4月22日

【条件】


1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。


2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。


3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。



♡本日、よいふうふの日♡



4月22日は、4(よい)22(ふうふ)の語呂合わせから「よいふうふの日」に定められています。


今日こんにちでは、「共に生きる二人」の在り方も多様化しており、「ふうふ」という言葉だけではない、それぞれらしいパートナーシップがあります。


相手を想う気持ちの在り方も、それを表現する方法も、一つではありません。


ですが、どんなパートナーシップでも、互いを想い合う気持ちが大切なことは同じです。


それぞれらしい「よいふたり」とは、どんな関係なのか──大切なパートナーと話してみませんか?



というわけで、本日は上記条件に加えて、下記の【追加条件】を達成すると【ボーナスアイテム】をプレゼントします。【追加条件】の実行は任意ですが、是非挑戦してみてくださいね♪


【追加条件】


・瀬良康太に、立花瞬に対して「好き」と言わせること。

ただし、直接「好き」と言うように命令したり、誘導するような質問によって引き出した場合は無効とする。(例:「す」と「き」を繋げると何という言葉になる?など。無効の判断は監督者によって行う)





「なにこれ」


目覚めて一番、提示された【条件】にツッコむ。

こんなの初めて見た……何これ。何かの啓発ポスターみたいだな……とは思うけど。


すると、困惑する俺に澄矢さんが首を振って言った。


「瞬ちゃん以外には、もうお馴染みやけど。いつものやつや。まあ、儂もさすがに今日のはちょっと色々テイストちゃうなあって思うけど……でも大事なことやな」


そう言った澄矢さんは何故か天井を見上げていた。何だろう?


「俺以外って何……まるで誰かが見てるみたいな。ていうか、誰に向かって話してるの、澄矢さん」


「瞬ちゃんは知らんでええよ……ま、それよりどうや。追加条件狙ってみるか?」


「いやいいよ……条件が厳しすぎるし、ボーナスアイテムとか何か怪しいし」


びっくりして、あんまりよく読めてなかったけど、ちゃんと読むと、大分気になるところはたくさんある。


まず、【ボーナスアイテム】って何。アイテムって言うくらいだから、この前の【花粉耐性C】とかとは違うんだよね?


それに、元々ある【条件】でさえ、すんなりはいかないのに……さらに、康太に「好き」って言われないといけないなんて難しすぎる。


「そうか?あいつ、条件受けてた時のこと、頭では忘れてるけど体は覚えてるみたいやし、ちょっと突いたらぽんと言いそうやけど」


「うーん……でも、そもそも、その状態がかなり危ない気がするんだよね。俺だって、忘れてたはずの……『康太を好きだった記憶』を時々思い出したりしたし、康太だって、そんなことしたら何かの拍子に思い出しちゃうかもしれない。そうなったら、俺が【条件】を受けてることを察して、死んじゃうことだって……」


そう考えたら、この【追加条件】は俺にはできない。康太の命が大事だ。何か言いたげな澄矢さんに、俺は首を振って、ベッドを降りた。





「俺、瞬のこと好きだわ」


「……」


達成しちゃった。


「……俺も好きだよ」


「ああ、瞬はもっと自分に自信持てよ。すげえ奴なんだから……自分のことが好きでいいんだぞ」


逆に何でこっちは達成できないんだよ。



──それは、実春さんからのお裾分けを康太が持ってきてくれた時だった。ドアを開けて、康太からそれを受け取った時に、康太が突然、ぽろっと言ったのだ。


あまりにも急だったのに、咄嗟に「俺も」と返せたのはファインプレーだと思ったのに……。


胸の中は、素直に嬉しいという気持ちと、でもどうしてという気持ちとが混ざって、ぐるぐるしている。


さらに頭では「ぱんぱかぱーん」という暢気なSEと共に「おめでとうございます!追加条件達成です。通常の条件の達成を確認後、明日、ボーナスアイテムが送られます」という文字が流れた……何だこれ。


「えっと……その」


とりあえず、どういうこと?と訊きたくなる。


でも、康太にも何か事情があるのかな……それなら、康太から何か言い出さない限り、俺は黙って受け止めるべきかな、とも思う。康太がそうしてくれてるみたいに。


すると、そんな俺の心情を察したのか、康太が言った。


「いや、なんていうか……瞬、最近、俺によく言うだろ。どういうもんなのかって思って……」


「どうって……康太はどうだったの?」


訊いてから「マズい、思い出しちゃうかな」と思ったけど、康太にそんな気配はない。ただ腕を組んで「んー……」と少し考えてから、言った。


「投げたボールは手から離れると、もうどうにもなんねえだろ。それをただ……見るしかねえなっていう……無力な感じだ」


それは、康太にしては珍しい言い回しだった。でも、俺は康太とこんな話ができたことが少し嬉しかった。康太が自分で考えて、俺に伝えようとしてくれた表現を俺は大事にキャッチしようと思った。


──無力感、か。


康太にそれを感じさせてるのは、俺が一度、康太を拒んだから……なのかな。


澄矢さんや【条件】を受けていた時のことを、今の康太は忘れてる。それでも、俺が康太を傷つけたことがなくなるわけじゃない。康太の中にその傷はまだ残ってる、ひょっとしたら、これからもずっと……その傷は時々、康太の頭を掠めていくのかもしれない。


──それなら、俺にできることはやっぱり……。


「康太」


「ん?何だ」


「俺も、康太のこと好きだよ……ちゃんと」


「……おう。ちゃんと?」


「康太の投げたボールは、俺がちゃんと受けるよ。康太も、いつもそうしてくれるから。だから、康太は何も気にしないで俺にいっぱい投げていいんだよ。俺は、康太がそうしてくれることが嬉しいし……ってこと」


「よく分かんねえな」


「自分で言ったくせに!」


脇腹を軽くパンチしたら、康太は笑ってた。もしかして照れ隠し……というのは、都合がいい見方かもしれないけど。


──これからもっと、伝えていこう。


「じゃ」と手を上げて帰ろうとする康太に、俺は、もうちょっとだけ……と思って、言ってみた。


「……本当に、好きなんだよ」


「おう……分かってるよ。ありがとう」


廊下の角を曲がるまで、康太の背中を見送る。ドアを閉めて、一人きりになってから、俺はため息を吐いた。

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