第26話 浮気

「呂希!貴女何をしているの!」

呂希が夏侯恩と度々会っている事が貂蝉の耳に入る。

「何をしていると言われましても、私なりに曹操軍内にツテを作っているだけです。」

「貴女は陳宮の妻なのですよ、軽はずみに男性と会うなど、どのような噂が立てられるか。」

「私はあんな男の妻になんかなったつもりはありません。」

「呂希!呂布様の前で結ばれたのを忘れたの!」

「あの時のお父様は城の落城が迫った為の気の迷いだったのです、それをあの男は・・・お父様の心につけ込んだ卑怯者なんです!」

「呂希!陳宮は私達の為にどれほど身を粉にしているのか考えた事はないのてすか!」

「あーうるさいです、貂蝉は私の母でも無いのですから黙っててください!」

呂希は貂蝉と話すのを止めて自室にこもる、これでは駄目だと貂蝉は呂希の母でもある、巌氏に相談することにする。


「そうですか、呂希はそのような事を・・・」

「はい、陳宮は今も私達の為に戦ってくれているのです、それを呂希は・・・」

「ですが、相手は曹操の側近というではないですか、それに歳も呂希に近いとか・・・」

貂蝉は巌氏の言葉に驚きと失望を感じる、巌氏は夏侯恩の事を知っていながら、陳宮と天秤にかけているのだ。


「巌氏様、まさかとは思いますが、陳宮を裏切るつもりですか?」

「裏切るなど、貂蝉は言葉が過ぎますよ、ただ、母としては娘の気持ちも大事というか、その・・・」

「巌氏!それを裏切りと言うのです!陳宮のどこに不満があるのですか!」


「不満と言いますか、家臣である陳宮が私達の世話をするなど当然ではないですか、それならば呂希が妻である必要などないではないですか。」

「呂布様が望まれて結婚なさったのでしょう!」

「あの時と今は状況か違うでしょ。

それに陳宮はもう歳、若い夏侯恩様ならば、長い間頼る事も出来ましょう。」

貂蝉は信じられない、巌氏は自身達の利益しか話しておらず、今暮らせているのも陳宮のおかげだという認識すら持っていないのだ。


この親にして、あの子有り・・・

貂蝉は目眩を覚える。


「貂蝉、それにもう遅いのですよ。」

「えっ?」

「既に二人は結ばれていますからね。」

「な、なんで・・・」

「愛し合う二人は進むのが早いですね。」

「そんな話じゃない!陳宮にどう説明するつもりですか!」

「主の家庭について意見など不要でしょう。

でもね貂蝉、あなたにも責任はあるのよ。」

「私は関係無いです!」

「あるわよ、屋敷にいながら夏侯恩様が近付くのを阻止しなかったでしょ?」

「私が知ったのは最近で!」

「そんなの関係ないわ、さて夏侯恩様は呂希の母である私の面倒はみてくれるでしょう、でも貴女は?」

「えっ?」

「貴女は呂希の母ではないわね、じゃあ陳宮とは?

今陳宮が私達を見捨てて困るのは貴女だけなのよ。」

「・・・」

貂蝉は言葉が出ない、巌氏の言うとおり、呂希の裏切りを知った時、陳宮はどうするのだろうか?

呂希と離縁したら・・・

貂蝉はお腹を擦る、呂布の子を宿す今、陳宮に見捨てられ住むところを無くすのは子の命に関わる。

貂蝉に冷たい汗が流れる。


「わかったみたいね、陳宮に伝えるかどうかは貴女に任せるわ、私達はどうにでも出来ますから。」

巌氏は絶望を感じる貂蝉を置いて部屋を出るのだった。


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