第117話 敗戦後

曹操軍の敗戦は一気に天下に広まる。


先の官渡の戦いでの勝利が霞む程の大敗である。


その報告は曹操の下にすぐに届く。

「敗けた?しかも夏侯惇が重傷だと!」

曹操は膝から崩れ落ちる、夏侯惇は友として自分をずっと支えてくれている大事な漢だ、息子の曹丕と比べようもない、なのに何故自分は曹丕の事で遠ざけてしまったのだ!

曹操の脳裏には後悔しか浮かばなかった。


だがそのまま惚ける訳にはいかない。

このままでは滅ぼされるだけだ、曹操は今一度引き締める為に各地の諸将に集まるように命令を出す。

その命令は下邳に移動し軍の再編をする陳宮の下にも届く。

「陳宮殿、曹操様からの命令である、直ちに許昌に参られよ!」

使者の王忠は厳しい口調で告げるがその事がより苦境にあることを感じさせる。

「先の敗戦の引き締めか。」

陳宮は曹操の意図はわかっていた。

変に疑われる前に向かった方がいいだろう。

「わかりました、すぐに・・・」

「陳宮待て!」

俺が王忠に答える前に張遼が割って入る。

「どうした張遼?」

「あれ程の敗戦の後だ、南の孫権、及び袁紹の動きがわからない、指揮官のお前がいないとイザという時に困る。」

張遼の言葉も一理ある、軍も再編の途中なのだ、周辺の安定の為にも留まる必要も感じていた。


だが、王忠の顔色が変わる。

「陳宮殿!そのような態度を示されると疑われますぞ!」

「ほう、疑われるですか?陳宮は曹清様と婚約していたと心得ておりましたが、曹操一族と言える陳宮の何処を疑う必要があるのかお聞きしたい。」

王忠の言葉に張遼が怒りを滲ませ答える。


その言葉は俺にも刺さるから止めて欲しい。

張遼フラレた男に酷いだろ・・・

俺は少し涙目だった。


「曹清様との婚約は聞いておらん、それは曹操様がお決めになることだ。

軽々しく家臣が述べる話ではない。」

王忠としても許昌で曹清と夏侯充との噂話は聞いていた、軽々しく公式の場で曹清を陳宮の婚約者などと言える状況では無かった。

「ふん、それが答えか、陳宮は徐州から動かん、それが俺達の答えだ。」

成廉が話しに割って入り、宣言した言葉に他の仲間も頷いている。

「謀反を起こすつもりか!!」

王忠は声を荒らげていた。


「待て!」

そこに曹彰が口を挟む。

「これは曹彰様。」

王忠は臣下の礼を取る。

「陳宮先生の立場は私が保証する、そもそも私は姉上が陳宮先生と婚約していると考えている。

・・・だが、それをお前と論じても仕方ないだろう。

私が使者として許昌に赴き陳宮先生の代わりとなろう。

張遼師匠思ったより早かったですが少し許昌に向かおうと思います。」

「・・・ご髄に。」

張遼と曹彰の間で話は出来ているようだった。


「わかった、曹彰、曹操に俺達の状況を伝えて来てもらえるか?」

曹彰は共に行軍していた上に戦場にもいたのだ、状況はわかっているだろう。

俺は曹彰に使者を頼む。

「任せてください、必ずや先生を裏切るような真似は致しません。」

曹彰は覚悟を決めた漢の眼をしていた。


曹彰が許昌に向かったのち、俺達は急ピッチで軍の再編に精を出すのであった。

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