第138話 張遼の興味

「気になるわよね、大丈夫よ、野に埋もれていた者を私が見つけて連れてきたから、忠誠は兄じゃなくて私にあるわ。」

「ふむ、それは面白いが役に立たねばどうしよう無いぞ。」

「その時は私に見る目が無かったって事よ。」

孫香は堂々と答える。


「面白い、一度会わせてもらっても?」

「構わないわ、その為に連れてきたんですもの。」

張遼は孫香が連れてきたという人物に興味を示す。


「張遼、曹操軍から離反するつもりですか・・・」

曹清は張遼の反応に青い表情になる。

「俺達は別に曹操につく理由は無い、ただ陳宮が曹操軍につくからついているだけだ。

必要なら孫権の下でも構わないと思っている。」

「なっ・・・」

張遼の冷たい目に自分がしてしまった事の重さを感じる。


「家臣を纏められないで正妻のように振る舞うのは止めた方がいいですよ。」

孫香は勝ち誇ったように曹清を見ていた。


「そこの女ごときに勝ったぐらいで粋がらないでもらおう。」

曹彰が部屋に入ってきて孫香に牽制する。

「あなたは?」

「曹操の子、曹彰だ。

その女に勝った所で先生は孫権の下にはいかない!」

「これは曹彰さん、そうは言っても曹操殿は陳宮様に不良品を押し付けるご様子、流石に陳宮様を蔑ろにし過ぎかと。」

「たしかに不良品を押し付ける父上はどうかと思う、だが、父の後継者たる私を預けていることが先生への信頼の証なのだ。」

曹彰は胸を張って答える。

後継者候補を預けている事は陳宮への信頼を意味する。

裏切る時はその信頼を裏切ったと天下に示す結果を生む、陳宮に裏切りを躊躇わす効果はあると考えられた。


「それにだ、わたしが父上の後を継いだら先生を私は亜父として敬い、天下国家の運営に関わってもらうつもりだ!」

「陳宮様ならご自身で天下を狙えるのでは?」

「それは先生をわかっていない、先生は天下に野心は無い!民が安らかに暮らせる日が来ることを望んでいる、私心で英雄になろうなどと思う方ではないわ!」

曹彰の言葉に張遼も頷いている。


「ふぅん、そんなタイプの人なんだ・・・

でもいいわ、王佐の才というのも悪くないわ。」

「まだ諦めないのか!」

「曹彰さんには悪いですけど、貴方に陳宮様の子を産むことは出来ないのよ、つまり私の子供が陳宮様の後を継ぐ事になるの。」

「なりません!私が陳宮様の子を産むのです。」


「落ち着け!誰が子を宿せるかは陳宮次第だ。

曹清様も知っての通り、あいつは鈍いからな、並大抵では寝所を一緒にも出来んぞ。」

「私は妻のはずなんですけど・・・」

「陳宮にその気はないだろう、あいつは夏侯惇が名声を回復させたら離縁の話が出ると考えている。」

張遼は陳宮をよく理解出来ていた。

自己評価が低く、お人好しな陳宮が何を考えているかなど予測が出来た。


「そんな・・・」

曹清とすればありえないあっては欲しくはない事だ。


「なに、まだ時間はある。

俺としては子を残そうとしない陳宮には誰でもいいから子を宿してほしい。

ただそれだけだ。」

「私が宿しますので、かならず。」

曹清は張遼に真剣な目をむけるのだった。

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