第137話 女の戦い
「無理矢理得た地位をかざすのは少々お恥ずかしいのでは?」
話し合いの開始早々、孫香は曹清を批判する。
言葉の端から事情を知っていると感じる。
「・・・今はそうでも、いつかは必ず。
そんな事より、陳宮様を騙して側室になろうとして恥ずかしく無いのですか?」
「それはお互い様でしょう。それに私は他の男の方とふしだらな真似をしたことはありませんから。」
「私だってありません!」
「そうですか?お噂だと、ねぇ・・・」
「噂だけです!私は帝にも認められた仲なのですから。」
「帝ですか、今の時勢どこまで従うか疑惑がありますが・・・
まあ、それは置いておきましょう、陳宮様がどちらの陣営を選ぶかが大事でしょう?
曹操に従い続けるなら、貴女。
兄に従うなら私ということになるのでは?」
「ふざけないでください!いったい貴女は陳宮様の何を知っているというのですか!」
「なにも?知っているのは官渡の戦いでの英雄ということぐらいかしら。」
「それだけで?」
「それ以上はこれから知っていけばいいのです。」
「何を言っているのです、何も知らないのに嫁ごうとするなんて・・・」
「あら、折角嫁ぐなら英雄がいいでしょ?
どうせ私達の立場なら相手を選ぶなんて出来ないのですから、それなら一番の英雄に嫁げば国の為にもなりますし、それに私の名前が歴史に残るかも知れないでしょ?」
「歴史に?」
「そう!英雄を支えた妻として、名前が残るのよ、女としてこれ程の名誉はないでしょ?」
「貴女は何を考えているの・・・」
「わからないかな?私は歴史に名前を残したいの。でもね、女の身で名を残すことなんて簡単には出来ないわ。
それなら、妻として名前を残すのよ、そして天下で名を残せそうな殿方は陳宮様よ。」
孫香は幼き頃から先祖の孫子が遺した英雄譚に興味を示し、いつか来る日の為に武芸を修行をしてきた、だが大きくなるにつれ男に勝てない事に気付く、かと言って孫子が遺した兵法を身につける事が出来なかった。
そんなおり、官渡の戦いで軍師の身でありながら、敵陣深くに潜入し、大軍を壊滅させた陳宮に自身の先祖である孫子を重ね合わせ、憧れを持っていた。
兄孫権が陳宮を調略する為に話が来たときはすぐに承諾したのだが、残念ながら受けてくれなかったと返答が返ってくる。
しかし、それで諦めるつもりは無かった、兄に頼み込み、陳宮のもとに滞在することを認めさせる。
まあその時の約束として、陳宮の調略をするように言われているのだが、それは些細な事である。
自分は陳宮と共に歴史を駆けてみたい。
ただその一つの為に下邳に来ているのだ。
帝が認めようが関係ない、自分が妻になる未来しか考えていなかった。
「陳宮様を利用するつもりですか?」
「利用?まあ言われてみるとそうなのかも知れないわ、でも、私は全てをかけて陳宮様を支えるつもりよ。」
「全てって何をするつもり?」
「ふふん、私はこっちに来る際、才のありそうな者を連れてきたのよ。
きっと陳宮様のお役に立つわ。」
「えっ、そっちですか?」
曹清は少し拍子抜けする、てっきり女性として陳宮を支えると言うと思っていたのだ。
「何を言ってるの、人材は大事なのよ。」
「それは知っているわ。」
「なら私の方が陳宮様の妻に相応しいでしょ?」
「私も譲る気なんてないわ!」
曹清と孫香は睨み合う。
「失礼、誰が妻になるかは陳宮次第だから、置いておくが、孫香殿、人材とはどのような者なのだ?
その者の忠誠は孫権にあるのなら我々が重用することは無い。」
話が纏まりそうに無い中、張遼は話に出てきた人材が気になる、もし使えそうなら雇ってもいいと考えるのだった。
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