4月25日
【条件】
1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。
2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。
3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。
☆
「んっ……!んん~……っ!」
耳の横にくっつけるようにして、両腕を体育館の天井に向かって真っ直ぐ伸ばす。そのまま後ろに身体を逸らしたまま二十秒キープ。目前に迫る「勝負」を前に、最後の抵抗……いや、最終調整だ!
「何やってんだよ」
「ひゃあっ!?ちょ、ちょっと!」
両腕を伸ばしているせいで無防備になった脇を、いきなり背後からくすぐられる。振り返ると、勝ち誇ったような顔の康太がいた。くそー……自分は必要ないからってムカつくな……。
「てか毎年やってんの見るけど……何なんだよそれ」
「康太には分かんないよ。ふん」
「何拗ねてんだよ、教えろよ」
「身長を伸ばすストレッチですね!」
「あーあ……言っちゃった」
康太にそっぽを向いていたところに、ちょうど志水がやってきた。猿島も一緒だ。
二人ともクラスは違うけど……お昼終わりのこの時間、三年生は全員、ジャージに着替えて体育館に集められている。その目的は──。
「デスゲーム」
「そんなわけないでしょ」
「だってさー、ちょっと前に流行った韓国ドラマっぽいよねー。なんか」
そう言って、猿島が体育館をぐるりと見回す。うーん、俺はそういうの詳しくないからよく分かんないけど……そうなのかな?なんとなく、康太を見ると、康太は腕を組んで頷いていた。
「イカがどうのこうのってやつだろ。知ってる」
「うん、瀬良は知らなそうだねー」
……とまあ、そんなことは置いておいて。
俺達が今、ここに集められているのは──学年初め恒例の「身体測定」が目的だった。
うちの学校では主に、身長・体重と、あとは一緒に視力検査・聴力検査もやる。一組から三組までが先に視力・聴力検査で、四組から六組までが、先に体育館で身長・体重を測るから、こうして、四組の志水や猿島とも今は一緒なんだけど……。
「立花さんは、こういったことにも熱心なんですね。何事も一生懸命で素敵です」
「志水、それ煽りでしかないからー……瞬ちゃんはそのまんまで可愛いじゃん」
「猿島も大分失礼だよ」
この四人の中だと、猿島と志水が同じくらい背が高くて、次点が康太、ビリが俺だもんな……でも、康太と俺の差はたった五センチくらいしかなかった(去年までは)。
今年は体感的にもちょっと伸びた気がするし、きっともう少し差が詰まっているはず……。
「まあ、身長は今年も俺の勝ちだな」
「身長に勝ち負けはあるんでしょうか?」
「あっても、競ってるのは小学生までだよねー」
「おい」
猿島にちくりと言われて、康太が眉を寄せる。そう、身長に勝ち負けも何もないというのはよく分かってる……分かってるけど……。
「分かってても……張り合わずにはいられないんだよ……!これはプライドの問題だから……」
「瞬ちゃんにとっては相当大事なことみたいだね……分かったよ。頑張れー」
「ファイトです、立花さん」
「うん!」
二人に鼓舞されて、気合いが入る。そのうちに、俺も康太も順番が来て、一年ぶりに運命の……身長計と対峙することになった。
──背筋を伸ばして、顎を引いて、足は開かないように……。
ネットで見た「身体測定で身長を高く見せるテクニック」を思い出しながら、身長計の上に足を踏み出す。
結果は──。
☆
「元気出せよ。二センチも伸びてたじゃねえか」
「……」
「ってえ……何すんだよ」
見なくても分かるくらい調子づいてる康太を軽く叩く。ムカつくので、体育座りをして、膝に顔を埋めて、康太の顔は見ない。くそー……。
身長と体重の測定を終え、今度は、多目的室に移動しての視力・聴力検査だ。
今は、前のクラスがまだ検査をしているところだから、俺達は多目的室前の廊下で、壁に背中を着けるようにして座って待ってる。床についたお尻が冷たい。
「……康太も伸びてたら変わんないじゃん」
「しょうがねえだろ。成長期なんだ」
「成長するな」
「無茶言うなよ」
それもそうか。まあ、こうなるってことは薄々分かってたしね……。俺は膝から顔を上げて、康太に言った。
「仕方ない……今年は負けを認めるよ。来年リベンジだからね」
「来年はもうねえだろ。卒業するんだから」
「あ……そっか」
ということは、これが高校最後の身体測定だったのか。大学生ってこういうのあるのかな?社会人も……いや、でも間違いないのは。
──康太と、こうやって身長を競ったりするのは……もう最後だよね。
具体的な進路の話とかは、普段そんなにしないけど……俺は大学に進学するつもりだし、康太はたぶん、本当に就職するつもりなんだろう。だから、こうやって一緒に「身体測定」をすることももうないのだ。
「身体測定」なんて、大したイベントじゃないのかもしれないけど、何でもこれが「最後」だと思うと、奇妙な感慨があるというか、寂しいな……。
「俺……康太とこういう何でもないことで競ったりするの、好きだったな……」
そう思ったら、口にしていた。一応、静かに待ってるように言われてるから、すごく小さな声でだけど……康太には聞こえていたみたいで。
「過去形かよ。卒業って言ってもまだ……一年も先だろ」
「あっという間だよ。二年生の時のことがもう……覚えてないくらい一瞬になったみたいに。三年生も、すぐだよ」
「そんなにすぐって割には、全然前のクラスの検査終わんねえじゃねえか。いつまで待たすんだよ……こんな調子じゃ、卒業なんてもっともっと先だろ」
「……そうだね」
俺はまた、膝に顔を埋めて笑った。康太らしいや。
「俺、康太のこういうところ好きだよ」
「え?」
何で聞いてないんだよ。
そんな康太にまたちょっとムカついたけど、仕方ないから……俺は周りの目を盗んで、耳元でもう一回言ってあげた。
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