5月1日

【条件】


1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。


2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。


3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。





「お昼の校内放送に……俺達が?」


「はいっ!是非に、お願いしますっ!」


休み時間のことだった。教室で康太や西山達とお喋りしてたら、クラスメイトに「後輩が瀬良と立花を呼んでる」って声を掛けられた。

「後輩だし、菅又くんかな」と思いつつ、康太と一緒に廊下へ出ると、そこにいたのは、面識のないショートカットの女の子で──聞けば、放送部に所属している二年生の「衣笠さん」という子だった。


「今月末に行われる体育祭に向けて、来週から各クラスの代表に意気込みなんかをアピールしていただこうという企画でしてっ!三年五組の代表として、是非、瀬良先輩と立花先輩にご出演いただきたくっ!こうして、お二人にアポを取りに伺ったのですがっ!」


「おう……」


衣笠さんは、何というか……「ザ・体育会系」って感じで、先輩相手にもはきはきしてて、エネルギッシュだった。隣の康太は眩しそうに目を細めている。圧倒的なパワーに圧されて、今にも消し飛んじゃいそうだな……康太。


「ご出演、承諾いただけますかっ?!」


ギラギラと燃えているような衣笠さんの目に、俺も圧されながら、なんとか返事をする。


「それは……うん。頑張ります。康太もいいよね?」


「ああ、分かった。ちなみに……これって、生放送なのか?」


「いえっ!収録ですっ!お二人のご都合に合わせて、収録の日程を決めたいのですがっ!来週ですと、どのあたりがご希望でしょうかっ?!」


「うーん、俺は月曜と木曜は部活があるから、できたらそこ以外がいいかなあ……あとは、火曜日もちょっと……金曜日は遠足だし」


それなら、水曜日かな?と思っていたけど、康太がそれを遮る。


「水曜は、武川に資格試験のための補習組んでもらってるから、悪いな」


「へえ……」


俺は思わず、感心した。康太の就活はもう始まってるんだ……俺も頑張らないと。


って、今はそんなこと言ってる場合じゃないか。


「都合が合わないね……丹羽に断って、部活を休ませてもらうしかないかな」


「いや……実は、俺の補習、来週の放課後、遠足の日以外は全部入れてもらっててよ。どのみち、来週はちょっと合わねえ」


「え!?ぜ、全部?」


全然知らなかった。康太がそんなに熱心に就活に励んでるなんて……すごい、と思う一方で、ほんの少しだけ寂しいような気持ちにもなる。小鳥の雛が飛び立ってしまったみたいだ。


「なるほど……っ!」


そんな俺は置いて、衣笠さんが、手に持っていた手帳をぺらぺら捲りながら、唸っている。


寂しさは……今は脇に追いやりつつ、せっかく、アポを取りに来てくれたのになんだか、申し訳ないな……なんて思っていると。


「では……っ!こちらの事情もありまして、少々、急ではありますが……っ!本日の放課後はいかがでしょうっ!」


「今日?」


「立花先輩には……っ!可能であれば、部活のお時間を少々いただくことにはなりますがっ!」


「俺は大丈夫だ」


「康太が大丈夫なら……うん、俺も、少し部活を抜けることはできると思うよ」


「ありがとうございますっ!」


衣笠さんが手帳をぱたりと閉じてから、ぺこっと元気よくお辞儀をする。それから俺達は、彼女から企画についての大まかな説明を受け、放課後、収録に臨むこととなった。





鬼塚:はい、はじまりました~!春和高校・お昼の放送のお時間です。パーソナリティは私、放送部三年・鬼塚と~


衣笠:二年の衣笠がっお送りしますっ!


鬼塚:はい。えー、先週からですね、春和高校第六十九回体育祭に向けて、各クラスの代表二名にお越しいただき、意気込みなんかをアピールしていただいたり、色々お話聞かせていただいてるんですけども。じゃあね、もうさっそく今日のゲスト呼んじゃいましょうか。


衣笠:はいっ!本日のゲストは三年五組から、瀬良康太さんと立花瞬さんですっ!拍手っ!


