第193話 侍女の事情

気がつくと朝であった・・・

「俺はいったい・・・」

部屋を見ると裸で寝ている曹清と夏侯敬がいる。

二人とも力尽きたように眠っていた。


「たしか俺は・・・」

俺は昨日を思い出す、たしか夏侯敬に襲われて・・・

微かに二人を抱いた記憶がある、しかもかなりの長い時間二人に襲いかかっていたような・・・


俺は自分のした行為に頭が痛くなる。


「陳宮さま・・・お目覚めになられましたか。」

夏侯敬が俺が起きた事に気付き目を覚ます。

「夏侯敬、申し訳ない!君を欲望に任せて抱いてしまうなど、あってはならない事だ!」

「陳宮さま、これは私がしたことなのですから謝る必要なんてありません。

それより私の方こそ申し訳ありません。」

夏侯敬は深々と頭を下げる。


「何故、夏侯敬が頭を下げる。」

「私が陳宮さまに媚薬を飲ませ、この惨状を作り上げたのでございます。」

「何故そのような真似を・・・」

「これも全て曹家の為にございます。

伯父、夏侯淵は陳宮様との縁が薄れる事を危惧しておられました、しかし私を信じてもらうにも時間が必要です。

ですが、今その時間が無いとの事でございます。

それならば、身体を捧げ、私の覚悟を示せば信じてもらえると。」

「夏侯敬、もっと君は自分を大事にしなさい、もっとも抱いてしまった自分が言える事では無いのだが・・・」

「いえ、これは私の意志でもあるのです。

陳宮さまは私の事を覚えておりませんか?」

「夏侯敬の事を?」

俺は少し考える、夏侯淵の縁者ということだ、関わっているとしたら夏侯淵がいる時だろう。


・・・


俺はどことなく見たような目元から記憶を呼び起こす。

「・・・夏侯勝、夏侯勝殿の娘?」

「思い出してもらえましたか?」

俺は曹操が挙兵した時にいた夏侯勝を思い出す、彼は夏侯淵の弟であり、共に戦っていたのだが、董卓討伐戦において深入りした為に曹操軍は敗戦、夏侯勝は重傷をおい、俺が死にかけていた夏侯勝を家族の元まで連れて帰ってきていたのだが、そのまま家族に看取られ亡くなっていた・・・


「亡き父の遺言です、戦場で捨て置かれるだけの父を最後に私達に引き合わせてくれた事の恩を忘れてはいけない、敬お前は器量がいい、どうせ結婚出来ない陳宮の童貞を貰ってやれと。」

「・・・勝のやつ、誰が童貞だ!」

俺は亡くなった夏侯勝に怒りを覚える。

遺言で娘に何を言っているんだ。


「たぶんその事は冗談のつもりだったのでしょう。

ですが、私の身はその時から陳宮さまの為の物にございます。

このような形になりましたが、どうか末永くお側においてくださいませ。」

「夏侯敬、夏侯勝は君の幸せを願っているはずだ、抱いてしまった事は申し訳ないが、もっと幸せな道を探すべきだと思う。」

「いえ、私の身を捧げる事で父の遺言にも従え、夏侯家との繋がりを護れ、曹家も護れる、これ以上の道はございません。」


「・・・陳宮様、夏侯敬を受け入れましょう。」

いつの間にか起きていた曹清は夏侯敬を受け入れる事を言い出す。

「私も幼き頃より陳宮様を想っておりました、夏侯敬の気持ちもわかるのです、夏侯敬、陳宮様の側室として、私と共に歩んでいきますか?」

「勿体ないお言葉にございます。

私など側室ではなくとも大丈夫にございます。

時折お情けをいただければ・・・」

「それは俺の風聞が悪くないかな・・・ちゃんと側室として迎え入れるよ、あっ、でもそれだと侍女としては雇えないのか・・・」

「大丈夫にございます、私は曹清様の側についております。」

夏侯敬からは侍女として曹清に仕えるとかたくなに固辞しており、結局側室けん侍女といった状態で曹清の側に控える事になるのであった。

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