第57話 偽りの行軍

対岸に着いた俺達を待っていたのは袁紹軍の守備兵だった。

「職務御苦労、我らは袁譚様を追い戻って来たのだが、袁譚様はどちらに入られたかわかるか?」

張郃が堂々と守備兵に聞いている。


張郃は先日まで袁紹軍にいたのだ、勝手知ったるなんとやら、普通に受け答えして情報を引き出していた。

「袁譚様は南皮に入られ募兵なさっておられる所です。」

「集まり具合とかは聞いているか?」

「多くが曹操攻めに向かってますからね、集まりが悪いみたいです。」

「ならば我らが重用されるな。」

守備兵は連れている兵を見て、

「これ程の軍勢を何処から?」

「大きな声では言えぬが袁譚様が置いていかれた軍なのだ。

私はそれを纏めて引き上げて来ただけだ。」

「なるほど、しかしそれなら何故袁紹様の所に向かわないのですか?」

「袁紹様の所に行っても目立たぬだろ?

ここらで恩を売り、袁譚様の覚えめでたくなりたいのでな。」

現在袁家の後継者争いの激しさは1兵士まで聞こえてくる。

なるべく関わりたく無い気持ちが守備兵にはあった。


「そ、そうですか、それは御苦労様です。

身分の確認も終わりました。通行を許可します。」

「御苦労、皆行くぞ!」

張郃が先頭をきり、港を後にする。


「張郃がいてくれて助かったな。」

「陳宮様のお役に立てて光栄ですな。」

「一戦を交えずに済んだ、これは重畳だな。」

「それで陳宮様、何処を目指すのですか?」

「俺が目指すのは黎陽だ、一路目指すとしよう。」

俺達は袁の旗を掲げる事で袁紹軍の行軍と見せかけ、我が物顔で黎陽を目指していく。


「陳宮様、このように平和でよろしいものなのでしょうか?」

争いも無く進む状態に曹清は不思議に思っていた。

「上手く騙せていますからね、後はばれる前に目的を達せれば上出来ですが、油断なされないように、知っての通り此処は敵地にございます。

目的の前にバレてしまえば逃げることもままなりません。」

「・・・はい。」

「まあ、それでも曹清様だけはお守りするつもりですが。」

「私の命は陳宮様に預けていますわ。

散るときは陳宮様と共に。」

曹清の覚悟が聞ける、女性でここまで覚悟を決めれる人は少ないだろう。

流石は曹操、娘の教育もシッカリしているのだと感心するのだった。


「アイツはまた勘違いしてるよな。」

「だな、あれ程ストレートに気持ちを示しているのに、曹清様が可哀想だ。」

ウンウンと頷いている陳宮を見て張遼と成廉がため息混じりに話す。

「張遼、少し女心を教えてこい。」

「アレにか?無理だな。

それより成廉お前は噂を聞いたか?」

張遼からの話に思い当たる事のない成廉は首を傾げる。

「噂?何の噂だ?」

「呂希様が男を連れ込んでいるという話だ。」

「呂希様がか?陳宮の奥方になられているではないか。」

「だから連れ込んでいると言っているんだ、まあ俺とてまだ確証は無い話ではあるのだが・・・・」

「いやいや、それこそ陳宮が可哀想だろ?

アイツ給金の全てを呂希様に渡してるのだろ?」

「俺も信じたくないが曹清様の護衛として来た兵の一人が聞きつけた噂のようだ。

流石に聞き捨てならなかったので調査に人をやったが・・・」

張遼は話を聞きつけた段階で人を送り調査を開始していた、単なる噂ならいいのだが・・・


「張遼、もし浮気が事実ならどうするつもりだ?呂希様に従うのか?それともこれまで通り陳宮に従うのか?」

「俺は陳宮に従うつもりだ、呂布様の戦いを引き継げるのは呂希様では無い。」

「なら答えは簡単だ、俺も陳宮につくさ。」

「後は高順、魏越がどうするかだが・・・

まあ、全ては真実を掴んでからだな。」

張遼は噂が嘘で合って欲しいと願いつつも、嫌な予感がしてならなかった。

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