第275話 徐庶
「徐庶ですか・・・」
徐福が帰ったあと、龐統がボソリと呟く。
「龐統知っているのか?」
「はい、荊州で学んでいる時に面識がございます。
確かに一度お尋ね者になってから荊州に逃げ学問を学んでいると聞いたことがあります。」
「龐統から見てどんな人物だ?」
「そうですね、武官の立ち位置から軍略を見れる軍師といった所でしょうか、私達軍師はどうしても机上での策が多くなりますが、徐庶は元々剣を学んでいたようで、武官の呼吸と言いましょうか、戦場での視野が私達とは違うように感じました。」
「人柄はどうだ?」
「優れた人物と見受けています、味方にすれば頼もしい漢でしょう、ですが現在劉備の配下になっていると報告がありました、一度仕えた主君を変えるかは未知数な所があると思います。」
「そうか、なるべく味方についてもらいたいが、その為に手加減する訳にもいかない、仕えてくれたら良しとするか。」
徐庶の才は惜しいと思うが、その為に仲間の命を危険に晒す訳にはいかない、俺は徐庶の調略を積極的に行わなかった。
「なっ、母は陳宮に仕官しろと・・・」
徐庶は急ぎで届けられた手紙を見て天を仰ぐ、劉備に仕える前なら二つ返事で向かったであろう、だが今は劉備軍、軍師として関羽を支え新野を守る任務についている、たとえ愛する母の頼みと言えど裏切るつもりは無かったのだが・・・
「徐庶、貴殿に母からの手紙が届いていると聞く、内容について申せ。」
迫りくる陳宮軍への対処を検討する会議にて守将である関羽から問い正される。
「・・・母からは陳宮に仕えるように言われました。」
徐庶は疑われる可能性を感じつつも隠した方が疚しい事があると言うような物だと思い、正直に答える。
「なるほど、貴殿は親孝行をしたいと兼ねてより言っていたが・・・
どう考えている?」
「確かに私は親孝行をしたいと常々思っております、ですが主君を得た以上、裏切り親元に向かうことはできません。」
「だが、その結果親が死ぬ事になるのではないか?」
「・・・」
徐庶は答える事が出来ない、確かに劉備軍で戦果を上げてしまえば親の徐福の身は危険になるかも知れない、自身の中にも未だ迷いがある為言葉に詰まるのだった。
「徐庶よ、貴殿の軍師の任を解く、陳宮の下に向かうが良い。」
関羽は答えられない徐庶に解任を告げる。
「なっ!関羽殿、それは私を疑っておいでか!」
「当然だ、貴殿は今、親と主君を天秤にかけている、そのような者を軍師として信じる事はできない。
それにだ、孝の道を邪魔するのは我が義侠に反する、貴殿は孝の道をゆかれるが良い。」
関羽の言葉には厳しさと優しさがある、確かに現状どのような策を立てても信じられないだろう、それに関羽には親孝行をしたいと語った事もあった、これは関羽の自分に対する優しさだと感じる事が出来た。
「関羽殿、感謝致します。
私は孝の道を進みますが、決して劉備様を討つために策を用いないと約束致します。」
「徐庶殿の義、確かに承った。」
徐庶は涙を流し、新野を後にするのだった。
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