第290話 王威の突撃は・・・

「くっ、敵が湧いて出てくる。」

文聘を囮に突撃をした王威だが陳宮本陣に近付くにつれ濃厚な防陣に思うように前に進めなくなっていた。

「これが陸遜殿の防陣か・・・凄いな。」

「夏侯衡、ちゃんと学べよ、立ち位置的にはお前が覚える事だからな。」

「郭淮、君も覚えるんだぞ。」

「俺は趙雲殿の立ち位置な筈だから武の稽古に励むさ。」

「いや、この陣は勉強になる、防戦の何たるかが詰め込まれている芸術だ。」

郝昭は書き込みながら陸遜の戦術を自分の物にしようとしていた。


「三人共敵の前だぞ。

集中しよう。」

血気盛んだった典満が他の三人をなだめる立場にいるのはこれまでの経験だろうか、自身の思わぬ立ち位置に苦笑が出ていた。


この夏侯衡、郭淮、郝昭、典満の四人は突撃してくる王威の目に止まるところまで来ていた。

「小僧共が戦場にいるなどとは、この王威も舐められた物だ!

陳宮を葬る前に始末してくれる!」

王威は四人の若武者を身なりからそれなりに重要な人物と検討をつける、始末することが出来ればこの堅固な防陣に動揺が生まれると期待していた。


「おっ、俺達に向かってきたな!

よし、やあやあ我こそは曹彰様の家臣随一の武勇を誇る、郭淮なり!

いざ尋常に勝負せよ!」

郭淮は名乗りを上げ王威に向い突撃を開始する。


「あのバカ、一人で向う気か!」

典満は郭淮を追うように馬を走らせる。


「勇ましいな若造!聞いたことの無い名だがこの王威と戦えた事を誉れと致せ!」

「王威?何だ無名の田舎者か、名乗り上げた俺が恥ずかしいじゃねえか。」

郭淮はヤレヤレといった様子を見せる。


「おのれ!この俺を侮辱するつもりかぁぁぁ!!」

王威は大きく矛を振り上げ、勢いそのままに郭淮を斬り捨てようとするが・・・


その瞬間、王威額に矢が刺さる。

「なっ、一騎討ちでは・・・」

それが王威最後の言葉であった。

夏侯衡が父譲りの弓矢の腕前で王威を射抜いていたのだ。


「おい夏侯衡、なんで矢を射った!!」

郭淮は不満そうに声を上げる。

「あれだけ無防備なら簡単に射れるからな。

まあ、雑兵の一人ぐらいでぎゃあぎゃあ騒ぐな。

この戦の獲物は劉表であり、俺達は曹彰様と陳宮様を守ることが最重要だ。

個人の武名を上げる時ではない。」

「そこまで言うなら俺にやらせてくれてもいいんじゃないか?」

「ふっ、俺とて陳宮先生に褒めてもらいたいのさ。」

「夏侯衡!!」

結局の所、ただの手柄争いであった。


「うーーー!先生、僕も戦いたい。」

「曹彰は駄目です、大将たるもの腰を落ち着けて戦況を見守る事も大事ですから。」

曹彰は手柄を上げる仲間を指をくわえて眺めているのであった。

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