第283話 孫権の酒

「やっと押し切れたか、これより江夏を落とす、攻城戦の準備をせよ。」

劉備の陣が堅固だった事もあり、思いの他時間はかかったが劉表軍を江夏に撤退させた事により周瑜は一安心する。

上陸拠点でもある夏口を得た事は戦略的に大きい、劉表軍の士気も低下している事だろう、ここで江夏に籠もった劉表軍の主力を叩けば劉表を滅ぼす事は簡単になる。

周瑜は城を囲み攻城戦に移っていた。


「流石は周瑜だ、この勢いだと江夏が落ちるのも時間の問題であろう。」

夏口の安全が確保された事もあり、孫権は江夏南の石陽に陣を移して攻城戦の行方を見守っていた。

そこに新野落城と陳宮軍が襄陽に向い軍を動かしていると陳宮軍に同行している黄蓋から使者が来る。

「なんと!陳宮殿は見事な物だ、新野が落ち、襄陽も狙われていると聞けば劉表軍の士気も下がるだろう、周瑜に知らせよ!劉表を討つのは時間の問題だ!

めでたい宴としようではないか!」

孫権はこの日、勝ちを確信して酒をあおる、これが悲劇の幕開けであった。


「御報告致します!西方、雲杜方向に襄陽に向かうと思われる軍あり、数およそ二千、その軍は黄祖の旗がたなびいておりました。」

昼から酒宴を開いた孫権の下に報せが届いたのは日が暮れる前であった。

「なんと黄祖が逃げておったのか!

よし、我が手にて黄祖を討つ!

全軍我に続け!」

孫権は酒の勢いもあり、血気に逸る。


「孫権様、周瑜殿は江夏を取囲み、すぐに軍を動かせませぬ。」

孫権の側に控えていた幕僚の歩騭孫権に進言する。

「歩騭よ、ならば本陣にいる軍を動かせば良いではないか!」

「孫権、本陣には一万しかおらんのに伏兵に合えばどうするつもりだ!」

老臣の張昭は孫権をキツく諌める、だがこの日は孫権の癇癪に触れる言葉であった。


「父孫堅、兄孫策が一万の兵を持てば、如何なる大軍でも打ち破ったであろう!

この私には出来ぬというつもりか!!」

「そんな事は言っておらん!

だが身を危険に晒す愚かな真似を止めろと言っている!」

「黙れ!誰が愚か者だ!張昭といえど許さんぞ!!」

孫権には酒乱の気があった、普段の孫権なら老臣の張昭の言葉に叱られれば、受け入れる度量があるのだが、酒が回っている孫権にそんな度量は無かった。

剣を向け張昭に怒りを向ける始末であった。


「孫権様、落ち着きください、張昭様も御身を心配してのお言葉にございます。」

歩騭が慌てて孫権を諌める。

「面白くないわ!周泰、凌統ついてまいれ!」

孫権は側近の武将を連れ、出陣していく・・・


「周瑜に連絡を入れろ!

孫権様の援護を致すのだ!」

残された歩騭は慌てて周瑜に連絡を取り対策を立てようとしていた・・・

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