれない。時折、頬に当たる風も、もう冷たい。
「ちょっと寒くなってきたな」
「そうだね。そろそろコートを出そうかなあ……」
「まだ早くねえか?」
「そうでもないよ。だってもう11月になっちゃうんだよ?一年が終わっちゃうよ……」
瞬はそう言うと、俯いて黙った。ふいの神妙な空気に、思わず、足を止めて「瞬?」と顔を覗き込む。
すると、瞬は「康太」と顔を上げて言った。
「手、繋ご……」
「え、え?」
俺は戸惑った。もちろん、いつもだったら瞬と手を繋ぐくらいはまあ……するが、今は。
「さ、触ったら、マズいだろ……それに、外だし」
「今は、周りに誰もいないから、大丈夫……それに、ちょっとだけなら」
「で、でもよ……」
瞬がそっと俺に手を差し出してくる。繋げってことだ。瞬が大丈夫って言うなら大丈夫なのか?
けど、肘で突いたくらいであんなになったのに、手なんか繋いだら瞬はどうなっちまうんだよ。
そんな俺の葛藤を見抜いた瞬は、俺にゆるゆると首を振って言った。
「不意打ちとかじゃなければ、たぶん大丈夫だよ。昨日も平気だったし、ゆっくりすれば大丈夫……だから」
「お願い」と瞬が改めて、俺に手を差し出す。俺は……少し躊躇ってから、意を決して、瞬の手を握った。
「っ、ん……?!」
指を絡めた瞬間、瞬がぴくりと反応する。俺は慌てて手を離そうとするが、瞬は首を振ってそれを拒んだ。
それどころか、瞬は俺の手をきゅっと握り返した。
「……っ、ん、ふう」
「しゅ、瞬……?」
「はぁ……、あ……」
荒い息を漏らして、何かに耐えながら、目を潤ませる瞬が心配になり、顔を覗き込もうとする。すると、その時、視界の端に表示が現れた。
【手を繋ぐ S+1,000pt】
──やっぱ、100倍になってるな……ん?もしかして。
ふと、俺は「どうして瞬が突然、こんなことを言い出したのか」に思い当たる。まさか……。
「瞬、もしかして、【ノルマ】を気にして──」
「っ、こ、康太……っ」
側の道路を車が一台走り抜けていく。
俺の言葉を遮るように、瞬は突然、俺の唇を奪った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます