1月19日

【条件】


1.毎日0:00〜23:59の間に、立花瞬に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、立花瞬が「自分に対して言われた」と認識すること。


2.1の条件を与えられたことは決して、立花瞬に悟られないこと。


3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。





「瞬、好きだ」


「……っ」


口を真一文字に結んだ瞬が、必死に目を開いて耐えている。視線は俺の眉間のあたりを刺すように釘付けだ。


「好き」


「……うぅ」


追い討ちをかけるようにもう一度言えば、瞬の眉間に皺が寄る。何故か頬を膨らませ、渋い顔になっている瞬に、俺の方が笑いそうになる。だけどここは我慢だ。「名人」のプライドに賭けて。


「……っう゛〜」


しばらく見ていると、瞬の顔がほんのり赤くなってきた。恥ずかしいからなのかと思ったが、すぐにそうじゃないことに気づく。


「瞬」


「何……」


「……息は止めなくていいだろ」


「……確かに」


瞬がふうーっと息を吐いて、脱力する。椅子の背にもたれ、短い呼吸を繰り返して、息を整えたところで、俺は言った。


「好きだ、瞬」


「うっ……あ、あぁ……」


そこで耐え切れなくなり、瞬は手で顔を覆ってしまった。


「これは勝負、あったなあ……」


その審判の声は俺にだけ聞こえた。視界の端で、クソ矢が「○」の札を挙げている。

だが、この場にいる人間の誰もがそう思っただろう。俺の勝ちだ。


放課後。今日は木曜日だが、文芸部の活動は休みらしい瞬と、俺と西山で、この前の「愛してるゲーム」をやっていた。(「条件」をクリアするために、さりげなく言うセリフを「好き」に変えさせた。)


持ちかけてきたのは、西山ではなく瞬で、余程この前の負けが悔しかったらしい。「今日は受ける側で康太に勝つ!」と息巻いていたが、結果は見ての通りだ。


「立花は結構負けず嫌いだよな」


腕を組んで勝負を見守っていた西山が、うんうん頷く。


「うーん……受ける側の方が頑張れば勝てるかもって思ったんだけど」


「俺は無理だと思ったけどな」


「くぅー……悔しい」


口をへの字にして、パグみたいな顔で悔しがる瞬が面白い。

西山の言う通り、瞬は意外と負けず嫌いで、勝負事なんかは結構マジになる。

だからこそ、こうやって悔しがるのもいつも本気で、俺はそれが面白くて、小さい頃はよく瞬を焚き付けて、喧嘩になってた。


最近はさすがにそんなことはないけど、瞬の負けず嫌いは相変わらずだな。それを面白がる俺も。


「もう一回やるか?」


「もういい……何か、康太には一生勝てない気がする」


「あっさり引くんだな」


「これ以上は不毛な気がするし」


はあ、とデカいため息を吐いて、瞬が椅子から立ち上がる。もうそろそろ帰り時だ。俺も瞬に続く。


まあ、不毛だけど。

このゲームは、瞬の知らないところで、まだしばらく続いていく。……俺は引けないけどな。

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