第289話 突撃の文聘

「な、何の音だ!」

劉表は聞いたことの無い大きな音に驚く。


「劉表様、大変にございます、じょ、城門が破壊されました。」

「なに?陳宮軍はまだ包囲したばかりであろう。何が出来ると言うのだ?」

「わかりませぬ!ですが城門が破壊された事は事実にございます。」

「埒が明かぬ、蒯良ついてまいれ。」

劉表は様子を確認する為、城門が見える場所に移動するのだが・・・


「門が無い・・・」

襄陽は劉表の居城であり、劉表が自身を守る為に強固な守りを作り上げていた。

その・・・要の門が無い・・・


劉表は思わず膝から崩れ落ちる。

「劉表様、呆けている場合ではございません。門が無い以上、篭城は不可能にございます。

なんとかして脱出しなければなりません。」

蒯良は劉表の腕を引き、劉表を立たせる。

「そ、そうであるな、してどうすれば良い。」

「南に陳宮の旗がございます、そこに全軍をぶつければ敵も陳宮を守る為に軍を動かすはず、その隙に江夏の蔡瑁殿と合流致しましょう。」

「わかった、して誰に指揮を取らせる?」

「文聘殿にお任せしましょう、彼なら敵に臆する事無く任務を果たす事が出来るでしょう。」

「蒯良、見事な策だ。すぐに行動に移すとしよう。」

劉表は脱出の為に準備を整える、


「全軍突撃!!敵将陳宮を討つのだ!!」

文聘は城にいた一万の兵を持って南に布陣する陳宮を狙う。

陳宮自身が連れている兵はおよそ七千、局所的には劉表軍の数が増す、文聘は自ら先頭に立ち一気に陳宮の首を狙うのだった。


「さてと、黄蓋殿と魏越に連絡を、魏越は劉表軍の側面を突け。

黄蓋殿には獲物は東に出るだろうと。」

俺は東に布陣する魏越に連絡をして側面を攻撃させる。

「先生、なぜ東を一度空けるのですか?」

曹彰が疑問に思った事を伝える。


「劉表に逃げてもらう為さ、何処から逃げるかわからないと探すのも難しいからね、それに黄蓋殿に仇討ちの機会を渡したい。」


「先生は黄蓋殿に同情的ですよね?」

「まあね、主君を失う悲しみは理解出来るから・・・」

俺は主君である、呂布を思い出す。

一度でも身が引き裂かれるような悲しみだったのに黄蓋殿は3度目である、その悲しみの深さは計り知れないと考えていた。


俺が黄蓋を思っている間にも戦は進む、決死の覚悟で突撃してきた文聘を待ち構えていたのは趙雲だった。

「貴殿の武は誇るべき物であろう、だが天下万民の為に戦に挑む主君陳宮に矛先を向けた事がいかに愚かな事か理解してもらおう。」

「ぬかせ!寝言はこの文聘の槍の前に倒れてからにしてもらおう。」

「この趙雲を討ち取れると思うな!!」

趙雲と文聘の一騎討ちが始めるのだが、文聘は守りを堅め、攻撃を控えていた。


「臆したか文聘!」

「何とでも言え、趙雲。

お前を足止めすることが目的だからな。」

「なに?」

文聘が少し視線を逸らすと別の部隊が陳宮本陣に向い突撃を敢行していた。


「つまりお前は囮だと?」

「そうだ、陳宮軍にどれ程の将がいるかは知らぬが王威殿の突撃を防げるかな?」

「ふっ、愚かな。」

「何だと!陳宮に武勇が無いのは知っているぞ、この状況で防げるとでも?」

「本陣にはまだ若武者達がいるし、何より防戦の得意な奴がいるからな、何も心配はいらん。」

「強がりを言うな!」

文聘は趙雲の足止めをすることには成功していたのだが・・・

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