10月23日(月)

【ルール】


・このゲームは二人一組で行う協力型ゲームです。


・特定の行動を行うことで、指定されたポイントを集め、ゲームのクリアを目指します。


・特定の行動とは、ペアである相手に対してする行動が対象となります。

(例:手を繋ぐ、頭を撫でる、抱きしめる 等)


・同じ行動は二回目以降、獲得するポイントが半減し続けます。ポイントの半減措置は、翌0:00に解除されます。

(例:手を繋ぐの場合→一回目 100pt 二回目 50pt 三回目 25pt 四回目 12pt 五回目 6pt 六回目 3pt 七回目 1pt 八回目 0pt…)

・このゲームでは、ポイントは参加者ごとに集計されます。ポイントは行動を起こした参加者に付与されます。

※ただし、クリアに必要なポイントを満たしているかどうかは、それぞれが集めたポイントを合算して判定します。



①二人が獲得したptが合わせて【18,083,150pt】に達するとゲームクリアです。


②9月1日~12月31日までにゲームをクリアできなかった場合、ペナルティとして【その時点での獲得ポイント数が高い方が、獲得ポイント数の低い方を殺してください】


③一日に【1,000pt以上】獲得できなかった場合、ゲームを放棄したとみなし、上記②と同じペナルティが与えられます。



〇攻略のヒント〇


セックスすると【18,083,150pt】獲得できます。



______________



「……よし、お掃除はこんな感じかな」


ほうきで掃いて、ちり取りにまとめた塵をゴミ箱に捨てる。始業前のまだ誰も来ていない教室をざっと見渡すと、なんだか不思議な気持ちになった。今はこの教室にいるのは俺だけだけど、あと十分もしたら、クラスメイトがぽつぽつと入ってきて、あっという間に賑やかな、いつもの「三年五組」になるのだ。そう思うと、この時間がすごく特別に思えた。


──ばさ……っ。


ふと、静かな教室に風がカーテンを揺らす音が響く。換気のために開け放った窓からは、秋になって少し冷たくなった、朝の清々しい空気が流れ込んでくる。誘われるように、俺は教室の窓際に寄った。


「……気持ちいいな」


窓から少し身を乗り出して、風を感じる。眼下には、校庭で朝練に励む生徒達が見えた。風に乗って元気なかけ声が聞こえてくる。それと一緒に……俺は鼻先に甘い香りを感じた。


「いい香り……」


秋口に感じられる好きな香りに、つい目を閉じると、ふいに、背後から話しかけられる。


「何してんだ」


「わ、康太」


振り向くと、すぐそばに康太がいた。もう大分肌寒くなってきたというのに、相変わらず、上はシャツ一枚で、しかも腕まくりまでしている康太は、俺の隣に並ぶと「涼しいな」と目を細めた。


「その格好で寒くないの?」


「いや、学校まで歩いてきたら暑くなったし……ブレザーは堅苦しくて面倒だろ」


「せめてカーディガン着たら?遠足の時、持ってたじゃん」


「出すの面倒くさい……どうしても寒くなったらジャージ羽織る。それか、瞬の借りる」


「サイズが合わないでしょ」


「瞬、小さいもんな」


「うるさい」


ちょっぴり意地悪く、からかうようなことを言った康太の脇腹を肘で突く。すると康太も、お返しとばかりに、俺の脇腹をちょん、と肘で突いた……俺の身体は、もうなんともなく、それを受け入れる。


──突如始まった「大感謝祭ウィーク」が終わり、一夜明け。


俺のお腹に刻まれていた、あの「妖しい紋章」はすっかり綺麗になくなっていた。そして、それと同時に【呪い】も消えて……俺は、こうして、康太と触れあっても大丈夫になった。


……とはいえ。


「本当にもう、文化祭前に風邪引いても知らないよ?せっかく、今年は康太と一緒のクラスで、店番のシフトも一緒で、それから……一緒に回りたいなって思ってるのに……」


「……そうだよな」


俺の言葉に頷いた康太が、ほんの少し、躊躇うような素振りを見せてから……俺にぴたりと寄ってきた。「何?」と訊くと、康太は俺をちらりと見て、それからぼそりと言った。


「じゃあ、寒くなったら……瞬に寄って、こうする。瞬はくっつくとあったけえし」


「……もう」


そう言われると、つい拒めなくて、教室にまだ二人きりなのをいいことに、窓際で寄り添って風を感じた。


頭と頭がくっつくような距離に康太がいると、その体温にさすがにドキドキして、身体がそわそわしてしまう。【呪い】が消えた後も、それは同じで……むしろ、【呪い】が解けてからの方がより強く感じるようになっちゃったかもしれない。


