第280話 少年達

「陳宮様、関羽が東に向い逃走を始めました。」

「すでに勝敗はついた、逃げるというなら行かせてやれ、追撃は必要無い。」

逃げていく関羽を俺は深追いしなかった。

「陳宮様、追撃なさらないのですか?」

俺の護衛をしている趙雲が少し不思議そうに聞く。


「構わない、一度城に帰ってから逃げたということは家族を連れている事だろう、女子供を連れている者を討つ気にはなれない。」

「お優しい事です、ですが立派なお考えかと思います。」

「それより、新野を確保しましょう、住民達の混乱を収めるのが最優先です。

くれぐれも乱暴狼藉はしないように。」

「はっ!すぐに伝令を走らせます。」

こうして新野での戦いは終わったかに見えたのだが・・・


「子供が抵抗している?」

「はい、十歳ぐらいの少年二人が城の門の前で槍を手に戦っているのです。」

「勇ましい事だが落城した城で抵抗など無意味だろう・・・

わかった、私が直接説得しよう。」

「陳宮様、危険です。」

趙雲は俺を止めようとするが。

「趙雲、君が護衛にいて危険ということは無いだろう、それより少年が死ぬ前になんとかしてやりたい、付いてきてくれるか?」

「わかりました、この趙雲命に換えてもお守り致します。」

「頼りにしているよ。」

俺は少年二人の所に向かう。


俺が着いた時には少年を遠巻きにして兵士が囲んでいた。

「状況はどうだい?」

「これは陳宮様、近付くと襲いかかってきて手がつけられません、既に数十名が手傷を負い、それ以降、遠巻きにしているのですが・・・」

「死者は?」

「幸い出ておりません。」

「それは良かった。

これより少年の説得を行う、少し前に行かせてくれ。」

「陳宮様!」

「止める気持ちもわかるが未来ある子供が死にゆくのを見るのは辛い物だ、少々ワガママを通させてくれ。」

「かしこまりました。」

兵士達は俺の為に道を開けてくれるが、槍を構え直し、いつでも少年に攻撃出来るように警戒していた。


「私は陳宮である!

少年達よ!二人に問う!

既に守将関羽は撤退し、新野の落城は決まった物だ!

何故命を捨てて戦いを続ける!」

「「陳宮だと!」」

二人の視線が俺に向かう、そして今にも飛びかかろうとしていた。


「お前達は獣か!

人ならば問われたならば言葉で返せ!」

俺は機先を制し言葉をぶつける。


「・・・私は関羽が子、関興。

父の武名を穢さぬよう、武人として戦うのみ!!」

「俺は張苞!張飛が一子だ!

俺の死が天下に響くようにただ戦い続けるだけだ!」


「愚か者!!

お前達がしているのは匹夫の勇だ!

その程度の武名を残した所で何の武名が残る!

後に残るは若くして無駄死にした、愚か者としての名だけだ!」

「うるさい!敵の言葉を信じれるか!」

張苞は苛立つように答える。

「ならば古今東西、落城した城で戦い続け死んだ者の名前を言えるか!

何処にそんな英雄がいる!」

「・・・それは。

だが、父の武名を穢す訳にはいかない!」

関興は父の武名の為にここで死ぬつもりだ、陳宮が説得してきているのは理解出来たが降るつもりは無い。


「お前達の行為が武名を穢していると何故わからない!

お前の父、関羽、張飛は天下に名を轟かしている武人であると私は認識していた。

だが、自分の子を無駄死にさせるようなつまらぬ漢なら私の認識は間違っていたという事だ。」

「父上は天下一の武将だ!!」

「ならば子として、それに相応しい生き様を見せよ!

降る事は恥かも知れん、だがそれは一時の恥である。

お前達が今後、民の為に、天下の為に戦う事ができれば幾らでも挽回出来る筈だ!

それとも関羽、張飛の子はその程度の才しか持ち合わせていないのか!」

「「俺達を侮辱するな!」」

「ならばそれに相応しい振る舞いを見せよ!

一時降る事を受け入れる度量を見せろ!」

「・・・わかった、だがこれは父の武名を穢さぬ為だからな。」

「関興!」

「張苞、陳宮の言っている事は一理あると思う、僕達ならもっと天下に名を轟かす事が出来る筈だ。

僕はここで死ぬより大きな武名を天下に残したい。」

「だが・・・」

「それに父上達もこれまで敗戦により、色々な所に行った筈だ、だがその武名に陰は無い。

僕達だけが敗戦で死ぬ事も無いだろう。」

「関興がそこまで言うなら・・・」

張苞も降伏を受け入れ、一段落したかに見えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る