第58話 騙す

俺達は黎陽に向けて進軍を開始するのだが、俺達は途中の清河の城に寄っていた。

ここは兵も少ないが街自体はそこそこの大きさなので兵を休ませるに丁度良いと思い立ち寄る。

「御苦労、我々は袁紹様の命を受け増援として向かう所である、物資の補給と兵を休ませて貰いたい。」

張郃が命令書を渡し、確認を取ったあと城内に案内される。


「陳宮様、命令書を確認しておられるのに何故入れるのですか?」

案内された部屋に入ると曹清は俺の耳に口を寄せ、人に聞こえないぐらいの小さな声で聞いてくる。

当然曹操軍である陳宮達が袁紹の命令書など持ち合わせていない、何故確認してなお案内されているのかわからない。

「それはですね、私が書きましたから。」

「えっ?えーーー!!」

曹清は目を丸くして驚いている。

「恥ずかしながら、こういった書類作成は得意でしてね、曹操の城でも落としましたから。」

「それって、まさか兗州の城がアッサリと落ちたのも・・・」

かつて曹操に歯向かい呂布を主君に兗州を奪い取った陳宮の鮮やかな手口の一角であった。


「そういう事です、まあ本人じゃないと判別は難しいでしょう。」

「裏にはそういった事があったのですね、それで張遼達も落ち着いていたのですか。」

曹清は無謀に見えるこの作戦に驚いていたが、それ以上に張遼達、呂布軍の落ち着きが気になっていたのだ。

「必要ならこれぐらいの城は落とせますが、落としても仕方が無いので物資の補給だけしておきますよ。」

陳宮がなんて事のないように言うが、恐ろしい作戦である。

袁紹軍は知らぬ間に侵攻軍に補給を許しているのだから。


「さて、ここで一つだけ問題があるのです。」

俺は身を正して曹清に向き合う。

「なんでしょう?作戦は上手くいってますよね?」

「実は部屋割りの事まで頭が回らず、小柄な少年将校の姿をしておられる曹清様を一人で宿泊させると危険が多いと張遼達から指摘がありまして、不遜ながら部屋の片隅で休ませていただければと。」

「張遼に感謝を♪」

「はい?曹清様?」

俺はボソリと言った曹清の言葉が聞き取れなかった、やはり、男と同じ部屋などご不満があるのだろう。

「いえ、なんでもありません♪

部屋の片隅などおっしゃられず、同じ寝台で一緒に寝たら良いのです♪」

曹清は上機嫌な様子で語りかけてくる。

「同じ寝台など恐れおおい、私など床で充分でございます。」

「せっかく身体を休めるのに、それをしないのは本末転倒です。

それに敵の城の寝台で一人で寝るなど怖くて寝れそうにありません。

どうか私が寝るためにも一緒にいてくれませんか?」

曹清は俺の手を取り潤んだ瞳で見上げてくる。


「わ、わかりました、曹清様が寝られるまでですよ。」

「はい♪」

俺は曹清が寝付いたら床で寝るつもりだったのだが・・・


「手を離してくれないなぁ・・・」

ギュッと曹清に握られた手は寝付いた後も離される事なく・・・

「陳宮さま♪」

曹清は無意識なのだろう、手を離したお思えば更に俺をギュッと抱きしめてくるのだった。

「これは動けん・・・」

布団に横になり、曹清の温かさを感じながら、気付けば俺も寝てしまったのだった。


「うー、勇気を出しましたのに・・・

陳宮さまのばか・・・」

寝付いた陳宮の頬を曹清が突っつく。

「おやすみなさい、陳宮様。」

曹清は陳宮の頬に軽く口づけをして眠りにつくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る