【ろぐぼ】4月9日編

【ログインボーナス】


[(和)login+bonus]オンラインゲーム等において、ログイン時に、ユーザーに対してポイントやアイテムを付与すること。


転じて、本編に収まらなかったエピソードを、週に一度お届けすること。

[略]ろぐぼ


[例文]今週は、4月9日のエピソードをログインボーナスとしてお届けします。


【4月9日】→https://kakuyomu.jp/works/16817330651076198575/episodes/16817330655594776837


______________



「じゃあ最後は部長だねー」


猿島の小説を皆で鑑賞した後は、いよいよ丹羽の番だった。俺は「来たか」と身構える。


「楽しみだね。でも康太はもう、ちょっと聞いてるんだよね」


「ああ……」


無邪気にそう訊いてくる瞬に、俺はなんて言っていいか分からなかった。


だって言えるか?

「丹羽の小説は、瞬がモデルのヒロインが出てくる『寝取られくっ殺系TS魔法少女の獣姦モノ』なんだぜ」なんて。


まあ、丹羽に聞かされた『寝取られくっ殺系TS魔法少女の獣姦モノ』とかいう、スタバの注文みたいな長い呪文が何なのかは俺もよく分かんねえけど……。


あのタイトルからして、絶対にロクな内容じゃないし、絶対に瞬の目に触れるようなことがあってはならないということは確かだ。


「瀬良がわざわざこの会に来る程、興味あるなんて……案外、部長の作品は瞬ちゃんがモデルのキャラが出てくるとかだったり?」


「そんなわけねえだろ!」


猿島、察しが良すぎるだろ!

俺は声を大にして否定した。しかし、それが余計に怪しまれたのか、菅又が俺を軽蔑の眼差しで見ながら言った。


「……なんか変なエロ小説なんじゃないの」


「そ、そんなわけあるか……!ただ俺は……」


「康太?」


よく分かってないらしい瞬が、綺麗な目で俺を見つめる。俺は、その目に誓った。必ず、瞬を守る……!


すると、丹羽が笑いながら言った。


「んふっふぅ……ま、見れば分かりますよ……瀬良氏も夢中にした私の小説……是非御覧ください」


「おい、やめろ!」


その前振りだと俺はアレにめちゃくちゃ興味があったみてえじゃねえか!


瞬に誤解されたらヤバい。俺は無我夢中で、丹羽の手からノートパソコンを奪い取る。

しかし、一歩遅かったらしい。スクリーンには無慈悲にも、あのとんでもないエロ小説が映し出されて──。


「ない?」


ざっとスクリーンの文字列に目を通したが、いかがわしさはゼロだ。むしろ健全で、普通の小説に見える。どういうことだ?


すると、スクリーンを眺めていた瞬が、丹羽に訊く。


「へえ……丹羽の作品はラブコメなんだ……どんな話なの?」


「んふ。縁結びの神様に仕える主人公は、生まれつき他人の恋愛感情が視えていて、その力を使って神様のお手伝いをしているのですが、力のせいで幼馴染のヒロインが自分には恋愛感情を一切持っていないことを悟ってしまうのです。それでもヒロインの幸せのために、主人公は力を使って彼女の恋を応援するという話ですな」


「わあ……なんだか切ないね」


「早く読んでみたいですね」


「ふーん……瀬良もこういうの結構好きなんだねー興味ないのかと思ったけど」


「なんだ……普通じゃん。何慌ててたの?」


感心する瞬と志水。猿島と菅又は、俺を不思議そうに見ていた。不思議なのは俺の方だ……マジで、もしかしてこれ……。


「ほっほぉ!瀬良氏を読書会にお呼びするため、少々やってしまいましたな。いやあ、瀬良氏のご期待に答えられず申し訳ない限りで」


「て、てめえ……っ!」


まさか、俺が何て聞かされてここに来たのかなんて言えるはずもない。俺は唇を噛み締めて、やり場のない怒りに耐えた。

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