第6話 正月

曹操の元に来てからいくらかの時間が経った。

俺は朝夕構わず、職務を遂行していた、日のあるうちは兵の調練に赴き、近隣の農地開発を推進し、日が暮れると帳簿をつけつつ、軍略を思索する。

そんな日々を過ごし、屋敷には一度も帰らなかった。


そして、正月を迎える。

さすがに城で行われる宴に参加するにあたり正装をする必要があり、屋敷に足を踏み入れる。

「陳宮、帰って来たのですね。」

貂蝉は嬉しそうに出迎えてくれる、見るとお腹が少しふくれていた。

「貂蝉様、もしや!」

「はい、呂布様の御子にございます。」

「それはめでたい・・・うん、めでたい事だ!」

俺は一瞬曹操がどう出るか考える、しかし、たとえどう出て来たとしても俺が守ればいいのだ。

俺は改めて決意を固める。


「陳宮には苦労をかけます。」

「いえ、殿の御子を守れるのであれば私が生き恥を晒しているかいもあるというもの。」

「陳宮、そのような事を言ってはなりません、そなたの行き方は恥などでは無いのです。

忠義の士、これ以外の言葉がありましょうか。」

貂蝉の言葉は優しい、俺の傷ついた心に染み渡ってくる・・・


「ゲッ、なんでいるのよ、さっさと姿を消して、もう正月から嫌な物を見たわ。」

貂蝉と話しているところに呂希がやってきたのだが、嫌そうな目を向けてくる。

「呂希様、おめでとうございます。」

俺は正月の挨拶をするのだが・・・

「めでたいわけないでしょ!

全くこれだから裏切り者は!さっさと城に行きなさい!」

「・・・わかりました。準備でき次第城に向かいます。」

俺は改めて暗い気持ちになる、未だに呂希の心は癒えることなく、裏切った俺の事が憎くてたまらないといった様子であった。


「陳宮、気にしないように、呂希はまだ子供なところがあるだけです。

あなたの頑張りは皆が知ってます。

どうか無理をしないように。」

貂蝉は陳宮の頬がかなり痩けて入ることに気付いていた、身体をいたわってほしい。

心からそう思っていたのだが・・・


「貂蝉、誰が子供よ、私はもう大人なの。

それに陳宮は頑張りが足りないわ、正月なのに屋敷はみすぼらしいままじゃない、もっと頑張って主たる私達に尽くしなさい。」

呂希はいうだけ言って屋敷の奥へと帰っていく。

「呂希様、それはあんまりです、陳宮気になさらないように私から厳氏様を通して呂希様にはよく言っておきますので。」

貂蝉は呂希を追いかける為に屋敷の奥へと向かっていく。


俺は身支度を整え、気の重いまま、城へと戻るのだった。


城では既に宴が繰り広げられ、許昌に在中している家臣達はみな盃を酌み交わし賑やかに過ごしている。

俺は挨拶を交わしつつ、用意されている席に座りチビチビ飲んでいたのだが、どうも身体の調子が良くない、少し飲むと咳き込み出す。

俺は場を雰囲気を壊さない為に何食わぬ顔で庭に出る。

「ゴホッゴホッ、いかんな、風邪か・・・」

庭の椅子に座り深呼吸する。

だが、頭が少しずつ熱くなっているような気がしてきた、外の寒さが心地よく感じる。


「大丈夫ですか?」

少女の声が聞こえる。

「ああ、大丈夫だ、少し酒に酔っただけです。

ゴホッゴホッ!」

「咳をしているじゃないですか、いいですかそこにいてください。」

少女は慌てたように駆けていくが俺はそのまま意識を失っていたのだった・・・

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