それは──自分の中にある、怖さとは別に、確かにある気持ちに気付いたからで。


──康太と、もっと……。


そんな思考を遮るように、隣の康太が突然、鼻をすんすん、と鳴らし、それから、俺に訊いてきた。


「なあ、なんか、すげえ甘い香り……するよな。これって……」


「金木犀じゃないかな。ね、いい香りするでしょ」


「おう……なんか、鼻がおかしくなりそうだ」


康太はそう言うと、今度は俺の頭に鼻を近づけてすんすん、と鳴らした。つむじのあたりがそわっとして、「くすぐったいよ」と俺は康太を小突く。その時ふと、お互いの視線がぶつかって──。


「……瞬」


「こ、康太。もう、皆来ちゃうよ……【ノルマ】の分は、朝したのに……」


「カーテンあるし……」


「そ、外から見えちゃうよ……」



「おー、朝からやってるねえ。ひゅーひゅー」



「──っ!」


その時、ふいに聞こえてきた声に振り返ると、そこには──。


「せ、せかいちゃんさん……」


「……てめえ──っ!」


ふらりと教室に現れた女の子──「せかいちゃん」さんに、康太はさっきまでの雰囲気をさっと引っ込めて、掴みかかる。だけど、彼女はひらりとそれを躱して、笑いながら、いとも簡単に康太を往なしてしまう。


「懲りないねえ……もうちょっと物分かりいいかと思ったんだけど?」


「……瞬にあんなことしておいて、どのツラ下げて来やがった」


「やだなー。あれはもう戻したって。それに、あんたら結構楽しんでたじゃん。どう?いい加減セックスしたくなったんじゃない?」


「黙れ」


そう言ってせかいちゃんさんを睨みつける康太の肩に、俺はそっと手を置く。「ひとまず退こう」の意味だ。それが通じたらしく、康太は舌打ちをして、せかいちゃんさんから距離を取る。それから、今度は睨む代わりに彼女に尋ねた。


「……何しにここに来た」


康太が訊くと、せかいちゃんさんは「それはね」とにっと俺達を見て笑ってから、息を吸ってこう言った。


「けっか、はっぴょーーーーーーーーう!」


まるで芸能人を格付けする時みたいに、大声でテンション高く言ったせかいちゃんさんに、康太が「うるせえ」と言った。

すると、せかいちゃんさんは「いいじゃん」とけらけら笑って言った。


「楽しかった感謝祭ウィークの結果発表だよ?どのくらいポイント貯められたか気にならない?楽しくいこうよ」


「どうでもいい、そんなの。俺達はてめえの思い通りにはならねえからな」


康太がそう言うと、せかいちゃんさんの目が一瞬、底冷えするようなものに変わる。だけど、すぐにいつもの飄々とした態度に戻ると、再び楽しそうに、俺達に言って見せた。


「……ま、いいや。それよりほら、じゃーん!見て、こちらが今回の結果でーす」



【感謝祭ウィーク獲得ポイント】


瀬良康太 124,200pt

立花瞬  588,500pt

合計   712,700pt


クリアまであと 17,318,474pt(10月23日現時点)



「うーん、まあ、正直もっと貯められたんじゃない?とは思うけどー、ま、あたしはよかったと思うよ」


──二人でどうするか、決めたみたいだし?


そう言って、せかいちゃんさんが、にやにやと俺達を見る。すると、康太は感情を殺したような声で、淡々と、せかいちゃんさんに言った。


「……だったら、分かるだろ。このゲームを終わらせろ。お前にも目的があるってんなら、取引をしてもいい」


「やだよ。それ、つまんなそうだし」


康太の提案はにべもなく、せかいちゃんさんに切り捨てられてしまう。それどころか、彼女は「それよりもさあ」と今度は逆に、俺達に提案をしてきた。


「いい加減、毎日の【ノルマ】のためのポイント稼ぎは飽きたっしょ?それにあんたら、『抗う』だけじゃなくて、二人で一緒に『乗り越えたい』って。それってつまりアレじゃん!やっと自分からヤる気になったかー、感心感心。だからさあ」


にんまりと笑って、せかいちゃんは言った。


「今の毎日の【ノルマ】はやめて、あんたらに新しい【ノルマ】を課すよ。今度のは【ポイント数】じゃなくて、【行動】をノルマにする。一週間以内に指定された【行動】ができたら、それで【ノルマクリア】にしてあげる。大丈夫!あんたらが、次のステップに進めるような【行動】を選んであげるから。そうだなー、最初はさあ──」

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