【ろぐぼ】4月30日編

【ログインボーナス】


[(和)login+bonus]オンラインゲーム等において、ログイン時に、ユーザーに対してポイントやアイテムを付与すること。


転じて、本編に収まらなかったエピソードを、週に一度お届けすること。

[略]ろぐぼ


[例文]今週は、4月30日に起きていた出来事をログインボーナスとしてお届けします。



______________



【4月30日】



「ねね、えーっと……瀬良君だよね。どこの高校なの?」


「あー……えっと、春和高ってとこだけど」


講習会の時のことだ。コマとコマの間のちょっとした休憩時間、同じグループで講習を受けていた他校の女子(申し訳ないけど名前は忘れてしまった)に声をかけられる。


女子生徒は「へえー」と言ってから、彼女と同じ制服を着てる隣の女子生徒を肘でつついた。


「どうする?誘う?」


「早いよ、ミキ……瀬良君困るでしょ。もうちょっと話聞きなよ」


話しかけてきた女子生徒は「ミキ」っていうらしい。制服は……うちの方じゃ見ない制服だし、どっか違う市とかの生徒なんだろうな。ちょっと見渡すと、この講習会には色んなところから、学生が集まって来てるらしく、制服も色とりどりで……ちょっと聞いた話だと、いわゆる専門系の高校の生徒が多いらしい。

ちなみに、うちから行ってるのは俺一人だ。まあ、うちは基本進学校だしな。


ぼんやりそんなことを考えていると、「ミキ」さんは俺に色々と訊いてきた。「何年生?」とか、「普通科?色々学科ある系のとこ?」とかに始まり、「普段何してるの?」とか、果てには「彼女いるの?」とかまで……どこぞの記者みたいだった。


内心、ちょっと辟易していると、ミキさんは今度はこう訊いてきた。


「え?じゃあさ、瀬良君って今フリーってこと?」


フリー?どういうことだ……?


──ひょっとして、無職ってことか?高校生だけど、まあ、バイトはしてねえし……そうなるな。


「ああ……そうだな。フリーだ。まあ、それも今年までだけどな」


そのためにこうして、学校の紹介で講習会まで来てんだ。何とか、就活上手くいって、来年はもう「フリー」じゃねえようにしないとな。


しかし、ミキさんは驚いたような顔で言った。


「え!めっちゃやる気じゃん!何、もしかしてまだフリーだけど……心には決めてるってこと?」


「そりゃそうだろ……そうじゃなきゃ、ここまで来ねえって」


「え、え!?何……瀬良君ってここに、そういうつもりで来てるの?」


「ミキだって人のこと言えないでしょ……」


ミキさんの隣の女子が突っ込む。彼女は何故か呆れた感じなので、俺は言った。


「でもここに来てる奴ら、皆、志は同じだろ。まあ、頑張ろうぜ」


「いや、それは違うと思うけど」


ばっさり否定された。何だ?俺、何か間違ってたか?

首を傾げていると、講師が教室に戻ってくる。とりあえず、まあよく分かんないけど……何か疲れたな。


──なんか……瞬に会いてえな……。


疲れた頭と心で、切実にそう思った。





それから、講習会を終えて、会場である専門学校を出た時だった。


「瀬良君」


「ああ……さっきの」


声に振り返ると、さっきのミキさんと、その隣の女子が立っていた。ミキさんは言った。


「ね、良かったらちょっと、帰りにどっか寄らない?せっかくだしさー……瀬良君もそのつもりだったんでしょ」


「そのつもり?」


俺はちょっと考えて……ああ、もしかしてさっきの話……「就活」のことか、と思い当たる。俺はミキさんに言った。


「いや、今日はもう終わりにするけど。これから約束あるし」


「え……終わりって?てか、約束?」


「ああ、ちょっと……幼馴染と待ち合わせしてるから」


「待ち合わせって、どっか遊び行ったりするの?」


「そうだな。そこのビルの、スイーツビュッフェに行こうって誘われてて」


「スイーツビュッフェ……」


ミキさんが何故か、顎に手を当てて考え込む。ややあってから言った。


「幼馴染……それって、その、今は友達……的な感じ?」


「いや友達とは違うな。幼馴染だ。幼稚園の頃から一緒で……もう家族みてえな奴だし」


「家族……」


その時、ミキさんの隣の女子が、ミキさんの肩に手を置いて、首を振った。ミキさんは「そうだね」と言ってから、俺に手を振った。


「分かった!じゃあね、瀬良君……お幸せに!」


「お、おう……?」


それだけ言い残して、ミキさんは駆け出して行った。後から、女子生徒が追いかけていく。


……何だったんだ?





「んー……」


「瞬、眠いのか?」


「ん……」


こくりと頷く、瞬の頭はさっきから船を漕いでいる。


ビュッフェを出て、帰路に着こうと、電車に乗った時のことだ。始発だから、すぐに椅子に座れてラッキー……と思っていたら、隣に座っていた瞬が、こんな風にうとうとし始めたのだ。


──疲れてんのかな。


今日は朝早くからオープンキャンパスに行ってたみたいだし、さっきいっぱい食ったもんな。俺もそんな瞬に釣られて、つい欠伸をする。その時、ふいに左肩が重くなって。


「瞬?」


「……ん?あ、ごめん!」


俺の肩にもたれかかっていた瞬がばっと離れる。だけどすぐに、瞬はうとうとし始めた。相当眠いんだな……。


「いいぞ、寄りかかっても」


「大丈夫……ちょっと乗れば……家だし……」


「あと三十分は乗るだろ。いいって」


「で、でも……」


そう言いつつも、瞬の瞼は今にもくっつきそうだった……しょうがないな。

俺は瞬の頭をぽん、と叩いて促した。すると、瞬はやっと、俺の肩に頭を預けてきた。小さな声で瞬が言った。


「ありがと……」


「ん」


電車ががたごと、と揺れる。気が付くと、瞬は俺のベストの裾をきゅっと握っていた。


なんとなく、幼稚園の頃、昼寝をしてた時のことを思い出した。あの頃もよく、瞬は俺の隣で寝ていて、こうやって俺の服の裾を握っていたな。


瞬の重みを左肩に感じながら……懐かしいことを思い出して、俺はふっと笑った。

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