第291話 劉表軍

「敵将王威、討ち取ったり!!」

夏侯衡の声が戦場に響く。

「くっ、王威を討ち取る程の者がいたのか。」

文聘は自身が必殺の矢として向かわせた王威が討ち取られた事により自身の策が崩壊したことを感じる。

「文聘、あの程度の突破力が天下に通じると思うな!

所詮狭い世界の力自慢に過ぎん!」

「ぬかせ!王威が討ち取られたといえどこの俺が健在である以上、戦に影響は無いわ!!」

「ふぅ、それが狭い世界しか知らぬというのだ。」

趙雲は目にも止まらぬ槍を突き出し、文聘の右腕を貫く。

「ぐっ!趙雲手加減していたのか!」

「若者達に経験させる為にも早々片付けたら申し訳ないからな。

まあ、敵将を討った以上もういいだろう。

文聘、降るなら今だぞ?」

このまま戦った所で趙雲に難なく討ち取られる自分が想像できた。

このあまりの力量差に文聘は負けを理解する、

「・・・わかった。全軍戦を止めよ!

この戦は負けだ!」

文聘の声が響き、劉表軍の足が止まる。


「言っておいて何だが、良かったのか?」

「どうせ俺達は囮だ、切り捨てられた者として命をかけてまで戦い続ける必要も無いだろう。

趙雲、いや趙雲殿、降伏した部下の扱いを丁重に頼む。」

「陳宮様は降った者を恥ずかしめるような御方ではない、安心して降られよ。」

「かたじけない。」

文聘は無理な抵抗をすることはなく、思いのほかアッサリと降伏するのであった。


「切り抜けろ!」

劉表は魏越が文聘の側面を突くために手薄になった箇所に五千の兵を引き連れ突破をはかる。

「劉表様、陳宮は策士といいますがどうやら口ばかりのようですな。」

劉表の家臣張允は余裕で突破出来る様子に安心していた。

「これ張允、それは脱出が成功してから言うべきである。

まあ、これほど脆いと言いたくなる気持ちもわかるがな。」

魏越がワザと通している部分もあり、劉表はいとも簡単に包囲を突破する。


「よし、劉表の背を討て!」

魏越は劉表が抜け出したのを確認すると一気に反転後方から襲い始める。

「なに!」

劉表が連れている五千は長年鍛え上げた精鋭なのだが、背を向け戦うのはあまりにも不利であった。

魏越は劉表軍より早い馬脚で削っていく。


「劉表様、殿の蔡和様が討ち死になされました!」

「なんと蔡和が!くそっ!急げ!!早く戦場を離れるのだ!」

劉表は少しでも後ろから離れるように前に出ていた。


「うん?なんだあの一軍は?」

すると目の前に一軍が立ち塞がるように配備されている。

「・・・まさか、陳宮の軍なのか。」

劉表は冷や汗を流す、後ろを追撃されている為、引き下がる事も出来ない、だが陣を構えた相手に突撃して突破出来るかは未知数・・・いや、かなり厳しい物があるだろう。

劉表は生き残る道を模索している中、目の前の軍から一人の男が前に出てくる。

「劉表!!我が主君孫権様の仇を取らせてもらうぞ!」

黄蓋の怒りに満ちた突撃が始まるのだった。

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