第297話 使者として

俺が弔問に訪れると周瑜が出迎えてくれた。

「周瑜殿、この度は誠に不幸な事に・・・」

「誠に、勝敗は兵家の常と言うが・・・

いや、この話は暗くなるな、遠路はるばるよくお越しくださった、今宵はささやかながら宴席を設けた、旅の疲れを癒やしてもらいたい。」

「承ります。」

俺は周瑜と少人数で酒を酌み交わす。


「陳宮殿の目から見て孫家はどう見えますか?」

酒も進んだ頃、周瑜からふと質問を投げかけられる。

「周瑜殿、私から述べなくとも周瑜殿ならおわかりのはず。」

「・・・陳宮殿、それでも教えていただきたい、お頼み申す。」

周瑜は頭を下げる。

「周瑜殿頭をお上げください、其処まで請われては申し上げます。

確かに孫家は孫権様を喪われ非常にぐらついております。

ですが、いやだからこそ家臣が一つに纏まり新たな主君の下で力を尽くせばすぐに混乱も鎮まり、また覇を唱える事も出来ましょう。」


「覇を唱えるか・・・

孫策がいた時は簡単な事のように思えたが、なんと難しい事であろうか。」

「周瑜殿、弱気は禁物にございます。国の柱石たる周瑜殿がブレれば国が揺らいでしまいますぞ。」

「他国の陳宮殿に注意されるとは私も随分疲れているようだ。」

「そんな事はありますまい、周瑜殿ならお解りしていたはず。」

「わかってはいるのだが・・・

今、後継者で争う太史慈は孫策様を介して友と呼べる間柄だったのだ、だからこそ太史慈が孫紹様を推す気持ちも解るのだ。

だが、今の情勢で4つの子が主君になり何が出来る、我らが支えようとも国は乱れる。

ならば14歳の孫匡様の方が国は安定するのだ。

それに私と太史慈が孫策様の友であった事は皆が知っている、私達が歳を無視して孫紹様を推せば大義を見失い国を私情で動かそうとしていると思われるだろう。

そうなると私の命令に背く者が出るやも知れん。

今避けるべきは孫家の分裂なのだ。

だが太史慈はわかってくれない!」

周瑜から悲痛の叫びが飛び出してくる。


「周瑜殿、一つお聞きしたい。

孫家は天下を目指すのですか?」

俺は周瑜に真剣な眼差しで問う。


「・・・もはや難しいだろう。

孫策様がいた時なら当然と答え。

孫権様がいた時なら目指すと答えた。

だが、此度の失態はどうしょうもない。」

「周瑜殿、ならば天下は誰の者に?」

「・・・曹操だろう。

陳宮殿に謀反を起こすつもりは無いのであろう?」

「私にそんなつもりはありませぬ。

一家臣、一親族として覇業に貢献するのみにございます。」

「ならば天下は定まったような物だな。」

「ならばこそ、孫家からどなたかを中央に、いや次代を考え曹彰様の側に置かれませんか?」

「なに?」

「天下を取った後、中央に伝手が合ったほうが孫家として望ましいのではないでしょうか?」

「確かにそれはあるが・・・」

「来られるなら私が後見人として中央での後ろ盾となりましょう。」

「陳宮殿よろしいのか?」

「此度の孫権様のご不幸は元を正せば私が劉備攻めを行った事に起因いたします、その責任の一端としてどうか後見人を努めさせていただきたい。」

「陳宮殿の責任ではない、だがその言葉に甘えさせてもらいたい。」

「お任せを。」

「よし、すぐに太史慈にも連絡しよう!」

周瑜が慌ただしく動き出したのでこの日の宴席は終いとなるのだった。

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