第72話 戦勝の宴

許昌では戦勝を祝い盛大な宴が開催される。

「この度は皆よく頑張ったな!皆の忠節曹操生涯忘れることはない!

此度は皆の活躍を祝う宴だ、楽しんでくれ。」


曹操の労いの言葉に家臣達は長く厳しかった籠城を思い出し、涙を流し感動する者もいた。


「貴殿が陳宮殿の奥方か?私は夏侯惇と申す。」

呂希と面識の無い夏侯惇は男に交ざり宴に参加している者を呂希と予測して声をかける。

夏侯惇は一度裏切った陳宮が改めて曹操軍の将だと周囲に示す為にも進んで声をかけたのだが・・・


「あいつの奥方なんて言わないでもらえますか?

わたしは呂布の娘、呂希にございます。」

夏侯惇は呂希の返事を聞き呆れる。

陳宮が天下に轟く手柄を立てたのにこの言葉は無い、ましてや陳宮の俸禄で贅沢な生活を送っているのだ、夫婦仲はどうあれ、せめて対外的に取り繕うぐらいするのが最低限の礼であろう。


「そうか、呂布の娘なら用は無い、失礼する。」

「なっ!無礼ではありませぬか!」

「無礼?俺は陳宮の奥方だと思ったから礼を取ったのだ、お前が呂布の娘の立場のみを述べるなら俺はお前のような小娘に用は無い。」

夏侯惇は言い放ったあと、呂希から離れていく。


夏侯惇とのやり取りを見ていた諸将もあえて火中の栗を拾いたくは無い、極力近付かないようにしていた。


「なんですか、呼ばれたから来てやれば、所詮曹操如きの宴、礼儀知らずばかりですね。」

一番の礼儀知らずは呂希なのだが、それを指摘する者はいない。

呂希が部屋の中を見回すと夏侯恩が部屋の隅で何故か目立たぬようにうつむいてチビチビ酒を飲んでいるようだった。

「夏侯恩、見つけましたよ。」

「りょ、りょき・・・」

夏侯恩の表情が真っ青になっている。

「聞いてください、皆が失礼なのですよ。

招かれて来てやったと言うのに、誰も話そうとしないのです。

でも、貴方がいてよかったわ。」

「呂希、その、少し声を落として・・・」

「ねえ、貴方の武勇伝を聞かせてくれないかしら?手紙に書いてあったお話を貴方の口から聞きたいわ。」

「いや、その話は・・・」

「恥ずかしがることないじゃない、天下に聞こえた顔良を相手に二人がかりとはいえ、討ち取ったのでしょ?

まあ、最後を典満に盗られたのはちょっとダメだけど、それでもほとんど貴方が倒したのでしょ?」

夏侯恩は戦場に行かない呂希に対してバレないだろうと手柄を偽った手紙を白馬の戦いの後で出していた。

「そ、その話は、いやちょっと静かに・・・」


「ほう、面白い話をしているものだな夏侯恩。」

夏侯淵がにこやかに笑いながら夏侯恩の肩を叩く、

笑ってはいる・・・だが、目までは笑っていない。

夏侯恩は冷や汗を流す。


「確かに典満は二人がかりで顔良と戦ったが・・・夏侯恩、お前がこの戦で何かしたのか?」

「も、もうしわけ・・・」

「何を言ってるの!夏侯恩がいたからこの戦に勝てたんじゃない!」

夏侯恩が謝罪しようとしたところに呂希が被せるようにさらなる火種を投入するのだった。


夏侯淵は厳しい中にも優しさがある漢だ、若武者が見栄を張った事ぐらいなら、謝罪をすれば許してくれる可能性が高かった、だがこれ以上は不味い・・・

夏侯恩は泣きそうな顔で言い争う二人を見ていた。

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