第274話 賢母
翌日、華佗が連れてきた賢母に会うが服装はみすぼらしく、暮らしが裕福ではない事は一目瞭然だった。
「御婦人、遠路はるばるご苦労です、華佗殿が推挙されましたが、なにか訴えたい事があるのでしょうか?」
俺は話しやすいように近くまで行き、できるだけ優しい声で話しかける。
「これは私のような者に勿体無いお言葉、できますれば老母の愚言と思い受け流して貰えれば幸いにございます。」
「賢者にも千に一つの誤り、愚者にも千に一つの良案があると言います。
私はどのような方のご意見でも耳を傾けたいと常々思っております。
どうかこの陳宮にご教授願いたい。」
「はい、私は徐福という田舎の老母にございます。
華佗様には先日、病を治していただいた縁により話す機会を得て、今に至る所存にございます。」
「徐福殿ですね、華佗殿とはどのようなお話を?」
「はい、今中華には主人や息子を戦で失い日々の生活に困る者が溢れております。
その者達に仕事を与え、働かせる事が国の安定に繋がると考えます。」
「確かに御婦人や子供達に仕事を与えれば良いのだが・・・」
俺は考える、確かに戦で命を失った兵士にも家族はいる、他に生活を支える者がいれば問題無いかも知れないが、いない者は生活に困窮するだろう。
だが、女、子供に出来る仕事を用意しようと考えても即座に思いつかない。
「徐福殿、非才のこの身にはすぐに思いつく策が無い、何かいい案は無いでしょうか?」
「はい、陳宮様、女には男のようなチカラはございません、ですが考える事は出来ます。
そこで物を売る職に女を特に戦で家族を失った者を当てるのは如何でしょう?」
「ふむ、確かに物の売り買いにチカラはいらぬな・・・
御婦人方に算術を学んでいただき、店に立って貰えればその分男手を他に回せるか・・・」
男手を他に回せればその分軍の強化もはかれるだろう。
「確かに検討に値する献策、徐福殿、進言感謝致す。
どのようにしていくかは検討が必要だが上手くいけば国力を上げる事が可能だろう。
これは少ないが献策の礼です。」
俺は用意していた金百をそのまま渡す。
「ありがとうございます。
誠にありがたいのですが褒美は構いません、代わりに息子を陳宮様に推挙させてもらいたいのです。」
「徐福殿のご子息ですか、さぞ聡明な方なのでしょう。」
「恥ずかしながら、昔、ならず者を斬ってお尋ね者になった過去があるのです、陳宮様、どうか陳宮様の恩赦を持って息子の罪を赦していただければ、息子も仕官すると思うのです。」
「ならず者を斬ったのですか・・・
わかりました、経緯は調べなければ罰しないとまでは言えませぬが、ご子息にやましい事が無いのであれば罪には問わない事を約束致します。」
「息子にやましい事はありません。ですのでどうかお願いします。」
「わかりました、約束致しましょう。
ご子息には戦災に合われた者達の救済を担当してもらいましょう。」
「ありがとうございます。」
「そうだ、ご子息の名前を聞いておりません、よろしければ教えてもらえないでしょうか?」
「徐庶といいます。すぐに手紙を書きますので、なにとぞ仕官のお話宜しくお願い致します。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます