第63話 冀州の守り

各自準備が出来て集まる。

「陳宮、疲れているが大丈夫か?」

「いや、思わぬ策士に嵌められた。」

俺の言葉に皆の視線が曹清に向く。

「ちょっと、しちゃいました。」

曹清は恥じらいながらもサラリと答える。


「「「おぉぉぉぉ!!」」」

「やったのか!」

「陳宮やるな!」

何故か皆が嬉しそうに騒ぎ出す。


「やかましい、誤解だ。やってない!

曹清様、誤解を招く発言はお控え下さい。」

「いいんです♪それに何もしてない訳じゃないですもん。」

「・・・」

俺は一瞬言葉に詰まる。

それが皆には肯定に見えたようだ。


「陳宮わかっているぞ、言わなくていい。」

「そうだぞ、あとは曹操を倒すだけだ。」

「事実を知れば倒せるのでは?」

張遼、成廉、魏越は楽しそうに言うが・・・

「曹清様に迷惑がかかるからな!この話を広めたりするなよ!」

俺の言葉に全員が訝しげに見てくる。


「まだ言ってるのか?」

「本当に女心がわからん奴だな。」

「やかましい!それより行くぞ、遊んでいる時間は無い!」

俺は馬を出立させる。


「照れてやがるな。」

「いい歳してなぁ。」

「お前ら行くぞ!」


「へいへい!全軍出陣だ。火を放て!」

俺達は黎陽の施設の多くを燃やし、出立する、追撃が来る前に離れなくてはいけなかった。


俺達が黎陽を落とした報せを最初に受けたのは鄴を守る高幹だった。

高幹は袁紹の甥であり、その血筋もあり、袁紹が留守の本拠地鄴を任されていた。

「何と黎陽が落ちただと!いったい何処から敵軍が?」

この時点で高幹の所に来る情報は逃げ出した、住民や兵士が流した噂であった。

その為、信憑性の低い噂が先行しており、官渡を攻めていた袁紹が討たれ、曹操の大軍が押し寄せたから始まり、賊の奇襲にあった、田豊が裏切ったなど様々な物があった。


「何が真実かわからん!偵察隊を出せ!すぐに調べろ。

各城に伝達、不用意に城から出るな、私の指示があるまで城を守れ!」

高幹は怪しい情報に踊らされる訳にはいかない、ここは確実に守る事が袁家の為になるのだ。


高幹が守りを固めている中、官渡では大雨が降っていた。

城に籠もる曹操には大したことは無いのだが、外に布陣する袁紹軍はたまった物ではない。

「薪を濡らすな!天幕が崩れぬようにしかと固めよ!」

雨の中、伝達が響く。


兵士達は雨に濡れ火を起こす事も出来ず、身体を震わせ火の通ってない米を食べる。

「こんなの食えるかよ・・・」

「将軍達は美味しい物を食べてるんだろうな。」

袁紹達は本陣に木で建物を建てており、雨の中でも火が使え、美味しいものを食べながら酒宴をしていることは噂で聞こえてきていた。


「はぁ、なんでこんな雨の中戦わないと行けないんだよ。」

兵の士気は落ちて来ていた。


曹操が待ち望んでいた反撃の時が近付きつつあった。

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