第210話 混乱する夏侯充

夏侯充はふらつく足で外に出る、一度新鮮な空気を吸って頭を冷やさなければ、どうにかなってしまいそうだった。

「何なんだ、いったい何が真実なんだ・・・」

夏侯充は自身に向けられていた曹清の表情を思い出す。

楽しそうに笑い、自分を頼ってくれていたのだ、その表情が嘘とは思えない。

「・・・そうか、私の婚姻の話をどこかで聞いてしまったのかも知れない。」 

夏侯充は曹清の気持ちになって考えてみる。

陳宮のもとから救い出す筈の俺の婚姻はどれほど曹清様を落胆させてしまったのか、それはきっと計り知れない程だろう。

その落胆したところに狡猾な陳宮はつけ込んだに違いない。

いや、それでも聡明な曹清様は私を待ってくれただろう、だが陳宮の事だ、クスリを無理矢理飲ませ曹清様の意志を奪ったあと・・・


なんて卑怯な奴だ!

きっと今でもクスリを飲まされ意志を奪われているに違いない、そうじゃないとあの表情は考えられない。


夏侯充はここにきてもまだ妄想から抜け出す事が出来ていなかった。


「夏侯充、どうした?」

庭におりて石の上に座っていた夏侯充に曹休が声をかける。

「曹休、お前は警備か?」

「・・・一応な、夏侯充、お前はまだ曹清様を救う気概は残っているか?」

「・・・当たり前だ、俺は曹清様を救い出す!」

「ならば来い、これから救い出すところなんだ。」

「なんだと?」

「いいから早く来い。」

曹休は夏侯充を連れて用意してある一室に入る。


「ここは?」

「志を同じにする同志たちが集まっている場所だ、ほれ。」

曹休は剣を夏侯充に渡す。


「俺達はこれから騒ぎを起こす、その隙にお前は曹清様を連れてここに連れて来るんだ。」

「ここに連れてきたあとはどうするんだ?」

「ここには抜け道がある、そこから外に抜け出し、あとは案内役に従い安全な場所に逃げる。」

「安全な場所などあるのか?」

「もちろんだ、曹清様を救いたい者は多くいる、協力者には事欠かないさ。」

「わかった、俺が助け出せば良いんだな。」

「そうだ、いいか騒ぎの最中に連れ出すのだ、タイミングを間違えるなよ。」

夏侯充は握る剣に力が入るのであった・・・

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