第254話 陳宮気付く

濮陽に着いた俺は荀彧を探すが出掛けているとの一点張りで誰も居場所を教えない、それならばと曹操の場所を聞いても誰も答えようとしなかった、俺はその様子に違和感しかない。


そこで俺は曹操の盟友であり、傘下に入っている張邈を訪ねる。

「張邈殿、曹操は何処に行かれているのです?」

「・・・陳宮殿、曹操は徐州に向かった。」

「えっ?何故?私は聞かされておりませんが!」

「陳宮殿が知れば止めると考えたのだろう、曹操は内密に計画し出陣していった。」

「まさか、曹操とは徐州との戦を止めると約束しましたし・・・」

「あれから使者を出し、その答えも聞いておらぬのか?」

「使者?まったく存じません。」

「つまり、陳宮殿は当初から全て外されておられたのだな。」

俺は張邈から聞く事情に目の前が暗くなる。


「曹操に会って問いただす!張邈殿、失礼する!」

俺は急ぎ曹操を追い本陣に着くのだが・・・


「陳宮殿、殿は陳宮殿の面会をお認めになりません。

殿は陳留に帰り、内務に励めとのお言葉にございます。」

典韋が申し訳無さそうに曹操の言葉を伝えにくる。

曹操は事情を知った陳宮が止めに来ることは予想できていたが怒りが溜まる自分が再度陳宮を斬ってしまう事を懸念して面会を断る。

事が済んだあかつきには謝罪をするつもりではあったのだが。


「典韋殿!そのような事をしている時ではないのです、すぐに止めなければ!」

俺は典韋の横を通り抜け曹操がいる本陣に向かおうとするが。

「陳宮殿、殿が認めぬ限り、この典韋誰であろうと通すつもりはござらん。」

典韋は俺の腕を掴み無理やり外に放り出す。

「典韋殿!」

「陳宮殿、殿のお気持ちを汲んでくだされ、殿が一番陳宮殿に合わす顔が無いとご理解なされているのです。」

「ならばこそ、止めねばならん!曹操が無理なら荀彧は、夏侯惇、夏侯淵はどこだ!」

「陳宮殿、殿は誰にも合わすなとの御命令にございます。

それでも会うというなら捕縛する許可も頂いております。

・・・陳宮殿、某にそこまでさせないでもらいたい。」

典韋は心苦しいそうに伝えてくる、忠誠心の塊のような典韋からすれば曹操の命令は絶対である、その為に曹操直属の護衛として側に置かれているのだ。

「典韋殿、ならば陳宮が止めている事を曹操にお伝えしてもらいたい。では!」

俺は本陣をあとにし、前線にいる各将を止める事にする、俺が会えなくとも各将から連盟で話を出せば止めれる可能性があるかも知れない・・・



馬を走らせ前線に向かうと・・・

目にした光景は以前と同じように民が殺されている姿だった。


「やめろ!お前達は誰の配下だ!」

俺は襲撃を指揮している隊長らしき者に声をかける。

「なんだ、お前?俺達は天下の曹操軍、于禁将軍が配下の弁たぁ俺の事だ!」

「弁?知らぬ名だ、私は陳宮、曹操軍軍師を勤める者だ、今すぐこの蛮行を止めるんだ!」

「陳宮?ああ、左遷軍師陳宮か!あんたはもう終わってるって聞いてるぜ。

今更俺達に命令なんてするなよ。」

「左遷?終わってるとはどういう事だ?」

「言葉の通りだよ、既に軍議にも呼ばれていない軍師が軍師面するんじゃない。

曹操に斬られた時点でお前はもう終わりなんだよ。」

弁などの小者の言葉など無視すればいいのだが、その言葉に思い当たる節があった・・・


「とにかく、この場は俺が預かる、蛮行を止め俺を于禁将軍の゙元に連れて行け!」

「なんだと!この村は俺達が手に入れたんだ、それを今更止めれるかよ!

そもそも左遷軍師が今更于禁将軍に会ってどうするんだよ。」

「蛮行を止めさせるに決まっているだろ!」

「・・・やっちまうか。」

于禁は曹操の命令通り、住民への過度な略奪を禁じていたが、弁達旧黄巾党の一部は命令違反を犯して村を襲っていた、その為に命令違反を報告されるぐらいならと弁は短慮に物事をかんがえる。


弁達が剣を抜き俺とその護衛に殺意を向けてくる。

「陳宮様、お逃げください、この数が相手だと我等護衛だけでは対処できません!」

弁が率いる隊は賊上がりとはいえ数百はいるように見える、一方俺は急ぎ向かっていた為に護衛は十人程度、襲われればひとたまりもない。

「逃がすかよ、お前は此処で死ぬんだよ!」

弁は即座に俺達の周囲を囲み逃げ道を塞ぐ。

「お前達!曹操軍を裏切るのか!」

「違うね、お前達は陶謙軍に殺されていたんだよ!俺達は関係無い。」

弁は俺達を殺って知らぬ顔をするつもりのようだ。

弁の暴挙を止めるチカラが俺には無かった・・・


「陳宮様、逃げてください・・・」

「申し訳ありません、どうかご無事で・・・」

俺を守るために護衛が一人また一人と倒れていく。

「黄明、奈多!」

俺を守り倒れゆく者達は虎豹騎になる程のチカラこそ無かったが、それでも俺と共にこの2年程の間、厳しい訓練を乗り越えて護衛を務めてくれた者達だった

「左遷軍師さん、力無く死ぬのはどんな気分かな?」

弁は俺を見下すように語りかけてくる。

「まったく軍師って奴は上からあーしろこーしろと本当にムカつくよな。」

弁は周囲を煽るように話、俺を笑い上げる。

「殺るならさっさとやれ。」

「おー、頭のいい奴は覚悟が違うってか?こりゃいい、いつまでその態度でいられるか確かめてみるか、おい、こいつを縛りあげろ。

これから楽しい拷問タイムだぜ。」

弁が高らかに笑うが、その声に続く者はいなかった。

「どうしたおまえら・・・」

弁が振り返ると一人の大男が立っている、そしてその前にいたはずの弁の仲間達が物言わぬ躯と化していた。

「てめえ!何者だ!」

「ワレは呂布、天下無双の゙勇者日して最強の漢なり。」

「こいつイカれてるのか、おいみんな殺れ!数で囲めばイチコロだ!」

弁は距離をあけつつ周囲に残る部下達に指示を出す。

「勇者はただ一人でも勇者である!」

呂布が槍を振るうごとに周囲に血の雨が降り注ぐ。

「な、なんだこいつは・・・」

弁の表情に余裕は無くなっていた、二百からなる自分の部下達が成すすべもなく血肉に変わっていく・・・

「や、やってられるか!」

弁は逃げ出そうとするのだが・・・

「弱者をいたぶる者よ、死すべし。」

呂布は落ちていた槍を拾い上げ、弁の腹と地面を縫い付けるように刺す。

「ゴボッ!や、やりがカラダを・・・だ、誰か抜いてくれ、死んじまうよぉ・・・」

弁の悲痛な声は誰にも響かない、わずかに残っていた部下達は一目散に逃げていく。

「ま、まてよ、俺を置いていくな・・・」

力無い声は届いたのかどうかわからないが、誰も助けに戻ることは無かった。

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