第94話 曹丕の進軍

黎陽までは敵の抵抗無く進んで行くことが出来た、曹洪にはそれがさらに不安に感じる。

袁紹とて戦乱の中、天下に近付いた群雄である、それが意味なく進軍を許すのだろうか。


曹洪は自身の兵を四方に散らし敵の情勢を確認しようとしていた。


一方、本陣の曹丕の周りには曹丕を褒め称えていた。

「袁紹も曹丕様の威光を感じ動けないのです、この進軍はまさに英断にございますな。」

夏侯楙は兵卒でありながら、曹丕と面識があることを利用して曹丕の到着と同時に曹丕の側に侍っていた。

そして、曹丕も自身の策の為に兵卒落ちしてしまった夏侯楙に悪いという気持ちもあり、以前と変わらない、いや以前以上に重用する側近として扱っていた。


親戚の夏侯尚、夏侯徳は現在夏侯一族として本流ともいえる夏侯惇の息子の復権を喜んでいた。

「夏侯楙、この戦で手柄を立てて曹操様に認めてもらおう。」

「当然だ、曹操様とて間違える事はある、陳宮如きの活躍が誰でも、いや俺達なら簡単に出来るということを見せようではないか!」

「その意気だ、だかなぁ~敵は弱い袁紹軍だ、あまり力むとケガをしかねないぞ。」

「確かにな、本気を出さないように気を付けるか。」



夏侯一族同士、笑いながら杯を交わし、来る戦で得る手柄について話す始末であった。


「して、夏侯楙は今回の手柄で何を望む?」

「ふむ、まあ復帰は当然だが・・・

そうだな、曹清様を陳宮の魔の手からお救いするためにも私の妻にしたいな。」

夏侯楙は自分を兵卒に落とした切っ掛けの曹清を恨みながらもその美貌に惚れてもいた。

そして、行き着いた欲望は曹清を己れの物とし、その身体を隅々まで凌辱する事だった。


「おお、夏侯楙、お前が助けようとしてくれたのに、それを裏切った姉上をまだ助けてくれようと考えてくれるのか!

それならば、この戦で得た手柄を持って父曹操に訴えようぞ、この曹丕、しかと口添えもしようではないか。」

曹丕は夏侯楙の汚れた欲望に気付いていなかった、ただ自身の姉が自分の嫌いな陳宮の側にいることが嫌なだけであった。

「お任せあれ、私が必ず曹清様を喜ばせて差し上げましょう。」

曹丕を含め、皮算用を重ねる宴は続いていた。


皆が杯を重ねる中、郭奕は渋い表情を見せる、曹操の命令を破り、夏侯楙を重用する危険性を感じているのだが、曹丕の喜ぶ表情を見て進言するのを控えた、そして、自身の中で曹操の命令は降格させることであり、曹丕が新たに昇格させる事は含まれていないと折り合いをつけ、見て見ぬふりをする事に決めたのだった。

父、郭嘉が知れば激怒するような忖度をした判断を下したのだった。


欲にかられた軍がどうなるか、曹丕は身をもって知ることになるのであった・・・

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