(パチパチパチパチ)


康太:ああ、はい……どうも。


瞬:こ、こんにちは……。


鬼塚:お二人ともリラックスしていってくださいねー。もう家にいるみたいに、我々のことなんか気にしないでもらって、二人の世界で構いませんから。


瞬:す、すみません!俺、こういうの初めてで……こ、瀬良も、初めてだと思うし。上手くできないかもしれませんが……。


康太:おい、瞬。いきなり固すぎだろ。もっと力抜けよ。ほら、深呼吸して……。


瞬:うん。……ふぅ。あ、ちょっと……楽になったかも。


鬼塚:(ボソッ)うーん……この音声はちょっと……使えるかな……?


衣笠:何か……っ!引っかかりそうな気がしますっ!断じて、何もありませんがっ!


鬼塚:衣笠、声がでかいって……えー……じゃあ、まずはね。お二人のクラスの良い所なんかをアピールしていたければなと思いますが。瀬良さん、いかがでしょう。


康太:クラスの?あー……えっと、何だと思う?瞬


瞬:え?そうだな……うちのクラスの皆は、とにかくすごく……部活とか、自分が決めたことに一生懸命で、進路のことも、計画的な人が多くて……刺激になってます。


康太:そう、それだ。俺もそれが言いたかった。


瞬:康太も何か言いなよ。


康太:そんなこと言ってもよ……まだ一ヶ月経ったかどうかで、クラスのことなんか分かるかよ。初見で絡みとかもない奴は、顔と名前だってやっと覚えたかどうかだぜ。良い所なんて、これからだよな。


衣笠:これはこれでっ!使いづらいですねっ!


鬼塚:衣笠、ちょっと静かにしてろ……はい、ありがとうございます。じゃあね、次は……あ、これ聞いちゃおうかな。えー、お二人のクラスで一番〇〇な人は?……ってことで。まずは、一番面白いと思う人は、どなたでしょう?立花さん。


瞬:えっと……あ、うーん……やっぱり……康太かな?授業中いっつも寝てるんだけど、時々びくっとなって起きるのが、ちょっと面白いかな。あとは、何か変な内職してる時もあるし……本当は授業は真面目に受けてほしいけど、見てて……ちょっと面白いんだよね。前の席だから、気が付くと目で追っちゃうし。


康太:俺も……瞬が一番面白えな。すげえ優等生なのに、授業で差されると、たまにちょっとズレたこと言う時あるし。そういう親しみやすさが、人を惹きつけるんだろうなって思う。それでいて、ちゃんと頼りにもなるし……本当、クラス委員とか向いてるよな。


瞬:そ、そんなことないよ。康太だって、こうやってぶっきらぼうなフリをしてるけど、本当は器用で、優しいし、そういうところが好きだなって俺は思うんだけど……。


鬼塚:ちょっとあの……えー、はい。じゃあ他の質問……ってこれ、訊く意味あるのかな……?


衣笠:クラスで一番可愛い人にっ!クラスで一番格好良い人ですかっ!さらにっ!お互いの好きなところと……最早訊くまでもありませんねっ!


鬼塚:……じゃあもう、最後に、体育祭への意気込みをお願いしたいんですけどー……思いの丈を言ってもらっていいですか?はい、さん、に、いち……どん。


瞬:えっ、えっと……体育祭、たくさん頑張るので、皆で楽しい思い出になったらいいなあって思います!


康太:……そうだ、瞬が部対抗リレーに出るから、これを聞いてる奴らはどうか、応援してくれると助かる。部のために一生懸命、可愛い女装するから、瞬と文芸部をよろしくな。


瞬:ちょ、ちょっと……!


康太:こういうとこで宣伝しておいた方がいいだろ。せっかく出るんだし。


瞬:でも、まだ女装のことは部外者には言っちゃダメって丹羽が……。


康太:え?なんだよ……そうなのか?


鬼塚:……


衣笠:お蔵入りっ!ですねっ!



もう一度、撮り直すことになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る