第136話 孫権の使者

俺の目の前には13、14歳ぐらいの美しい少女が礼服に身をくるみ現れていた。

「初めまして、陳宮様。

お会いできる日を心待ちにしておりました、孫権の妹の孫香ともうします。

以後末永くお見知りおきくださることをお願い致します。」

俺は絶句するしか無かった、口をパクパクさせながら張遼を見るが、どこか笑いをこらえているようだった。

俺は他の奴らも見るがどいつもこいつも笑いをこらえている。

どうやら全員グルになり、使者が孫権の妹だと知らせ無かったのだ。


「・・・これは丁寧な挨拶をいたみいる。

私が陳宮にございます。

申し訳ない、どうも私の仲間はイタズラ好きのようでしてな孫権殿の妹の孫香殿が来られていると知らせる者がおらず、てっきり武官か文官が来ておられると思っておりました。

女性に対する非礼をお詫びする。」

女性が使者ならもっと準備時間を与えるべきなのだ、昨日帰って今日来いなど失礼だったであろう。


「いえ、陳宮様にお会い出来るなら非礼などお気になさらず、それにゆくゆくは礼儀など必要無くなるのですから?」

「それはどういう事でしょうか?

まさか孫権殿は私達と事を構えると?」

「「「ぶふぅ!!」」」

俺の言葉に仲間の何人かが吹き出す。


汚いなぁ、使者が来ているのに何を考えてもいやがる。

俺は一番盛大に吹き出した成廉を睨む。


「ふふ、兄に戦をする気はありませんわ。

私がここに滞在して、攻めてこらせませんので安心してください。」

「滞在なさるのですか?」

「駄目でしょうか?」

「私共としては問題無いのですが、孫権殿がお許しにならないでしょう。」

可愛い妹を同盟国とはいえ他国に置くことは危険であろう、仮に人質として送るなら下邳の俺の所ではなく、許昌の曹操の所になるのではないか?


「兄は少々オハナシをしたら許してくれましたわ。」

「孫権殿は随分放任主義なのですな、いや孫家の仕来りなら批判するつもりは無いのですが。」

「それ程私が来たかったのです。

陳宮様、どうかお側においてくれませんか?」

孫香は上目遣いで願い出てくる。

俺は少し考える。


今の敵は袁紹である、集中して敵に当たるにも孫香を側に置いておくのは悪い話では無い。

孫権、いや軍を仕切る周瑜とて主家の妹がいる城に攻め込めないだろう。


「わかりました、孫香殿が良いと思われるまで滞在なされてくださいませ。」

「はい!私が良いと思うまでお側においていただけるのですね。」

「?ええそうで・・・」


「ダメです!陳宮様、お言葉には気をつけないと・・・」

俺が答えようとする言葉に隣に控えていた曹清が遮るように声を出す。 

「曹清様如何になされましたか?」

「陳宮様、今のお言葉だと、彼女を側室に迎えるような言葉と取られかねません。

どうか一考なされてくださいませ。」

「えっ?それはどういう・・・」


「あら、貴女が曹清とかいうお人ですか?」

さっきまでニコニコしていた孫香が少しキツイ目線で曹清を見ている。

「ええ、陳宮様の妻の曹清にございます。」

「・・・少々、お話をさせていただいても?」

「陳宮様、すこし女性同士で話して来ます、張遼は付いてきてもらえますか?」

曹清は事の顛末を張遼に知ってもらった方がいいだろうと張遼に声をかける。

「わかった、陳宮少し待っていろ。」

三人は話し合うために別室へ向かうのだった。


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