第7話 曹操の娘

「ここは・・・」

気がつくと俺は知らない部屋の寝台の上で眠っていた。

「目をさましましたか?」

少女の声が聞こえるので俺は振り向くと濡れた布を持っている少女がそこにいた。

「君は・・・?」

「私は曹清と申します。」

「曹・・・まさか曹操の娘ですか!」

「ええ、曹操はお父様になります。」

「申し訳ありません、私のような者が曹清様の寝台を汚してしまうとは。」

俺はすぐさま寝台を降り平伏する。

「私が連れて来たのですからいいのです、それより早く横になってください、お医者様の診察ですと過労によるお風邪とのこと、今はお休みくださいませ。」

「いけませぬ、曹清様のお名前に傷がついてしまいますれば、私は早くお部屋から出なければ。」

まだ十歳ぐらいに見える少女ではあるが男を連れ込んだなどという風評はあまりに酷な風評になるであろう。

彼女の名誉のためにも早くこの場を立ち去らなければならない。


俺は礼もそこそこに部屋を出ようとするが。

「なりませぬ!私に恩を感じるなら今部屋を出る事は禁止です。」

曹清は俺にしがみつき寝台に向かうように促す。


「くくく、まさかこの歳で男を連れ込むとはな、さすが俺の娘だ。」

曹操は面白いものを見たかのように笑っている。

「お父様!」

「曹操見てないで止めろ、娘の、曹清様の名に傷がつくじゃないか。」


「名に傷などかまわん、俺の娘を傷物だと蔑むような奴に娘をくれてやるか。」

曹操にとって長女にあたる曹清は曹操にとって可愛い娘である。

だからこそ曹清には自分の意志で生きてほしいとも思っていた。

陳宮を気にかけ、治療をしたいというのなら好きにすればいい。


曹操は普通の君主ではなかったのだった。


「曹操、無駄な事で不必要に名を貶す必要はない、俺が部屋から出ればいいだけだ。

そうだ!曹操お前と一緒に出れば無駄な風聞も立たないだろう。

そうだそれがいい。」

「面白くないな。」

曹操はニヤリと笑う、真面目な陳宮が慌てるのが面白くなっていた。


「はぁ?」

「曹清よ、陳宮の面倒をしかと見るのだぞ。」

「はい、お父様。」

「陳宮は休んでいけ、そもそも一人にしても屋敷に戻してもゆっくり休まないだろう。

曹清、何としても陳宮を休ませるのだ。」

「わかりました、さあ陳宮様、寝台にお戻りください。さもないと兵士を呼んで寝かしつけてもらいますよ。」

「曹清様、まだ曹操と話がついておりませぬ。」

「ダメです、御身体が悪いのですからゆっくり休むべきです。

お父様とのお話は後日すればよいのです。」

俺は可憐な曹清を力ずくで引き剥がす事は出来ない。

勢いに押されるように寝台に戻される。

「陳宮、ゆっくり休め・・・

くくく、休まんでもよいがな。」

曹操の目はいたずら心に満ちている。


「おのれ曹操!はかったな!」

「騒いではダメですよ、さあ寝台に横になってください。」

俺は曹操に文句を言いつつも曹清の優しさに負け、寝台に横になる、身体の調子が悪かったのだろう、俺は横になるとそのまま意識を失うのだった。

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