6月14日
【条件】
1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。
2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。
3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。
☆
「そういや、お前らはもう進路希望調査出したか?」
午後の休み時間──俺と康太と西山と森谷……いつものメンバーで机を囲んでお話していると、突然、西山がそう切り出してきた。
「うん。出したよ」
「俺も出した」
俺と康太がそう答えると、森谷が意外そうな顔をする。
「立花は分かるけど、瀬良はマジで?絶対まだかと思ったぜ」
「失礼な奴だな。俺はもう就職するって入学した時から決めてんだよ。調査なんてするまでもねえ」
「調査は要るだろ」
冷静に西山が突っ込む。そこで、俺は二人にも訊いてみた。
「西山と森谷は?そういえばどっちなんだっけ」
「俺は進学するけど……西山は就職だっけ?」
そう答えた森谷が西山の方を向く。うーん、俺も何となく西山は就職……っぽいイメージがあるな。だけど、西山は首を振った。
「俺は大学に行くつもりだ」
「絶対無理だろ」
「康太!」
机に頬杖をついてそう言った康太を咎める。すると西山は「まあそう言うのは分かるけどよ」と笑った。
「俺も正直、何でとは思う。卒業したらすぐ、自分とこで働く気だったからよ。けど、親父がうちを継ぐこと考えてんなら、学がねえとダメだって言うし。まあ、長い目で見たらそうかもなって」
そういえば、前に、西山の家は工務店をやってるって聞いたな。そっか。西山は将来、自分の家を継ぐつもりなんだ……と改めて感心する。
「西山はすごいね。もうそんなにずっと先のことまで考えてるんだ」
「そんな……大したもんじゃねえって」
西山が照れを誤魔化すみたいに、鼻の頭を擦る。康太が「それより」と言った。
「森谷はどこ行く気なんだよ。まさか瞬と同じとこに行こうとしてるんじゃねえだろうな」
「さすがにそんなことしねえよ!そりゃあ、大学生になって、成人した立花と飲みとか行って、酔った立花とワンチャンねえかなあとは思うけど」
「ねえよ」
康太が森谷を睨む。森谷の言ってることはよく分からないけど……でも、お酒かあ。
「いつか、もっと大人になって、皆とお酒を飲みながらお話したら楽しそうだね」
「瞬は絶対ダメだ。飲むな」
「え、えー?」
康太が厳しい口調で俺に言うと、西山が首を傾げる。
「立花だって、大人になったら飲みたいかもしれないだろ、可哀想だ。潰れたら瀬良が送ってやればいいんだし……いや、待てよ」
「何だよ」
眉を寄せる康太に西山が言った。
「その頃には、お前らはもう一緒になってるか」
「「えっ」」
「何故声を揃える」
西山の言葉に、俺達は二人して、声を上げてびっくりしていた。
俺は頬が熱くなるのを感じながら、必死に西山に言った。
「そ、そんなのまだ早すぎるよ!だって、ニ十歳でしちゃったら、康太は就職してるけど、俺はまだ大学生かもしれないし……それに、母さん達の許しも貰わないといけないし、貯蓄もないと……」
「立花は随分具体的に考えてるんだな……」
「学生通い妻ってロマンあるよなあ」
「黙れ」
心なしか頬が赤い康太が、また森谷を睨む。だけど、森谷はどこ吹く風で、腕を組んでしきりに頷いている。
「いいなあ。毎朝、エプロンをした立花がチューで起こしてくれたり、講義に行かないといけない立花を引き留めてイチャついたり、一緒にお風呂に入ったり、同じベッドで寄り添って寝るのか……瀬良の将来は眩しいぜ」
「どんな将来だ。いい加減にしろ」
康太が森谷の頭を叩く。俺は途中から恥ずかしくて、耳を塞いでいた。森谷は冗談のつもりかもしれないけど、俺にとってはその想像はどこか、心当たりがあることだから、もう恥ずかしくて仕方なかった。
康太も康太で、今日はやけに感情的になってるというか、いつもはこんな話になっても「そんなことねえよ」と適当にあしらってるのに。
まあ、俺も康太も、今はこういう話を意識しやすくなってしまってる……みたいだった。
そんな俺達をさすがに見かねたのか、西山は話題を変えてくれた。
「真面目な話、立花は大学入ったら、今の家出て、大学の近くで一人暮らしとか考えてるのか?」
「ううん。母さん達がこっちに帰ってくるまでは、今の家にいるつもりだよ。俺が志望してるところは、どこもそんなに遠くないし。戻ってきたら、その時は考えるけど……」
「ほう。瀬良は?」
「出るつもりだ。まあ、ある程度金が貯まるまでは、いるかもしれねえけど。なるべく早く」
「そうなんだ……」
初めて聞く話に、つい、呟く。就職してもすぐには出ないかもしれないけど、いずれ、康太はあのマンションを出て行くつもりなんだ。そうなったら、いよいよ離れ離れに……なんて考えると、胸が苦しくなる。
すると、康太が「でもまあ」と言った。
「瞬とは……これからも一緒にいたいと思う。色々なことはある、けど……でも、その気持ちは確かなんだ」
康太のその言葉に、胸の苦しさがほっと解けていく。
俺も……色々は置いて、シンプルに、根は康太と同じ気持ちだった。
「康太……俺もそう思うよ。俺は、康太が好きで、でも──」
「おい家でやれ」
そこまで言いかけたところで、西山にストップをかけられた。そこへちょうど、四組の生徒が、次の時間の進路活動用写真撮影の番が来たと呼びに来る。俺達は椅子を立って、教室を出て行く。
「あ、康太。ネクタイが曲がってるよ。写真を撮るんだから……ちょっと待って」
「ああ、ありがとう」
その時、後ろで森谷がぼそりと何か言った。
「うーん、俺の想像が現実になる日はそんなに遠くなさそうだな……」
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