第93話 若者の暴走

曹洪は若者の勢いを制御出来ずにいた。

出兵の許可を取った時はしおらしかったのだが自分達が集めた兵の指揮権を手放す事はなく、戦略が得意でない曹洪を郭奕が理論を振りかざし説得、徐々に指揮権を奪われていき、黄河を渡る頃には直接指揮を取れるのは3千程となっていた。

そして、曹洪の代わりに全軍の指揮を取るのは謹慎している筈の曹丕であった。


「皆のお陰で俺が手柄を立てるチャンスが来た、礼を言おう!」

「はっ!我らの力を天下に知らしめましょう。」

曹丕達は上機嫌に進軍中も宴を開き、我が世の春を謳歌していた。


「曹丕、お前は謹慎中ではなかったのか?」

「曹洪叔父上、大丈夫ですよ、世の中功績が全て、父上なら行動しているでしょう。」

曹丕が父曹操の名を出すと曹洪は抑制しずらい、確かに曹操ならやりかねないと思う。

これも経験か・・・

順当にいけば年長者の曹丕が曹操の後を継ぐ、若いうちに経験を積ませるのも一つかも知れない。

曹洪は一歩引いた位置で軍が進むのを見ていた。


「曹丕、お前達はどういう戦略で動いている。」

「郭奕、叔父上に説明して差し上げろ。」

「かしこまりました。宜しいですか、私達はまず黎陽を落とします、この城は先日落城したばかりですので、防備もまだ整っていないでしょうから、此処は簡単に落とせるでしょう、そして、黎陽足がかりに周囲を制圧下にしていきます。」

「袁紹の軍はどうするつもりだ、黙って制圧下になるのを見ている訳がない。」

「袁紹は先日の敗戦により、多くの兵士、それと兵糧、軍需物資を失っております、さすれば大軍を用意する事は難しい。

迎撃に出せる軍勢は多くて2万と簡単に予測出来ます、それもかき集めた烏合の衆です。

その程度なら我らの敵ではありません、軽く蹴散らし、袁紹弱しと印象付ければ離反も増える事でしょう。」

郭奕は自信満々に答えてくるが曹洪には不安を感じる、何処がと説明する事は難しいのだが長年戦をしている身としてはそんな単純な物ではないと感じているのだ。


「曹丕、俺が許可を取ったのは一当てするだけだ、それ以上はするべきではない。」

「これは異なことを勝てる戦をしないとは!曹洪様と言えど信じられません!」

「そうです叔父上!この戦は陳宮に嵌められた私を救う為に皆が身体を張って機会を作ってくれたのです、それに報いる為にも我らの力を天下に示すのです!」

曹丕にとってはこの戦が初陣でもあり、かなり高揚している、曹洪の消極的な意見に耳をかさなくなっていた。


「叔父上は我らの活躍を後ろで見ていてください!」

暴走する若者達は曹洪の言葉を聞くこと無く、黄河を渡り、黎陽に向けて進軍するのであった。

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