第75話 華陀

「私が華佗と名乗る者にございます。

曹清様には一度お会いしたことがございましたな。」

「はい、その節は私の質問にも丁寧にお答えください、感謝しております。」

「有り難いお言葉ですな、さてお話より怪我人を先に診てしまいましょう、どちらですかな?」

「こちらです。」

曹清は俺の所に華陀を連れてくる。


「こちらが医者ですか・・・遠路遥々申し訳無い。」

俺は今熱が出ていたのだが、なんとか体を起こして出迎える。

「なりませぬな、早く傷口を診せなさい。」

華陀は挨拶もせずにすぐに傷を診る。

「ふむ・・・これの処置をしたのはどなたかな?」

「私です、傷口を水で洗い、絹糸で縫い、血止めの薬草を塗りました。」

「ほう・・・曹清様、見事ですな、応急処置としては充分にございます。

そして、私を呼んだ事も間違いではありませぬな。」

「華陀、それでどうなのですか!」

「多少、身体に毒が残っているようだ、これより傷口を切開、洗い直し、再度処置を行う。」

「もう一度斬るのですか!」

「うむ、そうしなければ、この腐った部分から毒が回り、悪化していくのでな。

それでどう致す、やるなと言われるなら私にはどうすることも出来ない。」


「華陀殿、やってくれるか?

曹清様が信じて呼んだ方だ、華陀殿の見立てを信じよう。」

「陳宮様・・・」

曹清は泣きそうな顔でこちらを見ている。

もう一度斬るということが心配なのだろう。

「このまま熱にうなされるのも辛いですからな、曹清様が信じた医者を私は信じるだけです。

さあ、華陀殿、早くやってもらえますか?」

「うむ、まずは準備を致そう、まずは湯を沸かしてくれ、全ての道具を煮沸する、あと部屋には綺麗な者しか入ることは許さん、部屋にいたいなら一度風呂に入り汚れを落とし、綺麗な服に着替えて来るのだ!治療はそれからだ。」

「皆さん、急ぎましょう!」

皆が反発する前に曹清が声を出すことで全員に行動を促す。

見知らぬ医者の言うことには反発したかも知れぬが、共に戦場を駆けた曹清の言葉になら従う気にもなる、皆が大人しく準備にいそしむのだった。


「さて、やりますか。」

華陀は準備をおえ、治療にかかる。

「部分麻酔を使用して治療を行う、よろしいか?」

「あとは任せるだけだ、さっさとやってくれ。」

「華陀、私は何をすればいいでしょうか?」

「陳宮殿の手を握って、声をかけてくだされ、生きようとする意志が何より大事ですからな。」

「はい。陳宮様必ずや治ります。

どうか気を強くお持ちください。」

曹清はギュッと手を握る。


「麻酔も効いておるようですな、では治療を開始する。」

華陀は皆が見守る中、傷口を切り開き腐った部分を切除、アルコールにて消毒を行い、再度縫い上げていく。

その技術は流れるようであり、見たものは驚愕するばかりであった。


「終わりました。」

施術が終わった所を見ると曹清が行った治療との差は歴然であった。

「私がやったのと違う・・・」

「いえいえ、曹清様が行った事は正しかったのです。ただ、洗った物が違います。

このアルコール・・・これは酒を蒸留した物ですが体内を洗浄する効果があるのです。

水で洗うのは大事ですがこれで洗えば多少なりとも傷口が腐るのを防げたかと。

それとこの薬です、暫くは飲んで貰う必要がありますが、これを飲めば体内の毒を消す事が出来ます。」

華陀は薬を曹清に渡す、そこには服用方法なども詳しく書かれていた。


「曹清様、お気を落とさず、応急処置としては見事でございました。

洗わず、薬を縫っただけだと、私が来るまで持たなかったやも知れませぬ。」

「・・・はい。」

華佗に慰められるが自分がもっと覚えていたらと後悔していた。

すると華陀はサラッと紙に書き始める。


「曹清様、こちらが傷を洗うのに使ったアルコールの生成方法、こちらがペニシ・・・飲み薬の作り方と注意点です。」

「華陀それは貴方にとって秘中の術なのでは?」

「私はもう歳ですからな、秘中の術とはいえ後世に多少なりとも貢献したいのです。

貴女様なら間違えずに活用していただけるかと。」

「ありがとうございます。必ずや華陀様の名が後世の世に残るようにいたします。」

「私の名を残す必要はありませぬ、ただ薬を後世に、使い方を間違わなければこれは素晴らしい物になるのです。」

「わかりました、必ずや。」


「まあ、そう堅くなる事もありませぬな、暫くは傷の経過もみたい、その間に教えれる事なら教えましょう、どうですかな?」

「お願いします!」

曹清が華陀の弟子入りをした瞬間だった。


この時代、医者の立場は低い物であった。

神医と言われた華陀とてその立場から抜け出せていない、だが曹清が弟子入りしたことにより、医者の立場が向上していく、それは後世に残る出来事であった。

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