世界が変わる前の夜 ①
──11月17日 PM19:00。
「……上手くいったようだな」
「……多嘉良」
本来の目的とは別に、それはそれで楽しかったバーベキューがお開きとなった後。
皆が帰っていったのを見計らって、多嘉良が寄って来る……俺達も用があったからな、ちょうどいい。
俺は多嘉良に頷いてから言った。
「さっき、表示を確認した。俺達は……残りの『当て馬』全員に接触して、ポイントを集めた。そして……【ゲーム】のクリアに必要なだけのポイントを集めた」
「これで……康太と俺はもう……【ゲーム】から解放されたんですよね」
瞬がそう言うと、多嘉良は腕を組んで「そうだな」と言って続けた。
「……俺達にとって【ルール】は絶対だ。それは必ず、守られるだろう」
「……言ったな?」
俺は多嘉良を睨んで言った。
今までのこともあって、どうにもこいつらの言うことは言葉通り受け取れねえ。
最初は「セックスしないと実質クリア不可」だった【ゲーム】なのだ。
それが、胡散臭い連中の横入りで、何かなあなあになった末に……クリアしてしまったのだ。
──そりゃあ、本当は知ることはなかったかもしれない『想い』に触れちまったり、西山達を巻きこんじまったんだ。決して、簡単なもんじゃなかったけど……。
正直なところ、「これでいいのか?」って気持ちがどうしてもある。
こんなに……俺達に都合良く事が運んでいいのか?
考えていることは瞬も同じらしい。瞬は眉を寄せた真剣な顔で多嘉良に訊いた。
「……この【ゲーム】は、俺達にその、そういうことをさせるための誘導が目的だったんじゃないですか。それが、どうして急にこれでいいって話になったんですか?」
「多嘉良、何か知ってることがあるなら教えろ」
「……詳しくは知らない」
多嘉良は緩く首を振った。だが、こうも続けた。
「……ひとつ言えるとするなら、あいつらは大局を見てるということだ」
「大局?」
「……状況に応じて、最も自分達の為になる方を常に選択する。そして、万が一の『保険』も抜かりない。そういう連中だ。【ゲーム】が変化したのは、何か……奴らにとって、そちらを選ぶだけの理由があったということだろう。結果的にその方が良いと思うだけの理由が」
「……理由、か」
瞬が顎に手を当てて考え込んでいる。灯篭と月の灯りだけが照らす瞬の頬の丸い輪郭は、美しい。
俺はそんな瞬の横顔につい、見惚れながらも……その肩に手を置いて言った。
「ひとまず、【ゲーム】から解放されたんだ……そっちの事情はいいだろ。必要があれば、あいつらからまた接触してくる」
──まあ、接触してきたところでお断りだが。
そう言うと、瞬は俺の顔を見上げて「そうだね」と微笑んだ。
去り際、多嘉良は「そうだ」と俺の右腕を指して言った。
「……いつの間にか腕を折っていたようだな」
「あ?まあ……名誉の負傷ってやつだ。てか、お前らのせいみたいなもんだからな」
「……いいだろう」
「多嘉良さん?」
ふいにそう言った多嘉良に、瞬が首を傾げる……何をするつもりだ?
戸惑う俺にも気にせず、多嘉良は近づいてくる。思わず、一歩退きそうになるが、例によって身体が動かなかった。
されるがままになっていると、多嘉良は俺の右腕に手をかざしてこう言った。
「……痛いの痛いの飛んでいけ」
「……瞬、言ってくれるか」
「え?……い、痛いの痛いの飛んでいけー……?」
「……上書きか」
そりゃそうだ。誰が好き好んで、自分よりもデカい野郎の、全く可愛くないバリトンボイスのそれが聞きたいだろう?瞬の方が遥かに良いに決まってる。
俺は右腕で瞬の頭を撫でて「ありがとう」と言った。ん?
「あれ……?」
「康太……!腕が……!」
瞬に言われて、俺は自分の右腕を見る。
なんと、俺の右腕は、ギプスの取れた元通りの……ピンピンした状態に戻っていた。
「お、おー……」
つい、嬉しくなって右腕をぐるぐる回す。すると、多嘉良はそんな俺に言った。
「……それは俺からの礼だ。協力のな」
「協力?俺が何かお前にメリットのあること、したか?」
「……さっきも言ったが、俺は平穏を望んでいる。そのためには、お前らに力を貸すのが最適だ」
──これも、『最も自分達の為になる方を選ぶ』ってやつか。
「……まあ、何でもいいけどよ」
俺は多嘉良に手を挙げて言った。
「平穏を望んでるのは俺達も同じだ。で、その目的はもう達成したわけだ。これ以上、お互いに用はねえだろ──じゃあな」
──もう、関わって来るなよ。
それだけ言って、俺と瞬は丹羽の家を後にした……振り返ることもせず。
。
。
。
『……どうでしたか。成果はありましたかな』
『……今するべきことは、全て済んだ」
『それはよかった。さて……上は、本当にあれを実行するつもりなんでしょうかねえ……』
『そうするのが最も良いと判断させるだけの状況は整っているはずだ。まず間違いなく、実行される』
『我々にはさして影響はないでしょうが、彼らはどうですかな。それを望むでしょうか』
『……さあな。あとは瀬良と立花が決めることだ。俺は、その答えを待つだけだ……』
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