第73話 二人の断罪

「ほう、夏侯恩が何をしたのか聞かせてもらえないか?」

夏侯淵の表情からニコヤカさは消えていた、


「呂希、それぐらいで・・・夏侯淵様申し訳ありません!」

夏侯恩は呂希を連れて行こうとするのだが、

「離して夏侯恩!貴方が手勢を引き連れ兵糧庫を焼き払った事で戦に勝ったのでしょ、もっと胸を張りなさい!」


呂希の声は呂布に似てよく通る、会場にいた多くの者達の耳に入る事となる。


「夏侯恩が兵糧庫を焼いた?」

「何を言っているんだ?」

全員が呂希の言葉を理解出来ない。

いや、夏侯恩だけが理解していた。


戦が終わってから呂希に戦の話をせがまれ、つい自分の手柄を騙ってしまったのだ。

幸い、陳宮の容態が悪く、明日も知れぬ身だと曹操の元に知らせが来ていた事も知っている。

バレないだろうと高を括っていたのだ。


「呂希、いいから!こっちに来い!」

夏侯恩は呂希を連れて会場から抜け出そうとするのだが、無理に引っ張った為に呂希が夏侯恩の胸元に引き寄せられる形になる。

「あっ、夏侯恩ちょっと大胆ですわ。」

呂希は恥ずかしそうにするものの満更では無い表情を見せる。


その表情に手柄を騙るより大問題が発生していることに皆が気付く。


「夏侯恩・・・まさかと思うが。」

目の前にいた夏侯淵ですら、青い表情を見せている。

今回の戦で大手柄を立てた陳宮の妻を曹操の側近が寝盗ったなど冗談でも笑えない話だ。


「ち、ちがいます・・・夏侯淵様!誤解です。」

「あら、何が誤解なのでしょうか、戦に赴く前、此度の戦功を持って私を娶ると言ってくれたのは嘘だったのですか?

貴方は確かな戦功を立てたのですから堂々と私を娶ればいいのです。」

戦に行く前、夏侯恩は勇ましく見せる為に呂希にそう伝えはしたのだが、まさか堂々と言うなどとは思いもしなかった。


「・・・夏侯恩、お前が何を考えていたかは知らん、だがこれは大問題だぞ。」

「違うんです、誤解なんです、どうか申し開きを!!

この女とはそんな関係ではなく!」

「夏侯恩!私を天下の名将の妻にしてくれると言うから私の純潔を捧げたのですよ、手柄を立てたからといって私を捨てると言うのですか!!

陳宮の所から助けてくれると言った約束を忘れたのですか!」

「いいから黙れ!夏侯淵様!信じてください、俺は!!」


「聞くに耐えん、夏侯恩を捕らえよ。」

会場で騒いでいたのだ、当然曹操の耳にも聞こえて来ていた。

曹操は頭の痛い思いをしながら夏侯恩を捕縛する命令を出す。


「曹操様!どうかお許しください!!

決して騙るつもりはなく!」

「見苦しい、さっさと連れて行け!

そこの呂希、夏侯恩に純潔を捧げたというのは本当か?」

「そうよ!何か悪い!」

「お前は陳宮の妻ではなかったのか?」

「誰があんなヤツの妻になんてなるもんですか!

お父様が弱っている時につけ込んで主君の娘をせしめようなんて浅ましい男に体を許すものですか!」

「つまり、離縁したいとそういうのだな?」

「そうよ!あんなヤツお断りよ!」

「わかった、俺の名でお前の離縁を許す。」

「はあ?なんでアンタの名で許されないといけないのよ!」

呂希にとって曹操は親の仇である、曹操の名で許されたとて何の価値もない。


「ふむ、ならば朝廷の名において離縁を許すように奏上しておこう。」

「朝廷の・・・それならお父様の名誉にもなるのかしら?」

呂希の浅い考えてだと朝廷が自身の離縁を認めるということは、帝が気にかけてくれると言うことと同義であった。

天上人の帝に気にかけてもらえるということに浮かれている。

「ならば奏上しておこう、勅使がくれば離縁に同意するな?」

「ええ、陳宮も勅使なら私に未練無く離縁出来るわね!」

呂希は嬉しそうにしているが、会場にいる全ての者が呂希を理解出来ない。


「はぁ、誰かこの女を屋敷に送り届けろ。」

つくづく頭の悪い呂希に曹操も頭が痛くなる。

「ちょっと、なに触らないでよ!」

「勅使を出迎えるのだ、家で準備することもあるだろう、早く帰るといい。」

「そうね、なら帰るとするわ、早く来なさい。」

呂希は案内人を連れて帰っていく。


「曹操様、良かったのですか?」

「何がだ?」

「陳宮との離縁です、勝手に話を進めて陳宮が怒るのでは?」

「アレと付き合う方が陳宮にとっていいとは思えん。」

「ですが・・・」

「呂希の希望でもあるのだ、叶えてやろうではないか。」

夏侯淵が少し気にしながらも陳宮と呂希の離縁は近づいていた。

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