第240話 城攻め

「門が開いたぞ、張遼!」

「わかっている!」

俺は待機していた張遼に目配せすると既に馬を走らせるところだった。


「流石に早いな。」

「張遼殿の見事な用兵振りに感心するばかりにございます。」

俺は隣で護衛をしている趙雲に一言謝罪をいれる。

「趙雲、今回は見せ場が無くてすまない。

お前程の武勇なら先陣に立つ栄誉もあったのだが・・・」

「かまいませぬ、それに先陣に立つ事より大事な職務を与えて頂いておりますれば、何もお気になさらぬよう。」

趙雲の言葉に嘘やお世辞は無かった、趙雲は仕えて間もない自分を護衛に任じ、信用してくれた事を誇りに思っていた。


「魏越よくやったな。」

城内に入った張遼は門を開けた魏越達と合流していた。

「張遼、北門の近くに降った民や兵を集めている、敵ではないからな。」

「わかった、魏越はそのまま降伏する者をあつめてくれ、その一角は攻撃しないように通達しておく。」

「わかった、張遼戦は任せたぞ。」

「任せておけ、すぐに片付ける。」


張遼は魏越に多少の兵を預け、降伏した者の管理を任せる、略奪が横行する攻城戦である、降った者達に危害が出ると陳宮の名に傷がつく、その為に古参の魏越が目を光らせれば簡単に危害を加える事は無いと判断したのだ。


一方、門を破られた高幹は対応に追われていた、いくら堅城と名高いとはいえ、門が破られれば脆い物である、高幹は少し悩んだあと・・・

「全軍、南門から出陣する、目指すは并州、我等の居城に帰るぞ。」

高幹は籠城にこだわる事は止め、即座に帰還を選択する。


「高幹、私はどうしたらいいのよ!」

敵軍を突き抜け鄴から引き上げると聞いた呂希は自分の身を案じていた。

「呂希、馬車は用意させてある、すぐに支度しろ。」

「私も敵軍の中を突破しろと言うの?」

「そうだ、さもないと落城後の略奪に合うぞ。」

呂希も武家の女である、落城後の略奪については理解していた。

「わ、わかったわ、一緒にいくわ。」

自分が略奪に合うかも知れないと考えると恐怖を感じる、表情を青くして高幹とともに逃げる事を選択する。


「全軍出撃だ!」

高幹は南門を開き、動ける全軍で曹彰がいる本陣に向かい突撃を開始する。


「敵が出てきたぞ!曹彰様を守れ!」

高幹が突撃したことにより、みなみ門を攻撃していた部隊は総大将である曹彰を守る為に一時足を止め、陣を固める。

だが、それは高幹の狙いでもあった、本陣に全軍突撃すると見せかけ、高幹は南門と西門を攻めていた軍の間を突き抜けていく。


「しまった!敵を逃がすな!」

曹彰は高幹の狙いに気付きすぐに指示を出そうとするが・・・

「曹彰、無理に遮るな、矢を射掛けよ、騎兵は追撃に向かう準備をしろ!」

本陣に詰めていた夏侯淵は曹彰を一度止める。


「夏侯淵、なぜ止めるのです!」

「敵は突破するために覚悟を決めてきている、それと無理に戦えばこちらの被害が出るだけだ、今回の戦は高幹の首が狙いじゃない、鄴を取る事をだ。」

「それでも高幹を討てば全てが終わるのでは?」

「確かに討てれば一番の結果になるが、敵を侮ればお前が討たれる結果ともなるぞ。」

「しかし・・・」

夏侯淵に諭されるも若い曹彰としては敵総大将が眼の前にいるのに逃がすという事に抵抗があった。


「納得出来ないなら、後で陳宮に聞いてみろ。

あいつなら敵将の首にこだわる事はしないだろうな。」

「先生なら・・・

わかりました、全軍に通達、無理な追撃はしないように、あくまで逃げる者達の背を狙うように!」

曹彰は陳宮の名を聞き冷静になる、先生である陳宮なら高幹ごときの首にこだわる事は無いだろう、それより目的である鄴を被害少なく手に入れる事が重要と考えるはず。


「夏侯淵、私が浅慮だった。

今回の目的は鄴を手にする事だ、高幹ごときの首に固執する必要など無かったのだな。」

「自分の否を認めれるのは偉いな、いいか戦の目的を忘れるな、無理に戦果を狙えば敵の狙いに嵌まる結果になる。

軍を指揮していくならよく覚えておけ。」

「はい!」

曹彰は笑顔で応えるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る