第56話 準備で疲弊

「さて、準備はいいか?」

曹清の所から逃げ出した俺はあらためて準備ができているか確認する。

船には先日の戦いで手に入れた袁の旗がたなびいている、これより袁紹軍のフリをするのだ。


「まだ出来てませんのでお部屋にお戻りを。」

事情を知っている成廉が意地悪そうに言う、その言葉に笑いを堪えていたものが吹き出す。

「うるさい成廉、真面目にしろ!」

「まだ時間があるから大丈夫、それに船は徐盛の担当だ、俺達の仕事は陸に上がってからだな。

暇な陳宮はサッサと部屋に帰れ。」

成廉の言う通り、陸に上がるまでは特にすることは無い。

俺が部屋の空気に耐えかねて外にいるだけなのだ。


「ええい、黙れ成廉、大事なのは準備である。

うん、ここは見回りが必要だな。」

全員が何を言っているんだという表情で見ている。


「陳宮様、外は寒いですよ。さあお部屋に。」

曹清は隣から腕を組んでくる。

「曹清様、いけません。

人目もありますのでお部屋にお戻りください。」

「陳宮様がお戻りになれば戻ります。」

「わかりました、わかりましたから、部屋に・・・」

俺はチラリと周りを見るとニタリと笑う成廉と目が合う。


俺は無言で扇子を投げつける。

「アタッ!照れ隠しですかぁ〜」

「やかましい!少しは真面目に・・・」

「説得力ねぇなぁ〜」

曹清に引っ張られる俺に真面目にと諭すチカラは無い・・・


「うるさい、準備はしっかりとしないと・・・」

俺の言葉は最後まで言う事は出来なかった。


「さて、色ボケさんは置いておいて、お前らこれより死地に入る、少しの油断も死に繋がるぞ。」

「わかってますぜ!準備万端、俺たちゃ弱い袁譚軍♪」

「弱いは隠してやれよ、事実だがな。」

成廉達は笑い飛ばす、鎧を着替え、袁紹軍の装いになり黄河対岸を目指す。



対岸の港が近づきつつある中、俺は言いにくい事をお願いする・・・

「曹清様も、こちらにお着替えくださいませ。」

袁譚の将校が着ていた服を洗い、小さく仕立て直した服を曹清に渡す。

令嬢の曹清は男の服を着るのを嫌がるのでは無いか、俺は渡す前に自分の策の穴に気付いたのだ。


「わかりました、ですが、男の方の服の着方がわかりませんのでお手伝いよろしいでしょうか?」

だが、曹清は気にすることなく受け入れてくれる、一先ず安堵しようとした心は次の言葉に安堵させてくれない。


「いや、そ、それは!」

「作戦に必要なのでしょう?

陳宮様、ここは恥ずかしがっている場合では無いはずですよ。」

「し、しかし・・・」

「はい♪」

曹清は着ている物を脱いで渡してくる。

「曹清様!」

「陳宮様、着せてくださいませ。」

下着姿の曹清が迫ってくる。


俺は理性を総動員し、目を細め最低限の視界だけで着せていくのだった。

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